再生医療は、21世紀の革新的な医療システムとして、難治性疾患や機能不全に陥った組織や器官の根本的な治療として大きな期待を集めている。日本の優れた再生医学研究は、学術的な基礎研究としての高い価値を有するだけでなく、革新的な医療の創出に関わる基盤技術の創出や新規産業として高い経済効果が期待され、2013年には国策として重要課題に位置付けられた。

 その施策のひとつが科学技術振興機構による「再生医療実現拠点ネットワーク事業」である。疾患・組織別実用化拠点に加え、より高度な再生医療や産業応用を目指した技術開発がひとつのプラットフォーム上で進められる。さらに2013年11月には、iPS細胞を用いた医療の早期実現と再生医療の品質と安全性確保の観点から、再生医療安全性確保法と改正薬事法が成立した。2014年には、これらの法整備と規制緩和により民間企業やベンチャーの参入、事業化が加速し、具体化していくであろう。

 その一方で、「はたして再生医療産業化は実現するのか」との問いも多い。これまでの10年間、日本は幹細胞研究で世界をリードしながらも、再生医療製品はいまだ皮膚と軟骨の2品目。製薬会社や医療機器企業、ベンチャーなどの参入は十分ではなかった。しかしながら世界の再生医療製品についてもよく見てみると、皮膚と軟骨、骨の製品がほとんどであり、本質的な遅れはとっていない。実用化に向けた国による研究開発事業や法整備、規制緩和をどのように進めていくのか、これからの10年間、その真価が問われることになる。

 日本の再生医療産業における世界戦略としては、日本オリジナルで高品質(ジャパンプレミアム)、市場性から見ても十分に競争力のある再生医療製品の創出である。この戦略の中で、私が10年前に注目したのは次世代再生医療としての器官再生である。器官(臓器を含む)は、胎児期に発生し、胎児期の器官形成場に存在するそれぞれの器官の幹細胞が複雑な相互作用により、複数の機能的な細胞群へと分化し、立体的な細胞配置をとって形成される。器官再生の実現には、学術的にも大きなブレークスルーや、幹細胞の立体培養をはじめ様々な技術開発が必要であり、幹細胞による立体器官の製造をはじめ、その支援機器、関連製品など多くの技術要素があるため医療産業化に適している。

 器官再生医療の実現に向けた技術革新は、発生、再生原理の応用により、この数年間に飛躍的に進展した。私たちは、幹細胞から、胎児期にできる器官のもととなる原基を再生する技術開発に成功。生体内で歯や毛包、2013年には唾液腺や涙腺などの機能的な器官再生を可能とした。さらに理化学研究所、発生・再生総合研究センターの笹井芳樹グループディレクターらは、未分化なES細胞の三次元的な立体培養により、脳組織や眼杯、脳下垂体などの再生を可能とした。これらの革新的な器官再生技術が世界に先駆けて日本から発信され、器官再生で日本は世界をリードしている。2014年は、内臓諸器官をはじめ、幅広い器官再生に向けた研究開発が期待される。

 2014年、私たちは発生・再生研究において学術的にも革新的な研究開発を進めることにより日本の基礎研究力を高めていきたい。また一方で、これまでの基礎研究成果を、再生ベンチャーをはじめ民間企業と連携して再生医療の実現へとつなげていきたい。成体由来の幹細胞で実現可能な毛包再生医療は、自由診療領域であるものの薬事法に準拠した品質と安全性確保により開発することを目指しており、これにより自由診療の領域における再生医療を大きく転換できるだろう。器官再生医療のパイプラインには、疾患のみならず高齢化社会にも対応可能な歯や唾液腺、涙腺などが並んでいる。安全で高い効果を有する再生医療の実現と共に器官再生における治療システムやインフラの整備を通して、プレミアムのある日本オリジナルな製品開発に向けて新たな一歩を踏み出したい。