Wmの憂鬱、人口10万の都市と大都市の健康科学の差は何か?【日経バイオテクONLINE Vol.1932】

(2013.09.17 20:00)
宮田満

皆さん、お元気ですか。

 まずは宣伝から、昨年のバイオバンクのセミナーを受けて、10月2日、クリニカル・バイオマーカーのセミナーを開催いたします。是非とも、皆さんにはご参加いただきたい。すこし研究すれば判りますが、バイオマーカーらしい分子や分子プロファイルは簡単に見つけられます。しかし、本当にこれが臨床現場で、患者さんの治療や副作用の抑止に貢献できるのか?今回のセミナーでは、数多報告されたバイオマーカーの中から、患者の選択や新薬の評価に活用できる真のバイオマーカー(クリニカル・バイオマーカー)をご紹介します。この成功経験から、医療イノベーションを前に進めるエンジンを明らかにしたいと考えています。皆さんのご参加を心待ちにしております。以下より詳細にアクセスの上、お早めにお申し込み願います。
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/131002/index.html

 本田選手の移籍は夏のシーズンには実現しませんでした。所属するクラブのビジネスなのでしょうがないものの、次の移籍シーズンには是非とも、欧州のビッグクラブへの移籍が実現することを祈っています。普段はプロ野球には興味がないのですが、楽天の田中投手の連勝日本記録、そしてヤクルトバレンティン選手が王選手の一シーズンのホームラン記録を塗り替えるなど、さすがに無視できずニュースに釘付けとなっています。ルーチンを打破することは、何事にも重要です。

 ここのところ隔週の週末に台風に向かって出張をせざるを得ない状況でした。現在も富山に向かって飛行中ですが、台風一過、快晴。富士山がまるでジオラマのように見渡せます。昨夜、水位上昇で東海道新幹線を止めた元凶となった富士川も、眼下をとうとうと流れています。空は夏の深い碧とは違う、秋の青に変わっていました。

 さてバイオです。

 週末には伊予西条市を訪れました。住民の健康増進を狙って新しい運動が起ころうとしています。ゲノムやマルチオミックス解析技術とICT技術を組み合わせて、高齢化と人口流出に苛まされる地域住民の健康を確保しようという構想です。わが国の医療費の負担を詳細に見ると、患者が窓口負担と保険料負担で55%を負担、残りを国と企業、そして地方自治体が負担しています。地方自治体の負担割合は現行では8%ですが、高齢化による医療費の増大によって、この医療費の支払いは地方自治体の大きな負担となりつつあります。

 しかも都会が若者を吸引するため、また若者の雇用が工場の海外流出などによって地方で急速に喪失したため、地方の高齢化がどんどん加速されています。豊かな老後を地方でおくるためにも、個人の健康、そして社会全体の健康が不可欠な条件となってきたのです。いくつかの自治体立の病院閉鎖問題が地方の困窮を端的に現していますが、地方財政に対する医療費増加はボディブローのように自治体を痛めつけています。高齢化⇒医療費増大の悪の循環を断ち切るためにも、バイオとICT技術によって、疾患になる未病の段階で疾病を検知、食事や運動、そしてコミュニケーションなどによって、疾病の発症を未然に防ぐ、新しい健康サービス産業を早急に育成しなくてはなりません。そのためには、地域社会として自律的活動が可能でありつつ、まだ人間的絆も残っている人口10万人程度の規模の自治体をモデルに、まずは徹底的な健診を行い、電子データベース化するモデル事業を展開する必要があるのではないでしょうか?こうした健診DBによって、より的確な健康指導が可能となるでしょう。伊予西条市のような人口10万人にこだわるのは、こうした健康情報データベースから抽出される健康気づき情報、“情報薬”を効率良く伝達し、周辺の住民と支え合いながら健康を改善する場が残存しているためです。また、ある程度必要な財源と人材確保も可能であると期待しているからです。こうしたインフラとマルチオミックス解析やバイオインフォマティックスが融合することができたら、間違いなく日本の宝となるでしょう。冒頭に紹介した10月2日のセミナーでもこうした理想を実現するための方策を皆さんと議論したいと願っています。

