久しぶりにGreenInnovationメールでお目にかかります、日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長の河田孝雄です。

 この1カ月前ほどから、再来月(12月)に発行する予定の「日経バイオ年鑑2014」の編集作業に注力しております。そんな中、この編集作業でもたいへん参考になる書籍が最近、登場しました。

 国際文献社が9月に発行した書籍「新しい植物育種技術を理解しよう」です。
http://www.bunken.co.jp/item/2174/

 たいへん嬉しかったので、今週月曜日の日経バイオテクONLINEの記事でも、少し紹介しました。

[2013-10-21]
新育種技術NBTの科学的情報共有WSをOECDが2014年2月に開催、
農水省がOECDと共同提案
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131021/171564/

 NBTとは「New Plant Breeding Techniques」の略称です。

編著者は、筑波大学の江面浩教授と大澤良教授で、日本学術振興会の植物分子デザイン第178委員会が監修しています。

 NBTの議論すべき項目として欧州連合(EU)は07年に、人工ヌクレアーゼ、オリゴヌクレオチド指定突然変異、シスジェネシス/イントラジェネシス、RNA依存性DNAメチル化、接ぎ木、逆育種、アグロインフィルトレーション(アグロバクテリウム浸漬)、合成ゲノムの8技術を掲げました。上の書籍は、このうち合成ゲノムを除く7技術について紹介しています。

 このうち人工ヌクレアーゼや接ぎ木などは1年半前の日経バイオテクの特集記事で少し紹介しました。

[2012-5-8]
日経バイオテク5月7日号「特集」、農作物の新しい育種技術
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120508/160912/

 このNBTが、遺伝子組み換え作物を含む遺伝子組み換え生物の規制法であるカルタヘナ議定書でどのような扱いになるか、注目が集まっています。この議定書では、遺伝子組み換え生物は「モダン・バイオテクノロジーを使って作り出された新しい遺伝的組み合わせを持った生物」と定義されており、NBTで作製された新植物の多くはこの定義の範囲に入ると考えらることもできます。その一方で、NBTによって作り出される新植物は、開発の過程で遺伝子組み換え技術を使用することがあった場合でも、最終産物の段階では遺伝子組み換え技術を使用した痕跡が残らない場合があります。

 組み換え技術を使用したことが判別できない新植物に対して、カルタヘナ議定書をそのまま適用することの是非も、論点になっています。NBTで作製された新植物が、どのようなカルタヘナ議定書の規制対象になるかどうかにより、NBT作製新作物の評価に必要なコストとスピード、それに商業生産するときのコストが大きく異なってきます。

 5年ぐらい前だったかと記憶していますが、日本の公的な水産研究試験場で、遺伝子組み換え魚を飼育(養殖)する施設を取材する機会がありました。大分古くなってはいましたが、閉鎖性を高めた立派な施設で、廃水の処理などにも万全を期しているとのことでした。

 しかし、建設費(減価償却費)も運転費も、通常の養殖に比べ、格段に高いコストが必要なことは、すぐ分かります。

 藻類バイオエネルギーの話題の記事などでも触れましたが、カルタヘナ議定書や京都議定書を批准していない米国は、国家間の産業競争力という観点ではやはり"賢い選択”をしているのでは、と感じたものです。

 このような中、経済協力開発機構(OECD)は、NBTの科学的情報を各国で共有するためのワークショップ(WS)を2014年2月10日にフランスのパリで開催します。実は、日本の農林水産省がOECD事務局と共に提案したもので、OECDバイオテクノロジーの規制的監督の調和に関する作業部会で2013年4月に合意されました。

 この合意を受け、農水省は2014年度予算の概算要求で新規項目「新育種技術に係る科学的な評価手法等の国際的な調和促進」で、2200万円を盛り込んだ。OECDに拠出し、事業実施期間は2014年度から2018年度を見込んでいます。

 NBTに係る情報共有や環境影響評価手法等の国際的な調和の促進を図ることにより、日本の種苗企業や公設試験研究機関等によるNBT技術を用いた強みのある新品種開発を促進したいとしています。

 農水省の担当部署は、大臣官房国際部国際協力課と国際経済課、それに農林水産技術会議事務局技術政策課です。

 2013年10月12日には、鹿児島大学で開かれた日本育種学会2013年度秋季大会第55回シンポジウムで「NBTの現状と未来への展望」と題したシンポジウムが、NPO法人国際生命科学機構ILSI Japanの共催で開かれました。欧米からは、欧州委員会(EC)Joint Research Centre先端科学技術研究所のLusser Maria博士と米Dow AgroSciences社のRudgers Gray博士の2人が登壇しました。シンポジウムの主任は、筑波大学生命環境系の江面浩教授が務めました。

 繰り返しになりますが、NBTの技術内容についてはぜひ、書籍「新しい植物育種技術を理解しよう」をご覧ください。いうまでもないことかとも思いますが、この書籍の発行で、筑波大の研究者の方々は大きな社会貢献をなさっています。

 最後に、組み換え農作物と関連する世界初の日本の成果を紹介します。

 遺伝子組み換えイチゴで生産するイヌインターフェロンが、動物薬として承認されたという朗報が、先々週の末に産業技術総合研究所とホクサン(北海道北広島市)などから発表されました。

http://unit.aist.go.jp/bpri/jp/special-PF4.html
http://www.hokusan-kk.jp/info/index.html

 産総研は、新しい医薬品開発技術として、植物の遺伝子組換え技術による医薬品原材料生産技術の開発を実施し、医薬品原材料を作る遺伝子組換え植物の栽培・生産方式として「医薬品原材料生産のための完全密閉型遺伝子組換え植物工場」を世界に先駆けて開発しています。

 この技術を活用して、産総研とホクサン、北里第一三共ワクチンが共同開発してきたイヌ歯肉炎軽減剤「インターベリーα」がイヌ用歯肉炎軽減剤として製造販売承認申請が認可されました。インターベリーαは、イヌインターフェロンを発現させたイチゴ果実が原料です。

 遺伝子組換え植物体そのものが動物用医薬品として承認されるのは世界で初めてです。組み換えイチゴ栽培の現場である産総研の北海道センターにも、この施設の完成前にうかがったことがあります。

[2012-2-20]
ノーステック財団の密閉型植物工場、遺伝子組み換え植物による物質生産を実証研究へhttps://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120220/159649/

[2009-4-8]
世界初の遺伝子組み換え植物工場、作物選択にミソ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1219/

[2009-3-31]
「イチゴ工場」の年間インターフェロン製造能力、イヌ歯周病薬160万頭分に相当
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1026/

[2006-1-20]
産総研、北里研究所、組み換えイチゴで生産したインターフェロンで
イヌの歯周病治療効果確認
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/4284/