こんにちは。毎月第1金曜日と第3金曜日、第5金曜日の日経バイオテクONLINEメールの編集部原稿を担当しております日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長の河田孝雄です。

 今回はまず、日本時刻で10月31日3時にNature誌で発表された論文の話題から紹介します。東京大学医学部教授の門脇孝さんらが、「内臓脂肪と動脈硬化症を直接繋ぐ善玉分子」であるアディポネクチンと同じ作用を示す低分子化合物を見いだしたという成果を論文発表しました。

[2013-10-31]
アディポネクチン受容体を活性化する低分子化合物を東大がNature誌で発表、
「オールジャパンで最速開発を」と門脇教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131031/171784/

 この記事の中で紹介しましたが、今回の論文で、Nature誌(2012年インパクトファクター38.597)における門脇グループのアディポネクチン関連論文の発表は3報目になりました(03年6月、2010年4月と今回の2013年10月)。

 Nature姉妹誌のNature Medicine誌(同22.864)も3報あります(01年8月、02年11月、07年3月)。この他にCell Metabolism誌(同14.619)でも2報発表なさってます(2011年2月、2013年2月)。

 世界中で注目され続けているアディポネクチン受容体の研究を、門脇さんらがリードし続けてきたことを反映しています。

 論文発表のときに開かれる記者会見にはできるだけ参加して記事をとりまとめていまして、日経バイオテクONLINEで以下のような記事を掲載しています。

[2012-5-17]
糖尿病学会でインクレチン発表が24%占める、
「AdipoRアゴニストで一網打尽」と門脇理事長
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120517/161102/

[2010-4-1]
アディポネクチンは筋肉内で運動と同様の効果、東大の門脇孝教授らが
Nature誌に発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9919/

[2007-7-11]
東大門脇孝教授、窪田直人助教ら、末梢で善玉のアディポネクチン、
中枢では食欲を促進
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/5500/

[2007-2-8]
東大門脇教授ら、アディポネクチンのインスリン抵抗性改善機序を
マウス個体で解明
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/1958/

 今回の記者会見で「アディポネクチンは、大阪大学の松澤佑次さん(現阪大名誉教授、住友病院院長)が発見し、アディポネクチン受容体は我々が突き止めた。アディポネクチン受容体を活性化する低分子化合物を、大学発の研究によりファーストインクラスで開発できた。これからアカデミア主導の創薬を進め、アディポネクチン受容体アゴニストを最適化してベストインクラスに育て、健康長寿社会に向けた臨床応用を実現したい」と門脇教授はお話しでした。抗肥満薬ではなく、肥満関連疾患を治療・予防できる薬剤の開発を目指していることも、強調なさいました。

 それで今回の記事とりまとめに当たり、改めて「adiponectin」の論文をPubMedで検索し、記事とりまとめに反映しました。

 ただいま改めてPubMedで「adiponectin」を検索したところ、11702報の論文がヒットしました。

 このうち、歴史上の最初の論文は93年で、やはり日本発でした。現在は京都大学大学院農学系研究科教授の河田照雄さんらの論文です。「アディポネクチン」という名称はこの論文に登場していないようですが、脂肪細胞がさまざまな生理活性物質を作るのだというコンセプトを、世界で初めて示した論文のようです。

11702.
Level of preadipocyte growth factor in rat adipose tissue which
specifically permits the proliferation of preadipocytes is affected by
restricted energy intake.

Aoki N, Kawada T, Sugimoto E.
Obes Res. 1993 Mar;1(2):126-31.
PMID: 16350568

○河田照雄さん
[2013-4-30]
栄養・食糧学会賞に河田照雄教授と佐藤隆一郎教授、鳥居邦夫代表取締役、
5月24日に受賞講演
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130430/167709/

 次いで、アディポネクチンの分子特定で大きな貢献をした論文は96年です。

11700.
cDNA cloning and expression of a novel adipose specific collagen-like
factor, apM1 (AdiPose Most abundant Gene transcript 1).
Maeda K, Okubo K, Shimomura I, Funahashi T, Matsuzawa Y, Matsubara K.
Biochem Biophys Res Commun. 1996 Apr 16;221(2):286-9.
PMID: 8619847

 この論文の共著者の皆さんが全員、現在でもバイオテクノロジー、ゲノム、肥満研究で活躍なさっている方ばかり、というのがすごいと思います。

 大阪大学の前田和久さん、国立遺伝学研究所の大久保公策さん、大阪大学の下村伊一郎さんと船橋徹さん、阪大名誉教授で住友病院長の松澤佑次さん、阪大名誉教授でDNAチップ研究所取締役名誉所長の松原謙一さんが共著者です。

 10月半ばの第34回日本肥満学会では、会長を務めた門脇さんをはじめ、松澤さん、下村さん、船橋さんらが座長などとしてもご活躍でした。

[2013-10-16]
日本肥満学会、新理事長に春日雅人氏、倫理・COI委員会を新設
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131016/171481/

[2013-10-16]
肥満学会、カプシノイドやγオリザノール、ダイゼイン、カンタキサンチンなど
機能性成分の発表相次ぐ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131016/171482/

 共著者の方々の最近の日経バイオテクONLINEの記事などを以下に紹介します。

○前田和久さん、下村伊一郎さん、松原謙一さん
[2010-9-1]
阪大医の前田和久准教授ら、再生医療技術でテーラーメードの現代版食養生
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/3432/

○大久保公策さん
[2012-1-1]
新春展望2012 教条主義と実利主義
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120101/158842/

○船橋徹さん
[2006-10-27]
第27回日本肥満学会、「メタボリックシンドロームの対策はCO2の削減と同じ」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/9801/

