新年あけましておめでとうございます。

 バイオ産業をグローバルな視点で見れば、シンガポールから見た方が、アジアの状況が良く見えます。残念ながら、日本はアジアのバイオの中心には位置せず、多くのグローバル企業のエリア拠点(経営決定権)が日本以外の国に移動しています。それには、幾つかの理由があると思いますが、日本のバイオ環境のインフラをどう上手く活用するかを考えると日本においても、まだまだビジネスチャンスが見出せます。それには、アカデミアの存在は大きく、スタンフォード大学やハーバード大学で運用されているオープンイノベーションを日本国内のアカデミアでも活用することと考えます。

 私は、昨年12月、ベンチャー企業としては珍しい社会連携講座を東京大学に開設しました。

 この講座では次世代シーケンサ(NGS)を用いる微生物ゲノム研究をします。NGSは、半導体産業で例えられるムーアの法則以上の進歩を遂げています。半導体の進歩の成果は、スマートフォンに代表される成長産業です。同様にバイオにおいても、NGSを利用したヒトゲノム研究を行うか、或いは私たちのように「Microbiome」研究を行うかです。NIHが進めているHMP(Human Micorobiome Project)の1stフェーズ成果では、健常人には約800万の微生物が共生・寄生している事が判明しました。日和見感染で抗生剤が効かない耐性菌の対策はアンチバイオテックの視点で、待った無しの課題です。2013年の米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)の標語は「抗生剤の適正使用」でした。NGSでの微生物シーケンス情報は、感染する細菌を個別にプロファイルすることが可能であり、同じ黄色ブドウ球菌でもMRSAと非MRSAが混在している情報を得ることができます。また、同じMRSAでも個々の菌のDNA配列を元に医療感染を引き起こしたMRSAを追跡する事ができ、感染起因菌の封じ込めが可能になります。抗生剤耐性菌のゲノム情報は、新たな抗生剤開発の貴重な情報源になります。私たちは、今年から医療感染に関わる病原菌の大規模データベースを作成すると共に、臨床用途向け微生物情報ツール開発を行います。

 プロバイオティックの視点では、ヒトの皮膚表面、口腔内、腸管、便に生息している微生物のゲノム解析を実施し100万検体のデータベースを作成します。HMPでは、人種、環境、年齢により個々人に共生している微生物叢が異なる事が判ってきました。日本人におけるこのデータベースは新規な視点でのプロバイオテック製品(個々人に最適な乳酸菌飲料、特定保健用食品)開発を可能にします。

 米国ではHMPが昨年からNIH主導で第2フェーズに研究が進んでいますし、ホワイトハウスも全面的にバックアップしていますが、日本においては官民ともこの分野に対する関心は皆無です。しかし、この「Microbiome」は知れば知るほどバイオの成長産業としての可能性を秘めています。私たち単独では、大きな果実を手に入れることは難しく、2014年は私たちの目標に賛同し、行動を起こして頂ける方々が現れることを期待します。

 ヒューマンゲノムプロジェクトの成果の1つは、1000ドルゲノムに代表されるNGS開発でした。この開発は今後も継続します。それに伴う、膨大なゲノム情報をどう産業化するかを私たちはこの社会連携講座を基軸に進めます。