皆さん、お元気ですか。

 アルメリア戦はバルセロナが2:1で勝利し、レアルマドリードはマドリードダービーを落とす波乱の結果となりました。バルセロナのメッシが右太腿裏を痛めて、途中交代を余儀なくされました。これで暫くはネイマールとのパス交換が見られなくなり、ため息をつくばかりです。ため息といえば、テニスの東レパンパシフィックテニス選手権は、伊達選手の観客に対する悪態でまったくつまらぬことで話題を振りまいてしまいました。どの試合にエントリーするかは選手の選択です。選択した以上、プロなら観客を楽しませなくてはなりませんね。

 まず宣伝を2つ。

 クリニカル・バイオマーカーのセミナー開催も、明後日に迫って参りました。まだ多少席は残っているようです。是非とも、本当に新薬開発や個の医療の発展に役に立つクリニカル・バイオマーカーをいかに開発すべきか?皆さんと議論したいと願っております。当日はクリニカル・バイオマーカーの発見成功者に加え、今後の開発に不可欠となるゲノムコホート研究とシステム生物学の最先端の研究者をお招きしております。どうぞ見逃しのないよう、下記のサイトよりお早めにお申し込み願います。当日会場でもご参加を受け付けます。どうぞ皆さん、宜しくご検討願います。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/131002/index.html

 第二は、10月9日から開催されるBioJapan2013です。今回は海外からの参加も充実、過去最多を記録する勢いです。下記のサイトから詳細にアクセスの上、どうぞご登録願います。ウェブで登録すれば展示会入場料5000円も無料となる大盤振る舞いです。また、既に満員札止めになっているセミナーも出て参りました。どうぞ下記よりアクセスの上、お早めにお申し込み願います。
http://www.ics-expo.jp/biojapan/main/

 さてバイオです。

 本日午後5時半から降圧剤ディオバンに関する臨床研究の調査委員会の第三回委員会が厚労省で開催されます。厚労大臣の厳命によって9月末に中間とりまとめを出さなくてはなりません。今回の委員会では中間とりまとめが目玉となります。現時点で可能な限り、我が国の臨床研究の質の確保と被験者にご迷惑をおかけしないための施策を提言しようと努力しています。前のメールでも申し上げましたが、この中間とりまとめは終わりではありません。今夕指摘された問題点や提案された施策を、厚労省や文科省の臨床試験や臨床研究に関与する部局が受け取り、新法の制定やガイドラインの強化、予算措置、人材育成、学会や製薬業界への協力要請など様々な具体的に施策が練られることになります。悪意の介入に対する我が国の臨床研究の脆弱性と失った臨床研究に対する国際的な信頼性を回復するには、データ不正操作に関与した研究者・研究機関と企業にペナルティを与えるだけでは断然不足です。臨床研究を取り巻くインフラの綻びを整理、新たなインフラを構築しなくてはなりません。中間とりまとめの詳細は水曜日の個の医療メールでお知らせいたしますが、委員会は今後も調査を継続し、来年3月末にも本格的な調査報告をまとめる予定です。

 もう二度と、医局の結束を図るという馬鹿馬鹿しい非科学的な理由で、臨床研究があたかも当然のことであるかのごとく、遂行される日本ではあってはならないのです。今後の報道にもどうぞご期待願います。

 ここのところ疾患iPS細胞に注目すべき動きがあります。2013年9月25日、英国London King’s Collegeが疾患iPS細胞16株を米国国立衛生試験場の幹細胞レジストリーに登録しました。これによって全世界でこの細胞株を一種のヒト標準疾患細胞株として疾患の機構解明や治療薬のスクリーニングが始まります。今回登録されたのはハンチントン舞踏病など16種の神経疾患です。神経難病は比較的、細胞レベルで病態を再現できるため、疾患iPS細胞の研究を心臓疾患とともにリードしています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130925/171073/

 こうした疾患iPS細胞がどんどん入手可能となると、ここ10年のiPS細胞研究のエンジンである新薬のスクリーニングや安全性研究への関心が間違いなく高まります。我が国の製薬企業も既にヒトiPS細胞やヒトES細胞由来の細胞を安全性研究には多用するまでになっていますが、まだまだ疾患iPS細胞の樹立研究とそれを使った新薬探索研究は緒についたばかりです。まだ社内で主張しても「それは近未来の研究だ」といった扱いを受けて、切歯扼腕している先見性の高い研究者も読者には多いのではないでしょうか?