○松澤佑次さん
[2010-10-1]
日本肥満学会の理事長を退任する松澤佑次氏が「2010理事長提言」を発表、
基礎は「エピジェネティクスによる分析」を追加、
新理事長は中尾一和京大教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/4044/

○松原謙一さん
[2010-7-14]
DNAチップ研究所の的場亮・新社長に聞く、「診断サービスの内容拡大を図る」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/2404/

 ヒト遺伝子のボディマッピングの成果の代表の1つの論文かと思います。

 阪大教授の船橋さんの研究室のウェブサイトに、この研究の経緯が記してありますので、以下に紹介します。

大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 第3研究室
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/endmet/www/home/labo3.html

(以下、リンク先からの引用です)

 1990年代の松澤佑次教授時代には、「内臓脂肪型肥満」の病態形成に分子基盤を見出す目的で、大阪大学細胞工学研究センターとの共同研究のもと、脂肪組織の蓄積部位別大規模発現遺伝子解析を行いました。その結果、従来エネルギーを蓄えているだけの組織と考えられていた脂肪組織が「アディポネクチン」をはじめとする「多彩な分泌蛋白遺伝子」を発現している巨大な「内分泌臓器」であるという新知見を得ました。このような脂肪細胞分泌因子を「アディポサイトカイン」と総称し、内臓脂肪蓄積時に生じる病態形成の分子基盤としてアディポサイトカインの分泌異常の存在を明らかにしました。

 1997年 未来開拓研究に採択され、ヒト脂肪組織から発見した新規分子「アディポネクチン」や「アクアポリン・アディポース」などに関して、基礎的・臨床的研究成果を発表し、「内臓脂肪の分子機構」として2001年ベルツ賞を受賞するに至りました。

 2002年4月からは、船橋徹をグループリーダーとした「アディポサイエンス研究室」が独立・誕生しました。メタボリックシンドロームの病態解明には、脂肪細胞(Adipocytes)を科学(Science)することが必須であることから「Adiposcience」 という名称にしました。2003年から5年間、特定領域研究「アディポミクス、脂肪細胞の機能世界と破綻病態の解析」に採択され、さらなる研究を行うことが出来ました。
(ここまで引用です)

 そしてアディポネクチンの重要性は、松澤さんらの99年のCirculation誌の論文で、世の中に知れ渡ることになったようです。

11690.
Novel modulator for endothelial adhesion molecules: adipocyte-derived
plasma protein adiponectin.

Ouchi N, Kihara S, Arita Y, Maeda K, Kuriyama H, Okamoto Y, Hotta K,
Nishida M, Takahashi M, Nakamura T, Yamashita S, Funahashi T,
Matsuzawa Y.
Circulation. 1999 Dec 21-28;100(25):2473-6.
PMID: 10604883

 さて今回のメールでは、先週の土曜日(10月26日)と翌日曜日に広島大学で開かれた第3回ゲノム編集研究会の話題も少し紹介します。

[2013-10-28]
広島の第3回ゲノム編集研究会に200人、広島大と徳島大の副学長があいさつ、
学会発足へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131028/171689/

鳥取大と広島大、千葉大など、人工染色体とゲノム編集で薬物代謝ヒト化実験動物
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131028/171712/

エーザイ、CRISPR/Casゲノム編集プラットフォームを構築、iPSにも適用
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131028/171690/

 とにかく2013年初めに本格デビューしたCRISPR/Cas技術が、あっという間に普及し ていることにびっくりしました。近く、日経バイオテクの特集記事で紹介します。

 企業からも30人ぐらいの方々が参加していたようです。ゲノム編集という画期的な技術を産業利用するには、ゲノム編集ツール関連の知的財産の明確化がとても重要という指摘を多くの企業からうかがいました。

 国産技術のPPRたんぱく質の成果発表も、今回の研究会でとてもおもしろかったです。こちらは記事とりまとめ中です。ただいま「日経バイオ年鑑2014」の編集作業が大詰めで、記事への反映が遅くなりがちです。

[2013-4-24]
九大と広大、DNA結合型PPRたんぱく質の特許を出願、ゲノム編集の国産技術開発へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130424/167621/

 3つ目の話題は、10月30日に文部科学省と科学技術振興機構が採択結果を発表した「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」。1拠点当たり年間最大10億円で最長9年間という大型の産学官連携プログラムで、申請総数190件の中か ら12件がCOI中核機関に採択されました。

 申請機関である大学側の分析は以下の記事に少しまとめました。プロジェクトリーダーを務める企業側では、パナソニック、東芝、日立製作所など大手電機企業名が複数の拠点にあることが目立ちます。日本経済新聞の11月1日の朝刊では、電機 大手の業績が底入れしたことを、トップで報じています。

[2013-10-30]
文科省とJSTがCOI STREAMの採択結果を発表、旧7帝大のうち北大のみトライアルに
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131030/171782/

[2013-10-30]
川崎市「スマートライフケア社会変革先導ものづくり」が文科省COI STREAM採択、
リーダー2人は東大教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131030/171783/

 詳しくは、文部科学省のウェブサイトなどでご覧ください。

革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)
「今の夢。10年後の常識。新しい未来を作りたい。」
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/coi/index.htm

 なお、COI STREAMの施策と関連性が高いとされる、文科省の「地域資源等を活用した産学連携による国際科学イノベーション拠点整備事業」(2012年度補正予算で予算総額500億円)で2013年3月に採択された15件からは、およそ半分ぐらいが今回のCOI STREAMの中核拠点に選ばれたようです。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/03/1331514.htm

 上の記事で紹介した川崎市と、北海道大学も、このイノベーション拠点整備事業に採択されていました。COI STREAMも、イノベーション拠点整備も、参加する企業名などがたくさん記載されています。文科省のサイトでご覧ください。

            日経BP社 医療局 先進技術情報部
            日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長 河田孝雄

※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html