1996年に始まった遺伝子組換え作物商業栽培面積は、当初の170万ヘクタールから2012年にはその100倍の1億7030万ヘクタールに達した。2014年春には、2013年の数字が発表になるが、これをさらに越えるものになることは間違いない。ことに発展途上国(小規模農業生産者)のものが、発展途上国のそれを越えたことは大きなことであったと考える。すなわち、遺伝子組換え作物の技術は当初、先進工業国の、しかも大規模農業者にしか益をもたらさず、また環境にも悪影響を及ぼすものとして大きな反対があった。これらが全くの間違いであると証明されたことが昨年の大きな進展であった。

 農業などの一次産業は、予想できない自然の変化のもとで確実に生産をあげることができなければならない、厳しいものである。従って、農業生産者は確実な益がなければ決して新しい技術に飛びつくことはない。極めて保守的な立場をとっており、決して危険を冒してまで新技術に飛びつくことはないのである。このような見地からみると、ここまで遺伝子組換え作物が急速に増加したことは、全世界の農業者が、きわめて大きなプラスがあると優れたところを認めてきたからである。

 これに対して、我が国における遺伝子組換え作物及び食品に関する受容性は、あきれるほど低い。特に、その商業栽培は、北海道をはじめとする条例での禁止が大きく影響しており、我が国では栽培はできていない。一方、遺伝子組換え作物の輸入は非常に多いのが現実であり、しかも相当量が既に我が国で消費されている。つまり我が国の農産物の自給率が極めて低いことによるものでもある。

 例えば、我が国の大豆の自給率は5%程度である。トウモロコシに至ってはほぼ0%である。一方、それらの輸入先での遺伝子組換え体の栽培率を考慮すると、少なく見積もっても大豆なら70%が、トウモロコシなら81%が組換えと推定できる。ただし、大部分は家畜飼料になっているのが現状である。現在の畜産業はこれらの輸入がなければ成立しないのである。食用油もコーンスターチも同様と言える。

 最近、近くにイオン系列のスーパーマーケットが開店した。そこの菜種油は、「遺伝子組換え不分別」と表示され、しかも「遺伝子組換えなたねが含まれる可能性があります」と丁寧な追記までついている。値段は500g198円で、同等の他社製品は500g298円である。棚の面積は、ほぼ同じであるから同様な売れ方であると思われる。私は、当然遺伝子組換え不分別を買い、以来これを愛用している。また最近、米国の友人から「非遺伝子組換え製品に対するプレミアムが高騰している。これを払えるのは日本だけだが、米国農家の方も面倒なのであまり作りたがらない」ということを聞いている。一方、日本の食品メーカーの友人は、「非遺伝子組換え製品のプレミアムの高騰と円安の問題で非常に困っている」と言っている。どうして日本ではこんなに遺伝子組換えが嫌われるのか、ますますわからない。

 ヨーロッパも似た状況とみられるが、ようやく各国政府に組換え作物の利用に向かう動きが見えてきている。例えば、世界食糧賞受賞者であるGhent UniversityのMarc Von Montagu氏は、Vida Rural誌のSofia Frazoa氏とのインタビューで、遺伝子組換え作物・食品のリスクは、健康や環境に対する技術によってもたらされていないので、反対の基は純粋に感情的なものであると述べた。彼はまた、情報の不足は、バイオテクノロジーという面でヨーロッパ最悪の敵であり、彼の認識として、政策立案者との対話を増やすことが大切だと言っている。そして、EUに「安全性に関する科学的証拠が重ねられているにもかかわらず規制制度を継続的に強化している:EFSA(European Food Safety Authority)のポジティブな意見にもかかわらず意思決定を遅らせている:科学的根拠なしで禁止を発動している:いかがわしいバイオ研究を支援している」ということを趣旨とする公開書簡を出している。

 我が国は、「科学技術立国」を標榜している。それならば、もっと科学技術に対する正しい理解を推進するための教育が必要である。また2014年度の国家予算案をみると、国債の発行額は減少するものの消費税が上がっても新たな国債発行額が41兆円を超えている赤字予算である。我々は、これらのことにあまりにも無関心すぎるのではないだろうか? あるいは、日本人はあたかも金持ちのような間違いを犯しているとしか思えない。

 我が国の国家予算が赤字であることに無関心すぎるように思えてならない。私ごときが言うべきことではないのは承知しているが、あまりに我々国民が、政策や国策に無関心すぎるのではないだろうかと憂慮している。

 組換え作物・食品に関しては、国際アグリバイオ事業団理事長のClive James氏が3つのPを挙げている。P for Product(プロダクト:優れた大きなベネフィット)、P for Process(プロセス:科学に基づく適時な承認)、 P for Political Will (ポリティカル[政治的]意思:困難だが不可欠)を挙げている。これに並べるのは不適切な面もあるかもしれないが、今年赴任した米国大使Caroline Kennedy氏は、着任の話の中で、3つのCを行うと明言された。即ち、Commitment(やると決めること:公約、政策)、Communication(情報交換、意思疎通)、Cooperation(協力、共同)である。さすがJohn Kennedyケネディ大統領の血を引く政治家だと感心した。これもまた、今日の組換え作物・食品の理解促進や、国際協調に必要なことと改めて認識した。

 2014年は、是非とも3つのP、3つのCが進むことを願ってやまない。