昨日開催されたメルク株式会社主催のセミナー「Merck Millipore BioScience Forum 2013」の中で、神戸大学医学研究科の青井貴之教授のお話を拝聴しました。ご存じの通り、今年4月に京都大学iPS細胞研究所から着任された方です。演題は「臨床応用に向けたiPS細胞の今」。どんな新しいトピックが出てくるのだろうと思っていましたが、お話されたのは新しいものの見方、私にとっては“なるほど”と思うことばかりでした。

 まず、iPS細胞に関しては、様々な細胞に分化することができる多能性が再生医療という観点から注目されているが、無限に増殖する自己複製能を持つということにも注目すべきだという点。つまり、培養しやすく、ロット形成が容易で、再現実験が簡単に行える細胞だということです。

 あらゆる種類のヒト生細胞での実験が可能であることは、個体発生の場を卵から実験室に持ってきたことになり、試料の量的制限が克服されることになります。

 そしてiPS細胞のもう1つの特徴である、個性が判明している個人からの樹立が可能な点については、病気を体から実験室に持ってきたことになり、病態の解明が進むことが期待できると青井氏は説明しました。

 当たり前だろうと思う方もたくさんいらっしゃると思いますが、研究者の視点からのお話は、私にとっては“目から鱗”でした。

 そして臨床応用に向けてこれから解決すべき点は、ビジネスモデルの確立だといいます。総論から各論へ、まず1つの実例を作らなくてはならないと青井氏は話しました。

 そのターゲットを選ぶ際に考慮すべきは、既存の治療に抵抗性であることと大きな潜在的市場があること。そしてゼロからではなく、step by stepの開発が可能であることだそうです。例えばパーキンソン病の治療に胎児組織の移植がありますが、この胎児組織を置き換えるようなイメージです。

 以上を踏まえて青井氏が有望だとしたのは、がんの免疫療法でした。γδT細胞由来のものはMHC拘束性がなく広く投与可能で、また高度医療として認可されていることがその理由です。ES細胞ではT Cell Receptorがないため不可能だそうです。

 実現の日はそう遠くないような気がしてきました。

                     日経バイオテク編集長 関本克宏

ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。
https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/