 9月16日は梅田の北ヤードに新しくできたグランドフロント大阪で、大阪市立大学健康科学イノベーションセンターが7月に開所、それを記念した講演会に参加して参りました。ここでは大阪という大都市で、健康ビジネスを展開する知の拠点となるべく、大阪市立大学が相当に入れ込んでおります。高齢化社会のもう一つの側面は、地方の過疎化と都市への人口集中にもあることを忘れてはなりません。人口10万都市に加えて、政令指定都市(人口70万以上)における高齢化・健康増進手法の開発も必要となるのです。地方に残存する絆社会に対して、人々がまるで砂漠の砂のような無絆状態で存在する大都市で、新たな絆の結び直しをどうしたら良いのか?早急に私たちは智恵を絞らなくてはなりません。

 大阪市立大学の切り札は疲労の計測でした。唾液中の特定の血清型のヘルペスウイルス測定から、交感神経と副交感神経のバランス(脈波計測)まで、今まで蓄積してきた疲労研究をここで市民の参加を得て、実証しようという研究が始まりました。大都会で暮らした人ならほとんどが直面する疲労感を中核に、疑似コミュニティを創設。こうしたコミュニティに健康を測定する場やイベントなどで健康を実感する場を提供、尚且つ、疲労度と健康情報、加えて疲労予防などの介入による変化を時系列に沿ってデータベース化することで、絆を形成しようとしています。

 さすが大阪だと思うのは、こうした市民協力による“疲労コミュニティ”と産学連携を融合させて、疲労回復食品やグッズ、疲労予防サービス、疲労予防空間などを積極的に商品化しようとしていることです。公共性に対するバランスさえ取れれば、大都市では資本主義の精神である利益追求が健康を提供するエンジンとなる可能性は否定できません。大いなる実験として注目に値するでしょう。但し、是非とも徹底的に科学性を追求していただきたい。エビデンスに懸念が生じるようでは、そこいらにある健康食品となんら違いがなくなります。ディオバンの臨床研究データ操作疑惑で、国民の大学の臨床研究に対する思いは、信頼どころか呆れられている状況です。パラメーターの曖昧さが大きく、しかも個体差が大きい健康科学では、通常の医学研究以上のプロトコールと生物統計処理の厳密性が問われます。大阪駅に近接したショッピングゾーンのど真ん中に開設し、市民と積極的に交わることを決断した大学だからこそ、科学の厳密さも示さなくてはなりません。是非とも生物統計家などを充実して、大都市モデルの健康科学の事業化プロセスを開発していただきたいと願っております。

 16日には日本版NIHの議論もありましたが、米国の本家NIHがNational Institute of Healthであるならば、このままでは日本はNational Interference with Healthになりかねない という懸念を表明いたしました。米国は研究機能を備えておりますが、2014年度に発足される日本版NIH、独立行政法人日本医療研究開発機構(仮称)には、現在のところ150人分の人件費が予算化される見通しです。これは研究機能ではなく、研究管理機能がこの組織の実態であることを現しています。現在、科学振興機構や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、医薬基盤研究所などが、医療・健康分野に研究費を提供・管理している組織が集約化されたものだということです。極端に言えば、予算執行・管理事務的統合であるということです。勿論、このことすら前政権は実現できなかったので、大いなる進歩であることは間違いありませんが、本当に頭脳なき、身体だけ整備して、わが国の医療や生命科学研究は世界と競争可能なのでしょうか?猛烈に効率的な資金配分システムが、米国のデッドコピーのような研究プロジェクトを展開するという愚を犯さないでしょうか?

 動き出した日本版NIH構想に魂を入れるためには、イノベーションとクリエーションを明確に区別した科学政策の策定が不可欠であると考えております。米国はNSF(米国国立科学財団)とNIHの二本立てで、医学やその基礎である生命科学研究を支援しています。この際、わが国の生命科学研究と医学研究全体の調整を図る必要があると考えています。小手先の変化は歪みを生じることを肝に銘じなくてはなりません。

 皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

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