こんにちは。毎月第1金曜日と第3金曜日、第5金曜日の日経バイオテクONLINEメールの編集部原稿を担当しております日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長の河田孝雄です。

 昨日(10月17日)と今日は、東京大学本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで開催の日本食品免疫学会第9回学術大会を取材しています。別の取材のため途中で参加できていない時間帯もありましたが、とりあえず2つ記事まとめました。

[2013-10-17]
インフルエンザ対策にプロバイオティクス、
食品免疫学会で明治と雪印、カゴメが発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131017/171504/

[2013-10-17]
第9回日本食品免疫学会学術大会が開幕、
明治や雪印、日本ハム、マルハニチロなど発表企業は16社
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131017/171500/

 これらの記事とは別に今日のメールでは、昨日の同学会のシンポジウム1「ライフステージにおける免疫研究の新展開」で4人のアカデミア研究者が発表した内容の一部を少し、紹介します。

 学会取材の一番の醍醐味といえるのかもしれませんが、発表した方々が、お互いの発表内容で啓発を受けたと話している現場を、拝見することがあります。

 昨日のシンポの中から1つ例を挙げますと、「酪酸」が腸内環境や粘膜免疫で注目の成分のようです。論文発表前の内容もあるので、少しだけ紹介するようにします。

 東京大学医科学研究所の長谷耕二特任教授は「腸内発酵産物による粘膜免疫系のエピジェネティクス制御」という演題名で、シンポジウムの2番目に発表しました。

 順天堂大学医学部免疫学講座の三宅幸子教授は「腸管免疫を介した神経・免疫・内分泌のクロストーク」という演題名で4番目に発表しました。

 他の2つの発表もたいへんおもしろかったのですが、今回のメールではこの2つの講演について紹介します。有機酸、短鎖脂肪酸の1つである「酪酸」が、腸内細菌の働きにより消化管で生成することが知られていますが、この酪酸が、重要な役割を担っていることが、長谷特任教授と三宅教授の講演で分かりました。

 アカデミア研究者の研究業績を客観的に評価する指標として、論文の被引用数がゴールドスタンダートになりうることは、ノーベル賞予測がよく的中することからも、皆さんご存知かと思います。

 免疫学分野は、基礎研究分野では、この論文の被引用数が多い代表的な分野ではと思います。一例を挙げると、大阪大学の審良静男教授/IFReC拠点長が、論文の被引用数という指標でも、特筆すべき業績を挙げています。

 ただいま調べてみたら、発表論文数は898、そのうち被引用数が記録されている論文数は896、被引用数の合計は10万3053、論文1報当たり平均被引用数は約115、hインデックスは158、という数値を確認できました。

http://www.researcherid.com/rid/C-3134-2009

 このうちhインデックスは、1つの数値で、論文業績を評価しやすい指標として知られています。5年ぐらい前でしょうか、hインデックスは20がアカデミア研究者として一流であることを示す1つの指標と考えられていました。その後、論文数と論文の被引用数はご存じのように急増していますので、今は30ぐらいと考えたほうが良いのかもしれませんが。

 それにしても、審良教授のhインデックス158というのは、驚異的と思います。被引用数が158以上の論文数が158ということを意味します。

※日経バイオテクONLINEの関連記事および無料メール
[2013-9-25]
Thomson Reuters社が12回目の引用栄誉賞を発表、
28人のうち日本人は大隅良典氏、水島昇氏ら3人
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130925/171069/

[2013-7-19]
特別教授、主幹教授、シニア教授、卓越研究者と大学の研究力・経営強化
【日経バイオテクONLINE Vol.1910】
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130719/169705/

[2013-7-16]
阪大が特別教授10人を選任、制度導入は東北大と九大、静岡大、岐阜大に続く
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[2013-7-4]
日経バイオテク7月1日号「リポート」、国際競争力強化への大学の挑戦
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130704/169410/

[2013-6-28]
【機能性食品 Vol.99】成果発表リリースのタイムスタンプ、
学術誌のインパクトファクター
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130628/169296/

[2013-5-8]
日経バイオテク5月6日号「リポート」、
アカデミアの研究者情報オープンアクセス
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130508/167818/

 免疫学の進歩は目覚ましいことを、このようなシンポジウムの取材でいつものように感心します。実際に、発表なさる研究者の皆さんは光り輝いています。

 今回シンポジウムで発表した東大の長谷さんは、特任教授に就任したのが2012年4月で、順天堂大の三宅さんは教授に就任したのが2013年6月です。長谷特任教授はそれまで理化学研究所に所属していました。三宅教授はそれまで国立精神・神経医療研究センター神経研究所の室長を務めていました。お2人の教授とも、今後ますます論文の発表などにより、日本の基礎科学の強化への貢献は大きいといえそうです。

 免疫学の分野では新しい分子や細胞、分類などの役者が次々と登場し、それまで謎だったことが分かった、という論文が発表されています。取材する立場としてはその都度、ワクワクするので良いのですが、ちょっと気になるのは、エビデンスを集積した論文データベースへの影響です。

 レベルの高いトップジャーナルなどでの論文発表は、学会発表などと異なり、その時点での最新の知見を、定着させるという大きな意義があります。

 しかし発展・革新が目覚ましい分野ほど、過去の実験結果は、再評価すべき点が新たに生じることになります。

 つまり、論文発表は固定されるが、発表論文の評価は学問の発展・革新とともに進化・更新する必要が出てきます。

 ひごろ取材している食品の健康機能性の分野では、再来年の2015年4月に、新たな健康機能性表示制度が始まることが閣議決定されまして、表示していいのは「科学的根拠」がある健康機能性です。

 課題は、科学的根拠(エビデンス)の中身です。エビデンスのレベルが、学問の発展・革新とともに変化します。確立したと思っていたエビデンスが、その拠り所となる理論の発展・革新により、エビデンスのさらなる更新を求められることになります。場合によっては激変する、「覆る」といったことも無いとはいえない、というか、いわば必然。「砂上の楼閣」になりかねないのではと思います。

※関連記事
[2013-10-8]
「産業競争力強化法でグレーゾーンを解消する。
サプリメントは多分、経済産業省が担当」と加藤内閣官房副長官
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[2013-9-10]
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https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130910/170787/

 もちろん、良質な大規模介入ヒト試験や、そのメタ解析の結果は、大きく変動することはないのではと思いますが、バイオテクノロジーの進展が寄与するメカニズムの解析は、学問の発展・革新により、再評価が必要になるといえます。

 そんな訳で、科学的根拠(エビデンス)の発展・革新についてひごろ取材に注力し、報道を続けています。

           日経BP社 医療局 先進技術情報部
           日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長 河田孝雄

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