皆さん、お元気ですか。

 現在、博多から羽田に向かう機上におります。西日本の上空は素晴らしい秋晴れ。台風の影響で雲に覆われた東京に戻るのがちょっと憂鬱です。午後から品川のクリニカル・バイオマーカーのセミナーで皆さんとお会いすることを楽しみにしております。

 9月30日に厚労省のディオバンデータ操作疑惑調査委員会の中間とりまとめを発表しました。大勢のマスメディアが取材に来たので、皆さんもニュースを耳にしたでしょう。「誇大広告による薬事法違反の疑いで立ち入り調査も。。。」という奴です。マスメディアの内側に居ながら、取材の対象ともなるという複雑な立場に置かれていますが、これによって今まで見えなかったことも良く見えてまいりました。残念ながらマスメディアが物事を正確に伝えることはできないという事実です。紙面も報道時間もないので、真実の一面しか切り取ることができない制約があるのは読者もご存知でしょうが、私が少し落胆したのは、メディアが勧善懲悪の色眼鏡に囚われると、まったくシナリオ通りに“水に落ちた犬を叩く”報道しかなされず、しかもほとんどの商業メディアが同じような報道をすることで安心していることでした。自らの柵で、報道の多様性、あるいは自由といっても良いでしょうが、ないがしろにしているということです。

 今回、本当に報道されるべきは、報告書の冒頭にも書いた「わが国の臨床研究・試験で、被験者保護と研究の質を担保する立法措置を来年の秋までに検討すべきである」という結論でした。善意で臨床試験や臨床研究に参加した患者さんを護る法的根拠もなく、不正や科学的な疑問を解くためでなく、新任教授が医局の結束を図るという非倫理的な臨床試験を行うことを糾すこともできないわが国の杜撰な法制度こそ、まずは国民が認識しなくてはならない大問題だからです。調査委員会の前に立ちはだかった最大の壁も、法律がないために調査権限もないということでした。この無力感を、臨床試験の被験者に二度と味合わせてはなりません。医療関係者と製薬関連企業に処するに、権威に基づく性善説に換えて、法治による性悪説を取らざるを得ないのです。日本の社会もまったく劣化したものです。不正や非倫理的な行為をした者は一握りに過ぎないでしょうが、権威や信頼は蟻の一穴からもろくも崩れる。医療関係者と製薬関連企業は、自らをまず点検することから刷新の一歩を踏み出していただきたい。わが国の臨床試験・研究にはもはや待ったなしです。

 賢明なる読者には是非、中間とりまとめの全文を下記からお読みいただきたい。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000024587.pdf

 僅かな時間でしたが、関係者と事務局の努力によって、わが国の臨床研究・試験が内在する欠陥をあれだけ明確に指摘した報告書はかつてなかったと思います。「物(物証)も押さえていないのに、審問しても真実は決して明らかにならない」と東京地検出身の弁護士が指摘するまでもなく、強制調査権がない厚労省の調査委員会の事情聴取では、誰がデータ操作をしたのかを明らかにすることはできませんでした。その代わり、わが国の臨床試験・臨床研究が内在する構造的な問題点を洗い出すことには成功したと考えています。列挙すると、1)臨床試験・研究の被験者保護と質の確保のための法律を欠いていること、2)奨学寄付金という責任が曖昧な寄付行為によって実質上、わが国の臨床研究・試験のかなりの部分が行われており、利益相反やその疑惑の温床となっていること、3)大学や医療機関の利益相反マネージメント体制がまだまだ脆弱であること、4)大学や医療機関の倫理委員会が機能不全に陥っていること、5)データセンターやモニタリング機能、生物統計の人材など、臨床研究を行うインフラは十分整備されておらず、全ての大学や医療機関で臨床研究・試験が可能ではないという事実、6)製薬企業のガバナンスをもっと強化すべきであること、7)透明化ガイドラインに応じた講演料や寄付の個人毎の公開を進めること、また、臨床試験・研究に際して企業の労務提供が行われているがこれも公開対象とすべきこと、8)臨床試験の登録など情報公開を励行し、被験者や社会に対して情報公開を必ずおこなうべきこと、9)リスクなどに応じてICH-GCPを臨床試験・研究に科すことも検討すること、10)学会の治療ガイドライン作成時の利益相反管理の徹底、11)大学や医療機関における臨床研究・試験に関する教育と生命倫理教育の徹底、12)研究不正の防止体制の充実、13)医薬品のプロモーションのあり方の再点検、14)今回の事案では誇大広告など薬事法66条違反が疑われるため、厚労省の薬事法担当部局が調査検討すること。。などです。

 中間とりまとめを受けて、厚労省と文科省の関係部局がそれぞれ動き出します。ここ一年で急速に臨床研究・試験の日本のインフラは改善されることを期待しています。厚労省の調査委員会は委員長が宣言した通り、残り4大学の調査結果を受けて、更に調査を続けます。また国会でも元厚労大臣の長妻議員が手ぐすねを引いて、ノバルティス社や大学関係者の国会喚問を予定しています。中間とりまとめは、日本の臨床試験・研究のインフラ整備の第一幕が終わったことを意味しているだけに過ぎません。がんの専門医を集めて、10月21日夜にウェブ上でコンセンサスエンジンを行います。現場の臨床医は今回の中間とりまとめをどう受け止めたか?是非とも知りたいと考えています。リスクの高い臨床試験・研究を行う医師の資格認定や施設認定を行うべきか?コンセンサスエンジンは医師限定でしかアクセスできないので、その概要は改めて改めてこのメールでもお知らせいたします。

 さて個の医療です。時間がありません。

 2013年9月25日、米国国立衛生研究所が、ヒトの遺伝子変異の臨床応用のための新たな研究資金、2500万ドルを提供したことをご案内して筆を置きます。この動きは注目に値します。わが国も猛烈な勢いで日本人の変異情報が解析されていますが、このままでは論文にしかならない。是非ともわが国の臨床に活用するために、臨床有用性のバリデーション法の標準化や変異に臨床的な意味づけしたデータベースの構築を行わなくてはなりません。
http://www.nih.gov/news/health/sep2013/nhgri-25.htm

 10月第二週より、個の医療メールは衣替えして、日経バイオテクONLINEメールとして、毎週木曜日に送信いたします。また、11月からは持続的に皆さんに質の高いバイオニュースやビジョンを提供するために、宮田満が執筆するメールと記事を有料化する新サービスを開始いたします。誠に厚かましいお願いで恐縮ですが、ウェブ上での新しいビジネスモデルに是非ともご賛同、ご協力願います。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/wm/index.html

 今週もどうぞ皆さんもお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/