皆さん、お元気ですか。

 2020年の東京オリンピックが決まりました。合わせてレスリングも正式種目となったので、2020年までに吉田沙保里選手が引退する理由も無くなりました。また、超人伝説に新たなページを加えることが出来るか?エージングとの未踏の戦いが始まります。世界最長寿の日本らしい挑戦だと思いますが、くれぐれも無理は禁物です。

 さて、今朝早朝に始まったテニスの全米オープンは、セレナ・ウイリアムスがアザレンカを撃破、2年連続同一カードを勝利で締め括りました。第二セットはアザレンカがタイブレークで取ったものの、頑張りもここまで第三セットは力尽き6:1で敗退しました。今大会の女子シングルスのベストフォーはいずれも30歳超の熟女の戦いでありました。全地球的に人類の寿命延長が始まった今、熟女という定義をフィジカルにも、メンタルにも変えなくてはなりません。しかし、ラケットやテニスシューズ、ウェア、トレーニング法などの技術突破により世代交代が今や革新的な戦術や技術を持つ新星の登場ではなく、王女・王者の加齢によって起こる様相を呈しているのは、苦笑いしかありません。今年、明確になったのは、フェデラーの退潮でした。コートを去る彼の背中に秋の気配が漂っていました。

 さてバイオです。

 先週末は鶴岡市でバイオファイナンスギルドの遺伝子操作とメタボローム実習を挙行いたしました。好奇心を決めるという説もある、抑制性のドーパミン受容体4型の遺伝型を決め、解熱鎮痛剤の代謝の個人差をメタボローム解析で明らかにしました。私は日本人に多く存在する繰り返し配列2回と4回のヘテロでした。解析した9人で4型のホモと2/4型のヘテロがほぼ半数でした。2型のホモが居なかったのは予想外、欧米人に多い7回型はゼロ、どう見ても日本人の参加者にとっては妥当な結論となりました。やはり年に一回は実験をしなくては、報道にリアリティがなくなります。しかし、今回もPCR断片の電気泳動にレディメードゲルを利用したところ、見事、くっきりはっきりバンドが見えました。実験がはかどるのは良いのですが、どんどんキット化が進み、なんだかお料理番組でもやっているような感じです。昔はゲルから作ったのに、という老人の繰り言は申し上げませんが、こうしたルーチン化の対極に技術革新が生じるような気がしてなりません。バイオも成熟技術になりつつあります。

 がんに対するペプチドワクチンのフェーズIII臨床試験失敗のニュースがまた入ってきました。英国GlaxoSmithKline社が開発中の悪性黒色腫に対するペプチドワクチンMAGE-3Aの臨床試験(DERMA試験)結果解析の途中経過が、2013年9月5日に発表されました。悪性黒色腫患者の68%がMAGE抗原を発現しており、このワクチンに対する期待は高まっていましたが、今回の結果で一気に萎んでしまいました。残念ながらDERMA試験の2つあるエンドポイントである無増悪期間の延長はプラセボと比較した結果、統計的有意差を得ることができませんでした。今回の臨床試験では対象患者がMAGE抗原を発現していることは確認していました。2011年10月に米国食品医薬品局が発表したがんワクチンの臨床治験のガイダンスでは、臨床試験の結果は全生存率や生存期間で評価するのが好ましいとしていますが、この臨床試験はそれが発表される以前のプロトコールでした。しかし、発症から死亡まで急速に悪化する悪性黒色腫では、無増悪期間が延長せずに全生存期間が伸びるということは考え難いのも事実です。
http://www.gsk.com/media/press-releases/2013/the-investigational-mage-a3-antigen-specific-cancer-immunotherap.html
http://www.fda.gov/downloads/biologicsbloodvaccines/guidancecomplianceregulatoryinformation/guidances/vaccines/ucm278673.pdf

 昨年の12月にはスイスMerck/Serono社が開発していたがん抗原MUC-1のペプチドワクチン「Stimuvax」(現在は、L-BLP25と呼称、25アミノ酸、リポソーム製剤)のフェーズIII臨床試験も、非小細胞肺がんの患者を対象にした成績では臨床試験の主要評価項目(エンドポイント)である全生存期間の延長を示すことができませんでした。また、それに先立つ昨年の2月にはわが国のベンチャー企業、オンコセラピー・サイエンスの膵臓がんに対するペプチドワクチン、OTS102のフェーズII/IIIも臨床的な優位性を示すことができず、失敗に終わっています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120229/159830/

 つまり、がんペプチドワクチンの後期臨床試験は、3連敗ということです。当初、TVやマスメディアで喧伝されたがんペプチドワクチンの有効性は、期待倒れに現在の段階では終わったのです。それではがんペプチドワクチンはもう絶望的なのか? 私はそうは思いません。がん免疫療法は手術、放射線療法、薬物療法に次ぐ、がん治療の柱となることを確信しています。

 ではどうやって、がんペプチドワクチンを復権させるのか?

 まずはがんペプチドワクチンの個の医療化です。

 GSK社は、DERMA試験の継続を宣言しています。この臨床試験の第二のエンドポイントは、他ならぬこのワクチンに反応性のある患者群を見つけることでした。当初からひょっとしたら、がんワクチンに関しては、MAGE陽性だけでは選別できない、反応性の高い患者群が存在するという仮説を持っていたのです。実際、同社はワクチン投与後の遺伝子発現解析を進めており、これによって分けられるMAGE陽性患者のワクチンに対する反応性を確かめるため、臨床試験を継続しています。また、今年8月からフェーズIII臨床試験に着手したグリーンペプタイド・富士フイルムグループのワクチンは、予め用意したがん抗原のペプチドから患者の反応性が期待できる(自己抗体などで判断)ペプチドを組み合わせて投与するという、個の医療化を行った臨床試験計画です。また、このがんペプチドワクチンを開発した久留米大学のグループは、患者の血中のハプトグロブリン遺伝子発現が低下している患者で、がんペプチドワクチンの薬効が期待できることを突き止めつつあります。がんペプチドワクチンの臨床開発でも、対象患者を鑑別するバイオマーカーが不可欠となる勢いです。

 そして第二対策は、抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体など、免疫抑制解除抗体とがんペプチドワクチンの併用が突破口を拓くのではないかと期待しております。アジュバント開発も重要ですが、特異性高くがん組織局所の免疫抑制を解除できる治療薬の方が早道ではないでしょうか?

 がんペプチドワクチンも素朴な期待を膨らませ過ぎましたが、一方では地道な研究開発の道筋も見えてきたのです。過剰な落胆も、過大な期待ももう必要はありません。がんペプチドワクチンを開発しているバイオベンチャーや製薬企業は是非、粛々とワクチン開発の王道を進むべき秋を迎えたと言えるでしょう。

 皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/