こんにちは。1週おきにこのメールを担当しております、日経バイオテク記者の増田智子です。

 10月だというのに大型の台風が来てしまいました。このメールを書いている時点では被害の全容が分かっていません。都内では雨は朝8時には止んだものの風が強く、道を歩いていて、前方のビルから大量の水が落ちてきたと思ったら砕けた窓ガラスでした。直下に誰もいなかったのは本当に運が良いことでした。

 さて、先週には横浜でBioJapanがあり、いろいろな国の人が来日していました。6月に取材した(https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130627/169237/)カナダのトロントにある研究成果実用化機関、MaRS InnovationからもプレジデントのRafi Hofstein博士が来ていたので追加取材をしてきました。

 というのも、上記の記事に「他の技術移転機関(TLO)と何が違うの?」という疑問が出ていたからです。これに対する答えは「標準的なTLOは、1つの研究所・大学のみの技術を扱っているが、MaRSは16の大学・病院・研究所をまとめて面倒を見ているので、より多くのアイディアを集められる」というものでした。

 同博士は「様々な技術を束にして実用化できる」、という点を特に強調していました。現在、研究室や医療現場で使われている技術は、複数の発明の組み合わせなので、いくつかの要素から優れたものを生み出す、というのは理屈の上では正しい考えです。日本でも科学技術振興機構(JST)の革新的イノベーション創出プログラム(COI-STREAM https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130613/168946/)が類似の計画を立てています。このプログラムでは、研究者が出した提案を「目利き」がマッチングして共同研究を進める、とのことです。

 JSTのプログラムとMaRSを比べると、MaRSの方がより実用化に近いフェーズを担当しているようです。研究成果の受け皿としては、MaRSの投資によりベンチャーを起業させており、また製品を発売するための布石も打っています。例えば、MaRSでは医療関係の研究成果を多く扱っているため、実用化のためには規制(薬事承認と保険収載)をクリアしなければなりません。これには地元(オンタリオ州)政府の支援を取り付けてあり、例えばMaRS発ベンチャーの1つであるApneaDx社という会社が近日発売予定の睡眠時無呼吸症候群の検査用のマスク(http://marsinnovation.com/company/apneadx/)は、地元の健康保険組合を運営しているオンタリオ州が購入することになっているそうです。発売前から顧客が決まっているのはベンチャー企業にとってはありがたいことです。同社は小規模な市場でテストをしながら、販路を拡大していくつもり、とのことでした。日本で、文部科学省のプロジェクトの成果が厚生労働省の協力をどの程度得られるか、と考えると、彼我の違いは大きいです。

 ちなみに、Hofstein博士の今回の来日の目的は、個別化医療の分野における日本でのコラボ先を探すこと。「共同研究を通じて、様々なアイディアの実用化を加速したい」とのことでした。

                        日経バイオテク 増田智子

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