皆さん、お元気ですか。

 楽天ジャパンオープン二連覇を期待されていた錦織選手は故障のため、敗退。同年代の彼のライバルである2mを超す長身選手、デロポトロ選手が優勝しました。素晴らしい才能に恵まれ過ぎた錦織選手は、肉体の限界の壁に直面しています。是非とも、もう一度身体を作り直し、今年のナダル選手のように復活することを望んでいます。全豪オープンまで2カ月も休める、今しかそのチャンスは残されていないのです。

 まず宣伝を。10月9日(今週木曜日)から開催されるBioJapan2013です。今回は海外からの参加も充実、過去最多を記録する勢いです。下記のサイトから詳細にアクセスの上、どうぞご登録願います。ウェブで登録すれば展示会入場料5000円も無料となる大盤振る舞いです。また、既に満員札止めになっているセミナーも出て参りました。どうぞ下記よりアクセスの上、お早めにお申し込み願います。

http://www.ics-expo.jp/biojapan/main/

 今週から、宮田満が執筆するメールと記事を有料化する新サービスを開始いたします。月曜日の日経バイオテクONLINEメールは、全文をメールでお読みいただく方式から、一部だけメールでお読みいただき、残りはWEBサイト「Webmasterの憂鬱premium」でお読みいただく方式に変更、また個の医療メールは日経バイオテクONLINEメールに衣替えして、毎週木曜日に送信いたします。サイトの閲覧には、会員登録が必要となります(日経バイオテクONLINEの会員の方は、同じIDとパスワードでログインが可能です)。

 今月は全文無料にてお読みいただけますが(お手数ですが、登録は必要です)、11月1日からは課金いたします。但し、毎月第1月曜日は従来通り、メールで全文がお読みいただけます。持続的に皆さんに質の高いバイオニュースやビジョンを提供するために、誠に厚かましいお願いで恐縮ですが、新しいビジネスモデルに是非ともご賛同、ご協力願います。

https://bio.nikkeibp.co.jp/wm/

 さてバイオです。

 今週の日曜日に、東京大学大学院医学系研究科神経病理分野教授・J-ADNI主任研究者の岩坪威先生のお話をじっくりうかがうことができました。アルツハイマー病の治療のために、βアミロイド仮説に基づいた新薬開発が、昨年相次いだフェーズ3臨床試験の失敗にもかかわらず粘り強く継続されています。現在の希望は、新薬による予防介入を痴呆が発生する前の段階で行えば、治療・予防効果が証明できるのではないか?という仮説ですが、この治療介入を対象とする軽度認知障害(MCI)という疾患概念には重大な問題があり、アルツハイマー病の治療・予防薬開発の落とし穴になりかねないと思いました。

  MCIの定義は、物忘れなど軽度な認知障害で、日常生活には支障がないもの。極めて文学的な定義です。実際には、エピソード記憶試験で軽度の認知障害を計測するのですが、こんな曖昧なことで大丈夫か?心配です。何かMCIの指標となるバイオマーカーの発見が不可欠ではないかと考えます。多分、この程度の認知障害は私を含めた読者の大部分も体験するものです。しかも、私の体験ではこうした認知機能は、調子の良い日と悪い日のように、絶えず変動いたします。揺らぎつつある微妙な認知障害の差を、有意差を持って検証するためには、創造を絶する数の患者さんを臨床試験に動員しなくてはなりません。しかも、長期間の観測も不可欠であり、臨床試験のコストは膨大に膨れあがると懸念されます。

 現在、米国で500万人、我が国では400万人以上と言われるアルツハイマー病患者が必要とする医療・介護・労働力損失のコストは、全世界で6040億ドルと推定されています。アルツハイマー病の発症を5年遅らせることができれば、我が国でも2.5兆円/年(2020年度推定)の負担を削減できるという計算もある位ですが、民間企業だけでアルツハイマー病の予防・治療薬を開発することはもう限界に近づいているのではないでしょうか?

 解決策は2つ。第一は当たり前のようですが、政府の臨床開発に対する支援です。がんに次いで、アルツハイマー病が、高齢化が急速に進む我が国の国民病になることは避け得ません。この患者を介護する人材も必要であり、高齢化社会で老老介護がもう現実となっている我が国で、減少しつつある労働力を更に減少させてしまう原因とも成りかねません。米国は2012年5月に国家アルツハイマー病計画(National Altzheimer Disease Plan)を発表、今年6月にそのアップデート計画を発表しました。この国家計画によって、2012/13年度は8000万ドル、そして13/14年度は1億ドルの政府予算が、アルツハイマー病の研究に投入されます。

http://aspe.hhs.gov/daltcp/napa/NatlPlan2013.pdf

 ここで焦点が当てられているのは、MCIではなく、まずは遺伝的に早発性のアルツハイマー病遺伝子を持っているが、まだ認知障害を発症していない健常人が対象です。一つは南米コロンビアに存在するプレセニリン1(βアミロイドを前駆体から切り出す酵素)遺伝子のE280A変異を持つ家系を対象に、米Genentech社が開発中の抗βアミロイド抗体crenezumabを投薬する試験です。昨年から着手しており、30代という極めて若く発症し、病態の進行も早い患者群で、認知障害の進行を抗βアミロイド抗体による脳内のβアミロイド蓄積やそのオリゴマーの毒性を中和することによって、予防し得るかが検討されます。

