皆さん、お元気ですか。

 やっぱり負けたのですね。早朝にバルサVSビルバオのゲームがあり、そんな重要なことが在りながら、浜松で開催されるSuper Imaging 2013の取材のため、早出せざるを得ません。玄関でビルバオが得点したというアナウンサーの叫び声を聞きました。残り20分で2点をとてもいれられるようなバルサの状態ではなく、良くて引き分けと長い後ろ髪を引かれながら、東京駅に向かいました。結果は案の定、0対1でビルバオが勝利、今シーズンのリーガエスパニョーラで初めてバルサに土をつけました。メッシの怪我がこれほど響くとは、バスク人の頑張りも刮目すべきでした。日曜日にサイバーダインの山海先生に、是非ともメッシの動きが再現できるロボットスーツが欲しいとねだったのも無駄になってしまいました。

 Super Imaging 2013では、光シート(シート状の光で照射する)ベース蛍光顕微鏡(LSFM)の開発者であるドイツFrankfurt-MainのGoethe大学Ernst H.K. Stelzer教授による発表に目から鱗が落ちました。照射光と観測レンズを直交させた蛍光顕微鏡により、光毒性を極力排除して撮像できます。このため、動物細胞のスフェロイドの増殖や植物の根毛の発生など生きたままサブ細胞レベルで連続観察可能です。再生医療の品質管理などに不可欠ではないでしょうか?

 次に、2013年11月20日から文科省が「研究活動不正行為への対応ガイドライン」の見直しに着手しました。学会を巻き込むようですが、米国のように研究公正庁は設置しない模様です。しかし、これだけ研究不正があり、しかも、製薬系は半分の論文の追試もできないというモラルハザードを、果たしてこんな甘っちょろいことで防げるのでしょうか? ガイドラインよりもまずは教育とブラックリストの作成に予算を投入すべきであると私は思っています。今までの取材から学会も派閥がらみの陰謀が多く、信用しかねるのが、誠に残念。日本の科学はこんなことで大丈夫なのでしょうか?ため息ばかりです。

 さてバイオです。

 先週の木曜日(2013年11月28日)は、バイオ産業の新しい記念日になると感じました。山形県鶴岡市の慶応義塾先端生命科学研究所からスピンアウト、鶴岡市で2006年に創業したベンチャー企業、スパイバーの組み換えクモ糸「QUMONOS」の工場が操業を開始したためです。実際には、愛知県豊田市の小島プレス工業が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて建設した試験工場です。月産100KgのQUMONOSを製造し、プレプレートまで試作する能力があります。今回の工場をスパイバーはプロトタイピングスタジオ(PS)と呼称しております。その心意気は、製品の試作までを行い、用途開発とQUMONOSの製造技術を改良することを表現したいということ。スタジオと敢えて呼ぶのは、ここでQUMONOSがいかに多様な可能性を持つ商品化を実証し、それを世界に発信しようという覚悟を現しています。

 スパイバーの技術の卓越性は、クモ糸、つまりたんぱく質性繊維の設計技術(物性以外に製造し易さなどもデザイン)から始まり、遺伝子操作による発酵生産⇒ 紡糸⇒ 評価⇒ そして更なるデザイン、今まではこのサイクルをぐるぐる廻すことでおよそ300種以上のクモの糸誘導体を合成するまでになっているのです。今回のPSの誕生により、実際のプロトタイプまで仕上げて、それを評価する、よりユーザーに近い価値を証明する第5のユニットが、クモ糸開発のフィードバックループの中に入ったのです。より現場のニーズに即した性能改善が行える場を得たのです。PSの中には、組み換え微生物を発酵する大型発酵タンクと精製設備が1系列、それを紡糸し月産100kg以上の糸を余裕で製造できるライン、そして出来上がった糸を並べ、エポキシ樹脂などを浸透させてプレプレートを製造するラインまであります。従来は糸が出来てもプレプレートにするには他の業者に依頼せざるを得ず、PSによってプロトタイプを製造する時間とコストを削減できます。そして何よりも、手元でプロトタイプの製法を自ら改善できることが、彼らに商品開発のスピードを与えます。工場内はまだ4分の1ぐらい空きの空間が残っており、様々な試作器機や評価器機を導入しそうです。また、工場の中央にはバイオの実験室も存在していました。製造業では分業が行き着くところまで行って、実は逆に非効率になっているのです。あらゆる機能が混在する工場ははっきりいって見たことはありませんが、まるでおもちゃ箱のようなPSこそが、未来の素材を生み出すスタイルを創造するのかも知れません。

 PSは敷地面積2500平方メートルでありながら床面積は1000平方メートルとコンパクトです。組み換え微生物によるQUMONOS製造は何よりも安全性を確保しなくてはなりません。地下には組み換え体の漏出を防ぐ万全の仕組みが構築されています。そのために、2.5倍の敷地が必要だったのです。勿論、山形県鶴岡市に工業用組み換え体の製造工場(LS1)が稼働するのは初めて、市民に対する細心の気配りを示したのです。総投資額は9億5000万円。NEDOが約4億4000万円、山形県が約1億2000万円をそれぞれ助成しました。

 2015年には、小島プレスとスパイバーが合弁企業を設立し、年産10トン規模の製造能力を持つ、パイロット工場を建設することも、11月28日に発表されました。スパイバーの快進撃は止まりそうにありません。

 但し、問題はコストです。特殊な用途では高コストでも需要があるでしょうが、スパイバーが狙っているのは環境に優しい素材産業です。既存の石油系の合成繊維やプラスチックの市場を奪うには、徹底的なコスト削減がまだまだまだ必要です。わが国大手繊維企業の担当者が近づいては耳元で「クモ糸は絶対コストに合いません。我々も検討しました」と良く囁いていきます。これは正しい大企業の態度ですが、イノベーションの対極にあるものです。だから繊維産業は長期低落現象から離脱できない。今は到底無理という難問に挑戦するからこそ、ベンチャー企業、スパイバーの真価があります。袋小路に入った日本の製造業に喝を入れるためにも、これから彼らが尻込む無理に挑戦する血のにじむような努力を正々堂々としていただきたい。そして大企業も度量を見せて応援すべきです。

 小さなイノベーションの灯は鶴岡に点りました。是非とも、燎原に燃え盛る炎まで育てて参りましょう。

 今週もどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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