 そうしたイノベーター達を勇気付ける発表が、2013年9月17日、欧州心臓学会でシンガポール国立心臓病センターから発表がありました。遺伝性QT延長症候群2(LQTS2)患者のiPS細胞から分化させた心筋細胞株を使い、治療薬候補の選抜に成功したというのです。創薬という点からは、まだまだ未熟な研究ですが、兎に角、疾患iPS細胞由来の細胞でスクリーニングが可能であることを示したことは大きい。後はこの化合物がin vivoの疾患モデルで効果を示すところまで研究が進めば、iPS細胞由来ヒト細胞による新薬スクリーニングが近未来だという寝ぼけた言い訳ができなくなります。その意味では、iPS細胞だけでなく、in vivoの疾患モデル作成も重要です。なるべく種の壁を乗り越えることができる疾患のメカニズムであることも必要となるでしょう。その意味では、ヒト疾患iPS細胞を、直接標的臓器をノックアウトしたマウスの受精卵に移植してキメラ胚を作らせる研究は極めて重要となります。今までは移植臓器を作成するために、キメラ胚作成の解禁が必要であると論陣を張ってきましたが、疾患iPS細胞由来の疾患細胞モデルの妥当性を証明するためにも、キメラ胚の作成は重要な手段となると思います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130123/165688/

 現在のところ、ヒトと動物のキメラ胚を医学研究として認めているのは英国だけですが、我が国の総合科学技術会議生命倫理専門調査会も2013年8月1日に見解を表明、文科省に特定胚指針などの見直しを指示しました。動き出したと言えるでしょう。順調に改訂が進めば、iPS細胞による臓器作製をリードする東京大学/Stanford大学の中内教授や東京理科大学の辻教授が英国に移住したり、英国の研究者と共同研究をしたりしなくても済むようになるでしょう。
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/life/kenkai/kenkai.pdf

 しかし、私はこの突然のキメラ胚受容の政府の態度豹変に、このやり方はまずいのではないかと懸念を抱かざるを得ません。こんなに少数の専門家が決めるべき問題ではありません。もっと国民的な議論を経る必要があります。何故ならば、ヒトと動物のキメラ胚は、「気持ち悪い」と直感的に一般の市民の反発を招きかねないためです。総合科学技術会議の専門委員会はまったくこうした市民感情に不感症になっています。マスメディアやPRの専門家も委員会に入っていながら、どんな議論をしたのでしょうか?かつて、こうした市民の反発を無視して米国政府の圧力の下、輸入を農水省と厚労省が強行した結果、今なお市民からは反感を持たれている組み換え農産物(GMO)の二の舞になりかねません。我が国は世界最大のGMO輸入国でありながら、市民は一粒もGMOを食べていないと誤認しています。このままではTPPや現在発展途上国で急速に栽培が広がっているGMOの南北問題に、国民は冷静に対処することが出来ません。大きな政治的課題を残してしまったのです。

 実は英国でもキメラ胚作成を容認するためには、長い政治的な論争が必要でした。我が国でも専門家だけの密室で、キメラ胚作成を容認するガイドラインの改定を行っては絶対ならないのです。国のガイドラインの作成の仕組みはせいぜいパブリックコメントしかないというなら、公聴会のような制度を導入すべきです。また、キメラ胚作成を推進する学会や研究者は市民に理解をいただくための広報と対話活動を今すぐにでも始めるべきであると考えます。英国のES細胞研究の第一人者で現在は米GE Healthcare社Stephen Minger氏に、英国がキメラ胚作成を容認する国会決議を得るために、英国の主要都市で対話集会を展開し、市民とバイオ研究者が直接話し合ったとうかがいました。当然、対話集会の後にはディナーがあり、シェリーを飲みながら、バイオ研究者はキメラ胚がいかに医学を進め、患者さんの治療に貢献するかを熱く語ったというのです。こうした対話集会によって、市民がキメラ胚を完全に理解したとは思っていませんが、少なくともこういう研究者達がちゃんと研究するなら良いのではと、世論が形成されていったと推測しています。つまり研究担当者に対する人間的信頼が、先端医療の倫理的な壁を突破する原動力となったと私は確信しています。
http://www.gelifesciences.co.jp/technologies/cellular_science/es.html

 我が国の専門家集団が人見知りであるのとは偉い違いです。原子力委員会、ディオバン事件、iPS細胞移植捏造事件、研究費不正流用、研究不正による論文の撤回の頻発など、これだけ阿呆なことを科学者が繰り返していては、総合科学技術会議の神の声でも我が国の市民はびくとも動きません。信頼を得るためには、是非科学者の権威を回復していただきたい。そのためには、アカデミアの蛸壺にこもって研究をするのではなく、是非とも市民の前に出て、対話を行っていただきたい。権威は研究内容だけでは得られません。突き詰めれば、誠実な人柄、信頼できる人物、何をなしたいかという使命感、そしてそのための献身、まさに全人格的な評価によって、科学者の権威は構築されるのです。現在の大学と大学院教育が決定的に欠く人間教育をもう一度、見直す必要があるでしょう。頭でっかちの科学者を養成しても、科学者が権威を取り戻すことはできません。

 心ある研究者なら、絶対密室でキメラ胚作製容認を決めてはなりません。むしろ、生命倫理のあらたなリスクコミュニケーションの課題として、是非とも全身全霊を込めて、市民参加の仕組みを文部科学省は構築すべきだと、心から確信しております。

 どうぞ皆さん、今週もお元気で。
 10月2日に品川でお会いいたしましょう。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/131002/index.html

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/