 もう一つの試験は欧州、米国、豪州の、優性遺伝する家族性アルツハイマー患者群を対象とした臨床試験です。米Eli Lilly社とスイスRoche社が抗βアミロイド抗体を提供、認知機能の低下防止を臨床試験(DIAN)によって確かめます。我が国でも現在、遺伝性のアルツハイマー病に対する介入試験(J-DIAN)を設立すべきだという学会や業界の声は高くなっています。

 しかし、アルツハイマー病患者の中で明確に遺伝的な原因を持つ患者はごく僅かです。アルツハイマー病と関連するAPO E4遺伝子は我が国の人口の4人に1人、白人では5人に1人が持っていますが、E4遺伝子を2コピー持つ人のアルツハイマー病の発症リスクは他のAPO Eの遺伝子を持っている人やE4遺伝子を1コピーだけ持つ人の6倍程度のリスク増大に止まります。遺伝性のアルツハイマー病のリスクとは比べようがありません。APO E4遺伝子だけでは、孤発性のアルツハイマー病のリスクを占うには十分ではないのです。

 従って、第二の解決策は、アルツハイマー病の進展や発症を示すバイオマーカーの開発です。有望視されているのが、画像診断です。認知機能という高度な脳機能は多数の神経細胞のネットワークが担っており、これを単純な生体分子のプロファイリングで解決することは難しいかも知れません。本当は認知機能を担う、生き残っている神経細胞のネットワークを画像診断したいのですが、これは現在の技術ではとても難しい。事前の策として、βアミロイドの蓄積をイメージングする画像診断薬が開発されました。炭素11などで標識したPIBというβアミロイドに親和性を持つ化合物を患者に投与、PETによって蓄積を描画します。

 米国政府はA4試験(Anti-Amyloid treatment in Asymptomatic AD)と名付けた臨床試験を支援しています。これは、米国で認知機能正常でありながら、βアミロイドの蓄積を確認した高齢者1000人に対して、米Eli Lilly社の抗βアミロイド抗体solanezumabの二重盲検試験を行うものです。MCIより以前の状態、プレクリニカル・アルツハイマー病の治療を行う大胆な試験です。1000人の対象患者をスクリーニングするためには、3000人にPETによるβアミロイドの画像診断を行わなくてはなりません。

 認知機能正常でも、βアミロイドの蓄積が画像診断されれば、もうアルツハイマー病の予備軍(プレクリニカル)として、予防治療を行うべきか?A4試験の結果は、私も含めた読者の大半に大きな影響を与えるものと期待しています。

 我が国でも、プレクリニカル状態の患者さんがどのような臨床経過を辿ってアルツハイマー病を発症するかを検証する、J-ADNI 2試験が今月から始まります。実際には、1)早期と後期のMCIをそれぞれ100例ずつ3年間追跡、3T MRIなどの画像診断で解析する研究、2)プレクリニカル・アルツハイマー病患者を3年間追跡する研究の2つから成っています。プレクリニカルの患者を発見するためには、600人以上の認知機能正常の高齢者600人をPET画像解析しなくてはなりません。果たしてプレクリニカル状態に加えて、どんなバイオマーカーや臨床像がアルツハイマー病の発症を加速させるのか?日本人のアルツハイマー病の進展の真の姿を知る上でこの研究は極めて重要です。

 また、こうした知見が蓄積することによって、最も適切な対象患者を絞り込んだアルツハイマー病の新薬開発も可能になると期待しております。参加ボランティアを募集中です。ご関心のある方は、0120-717-411にお電話願います。本日(2013年10月7日)は朝のTVで報道されて、事務局がてんてこ舞いになっているらしいので、ご連絡は今週の木曜日以降が宜しいと思います。

http://www.j-adni2.org/

 アルツハイマー病克服の道程はまだまだ遠いですが、今から一歩一歩始めるべきであります。我が国にも、国家アルツハイマー病対策計画を策定する時が来たと、私は判断しております。皆さんはどう思われますか?

 今週水曜日から金曜日まで、横浜で開催されるBioJapan2013にて、皆さんにお会いすることを楽しみにしております。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/