こんにちは。毎月第1金曜日と第3金曜日、第5金曜日の日経バイオテクONLINEメールの編集部原稿を担当しております日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長の河田孝雄です。
今日まで広島市で開かれている第65回日本生物工学会大会を取材しており、今日午前中のシンポジウム「S14:生物発光とバイオセンシングの新たな展開」も活発な討議などとてもおもしろかったです。プログラムは以下の通りです(敬称略)。
第65回大会の総務責任者である広島大学の黒田章夫さんと、大阪大学の民谷栄一さん、東京工業大学の上田宏さんがオーガナイザーを務めました。討論をうかがっていると、第一線の研究者の皆さんが信念を持って異なった方向性で取り組んで世界に先駆けた成果を挙げていることが良く分かりました。
「ルシフェリン派生体を利用した高感度バイオアッセイ」 黒田章夫 (広島大院・先端物質)
「生物発光検出による生体成分の高感度分析」 荒川秀俊 (昭和大学薬学部)
「発光酵素の反応分割による迅速高感度な相互作用検出系の開発」 上田宏 (東工大・資源研)
「ウミホタル発光の基礎と応用」 近江谷克裕 (産総研・バイオメディカル)
「高輝度化学発光タンパク質によるリアルタイムバイオイメージング」 永井健治(阪大・産研、JST・さきがけ)
シンポジストとして最後に登壇した阪大の永井さんは、昨日、科学技術振興機構(JST)が発表した「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)2013年度新規開発課題」に採択されました。
→ http://www.jst.go.jp/pr/info/info983/index.html
○開発課題 マルチモーダル発光イメージングシステムの開発
○チームリーダー 永井健治・大阪大学産業科学研究所教授
○開発課題概要 励起光の照射を必要としない化学発光観察は、光によって生理機能を制御するオプトジェネティクスとの併用が可能であるが、両技術を実時間の分解能で併用することは困難であった。本開発では、複数の生体分子を光で操作しながら高速かつ長期間、焦点ずれなく複数の生理機能を化学発光により可視化できる「マルチモーダル発光イメージングシステム」を構築し、これまでにない多次元機能動態操作観察解析に資する技術を確立する。
このシンポジウムで紹介がありましたが、11月2日(土)に東京工業大学蔵前会館で開かれる「生物発光化学発光研究会 第30回 学術講演会」もおもしろそうです。
→ http://www.jabc.jpn.com/event/030.html
生物工学会はほぼ毎年取材しておりますが、今回一番印象的なのは、「細胞の品質管理」に関係する成果発表が急増していることです。さきほどの生物発光とバイオセンシングでも、細胞の品質管理と関係したアプリケーションの紹介もありました。
生物工学会は、日本が強みを持つ“ものづくり”とバイオテクノロジーの境界領域の研究発表が多いので、もともと細胞についても培養技術の成果を発表する中核的な学会なのですが、iPSの登場で、ものづくりの品質管理技術を細胞に適用する取り組みが飛躍的に発展しているように思います。
半導体やナノテクノロジーの品質管理技術を初めて応用した成果の発表も目立っていて、記事とりまとめ中です。来年の第66回大会の実行委員長をお務めになる北海道大学の高木睦さんにもお話しをうかがいました。
日本の伝統的な発酵技術では、毎年秋に大会が開催される日本生物工学会と、春に大会が開催される日本農芸化学会との共通点は多いように思いますが、細胞の品質管理に関する発表は、生物工学会には多いけれども、農芸化学会には少ないという際立った違いがあるようです。
[2013-4-23] 日経バイオテク4月22日号「特集」、来年90周年の日本農芸化学会 https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130423/167582/
現在のところ、日経バイオテクONLINEに掲載しています生物工学会の記事は次の通りです。
[2013-9-20] マンダム、体臭成分ジアセチルの成果を生物工学会で発表、近く実用化へ https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130920/170973/
[2013-9-19] 急増する糖尿病対策に日本の酵素技術、キッコーマンと東洋紡が生物工学会で発表 https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130919/170956/
[2013-9-18] 第65回日本生物工学会大会が広島で開幕、 9月20日までの開催で1600人規模の参加見込む https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130918/170950/
[2013-9-3] 日本生物工学会、今年の大会のトピックを発表、 iPS細胞大量生産とバイオマスリファイナリー https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130902/170663/
実行委員長をお務めの広島大学の加藤純一さんは、今回の広島の大会が発表演題数などでこれまでの最大規模であると、ご挨拶なさっていました。連日のポスター発表会場は人であふれていて、移動がたいへんです。
昨日夕方からはシンポジウム「未来の生物工学と担う若手研究者のキャリアを考える」や若手交流会があり、一部参加しましたが、たいへんな熱気でした。近頃は学生でも名刺を準備している人が多いのだと改めて感じました。持ち合わせの名刺が昨日は尽きてしまいましたのを、反省しております。
生物工学会の話題は順次、記事やメールに反映して参ります。
日経BP社 医療局 先進技術情報部 日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長 河田孝雄
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