英国の国立医療技術評価機構(NICE)が8月15日に、抗がん剤クリゾチニブについて英国民保健サービス(NHS)での保険償還を推奨しないとするガイダンスを公表しました。その理由は「費用対効果が優れているとは考えられない」。ALK陽性の進行非小細胞がんに対してコンパニオン診断薬と共に用いる、個別化医療の象徴的な薬剤であるため、ちょっとした衝撃を持って受け止められました。

NICE最終ガイダンス案、抗がん剤クリゾチニブを非推奨
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130821/170463/

 NICEでは質調整生存率(QALY)、つまり患者のQOLと延長される生存年により技術の費用対効果が評価されるため、高価な抗がん剤などは償還を推奨されないことが多くなります。実際、2008年から12年3月までに評価された抗がん剤59品目中、25品目が非推奨とされたそうです。その中には、転移性乳がんへのフルベストラント、大腸癌のセカンドラインでのセツキシマブ、ベバシズマブ、パニツムマブなどが含まれます。

 今年に入ってからも、抗がん剤の非推奨が相次ぎました。

英NICEガイダンス案、乳がん治療薬Perjetaを非推奨
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130819/170379/

英NICEガイダンス案、卵巣がんに「Avastin」を非推奨
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130405/167281/

NICE ガイダンス案、NSCLC維持療法にペメトレキセドを非推奨
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130228/166509/

 当然ながらこの制度は、医薬品開発におけるモチベーション低下といった点以外に、患者の新薬へのアクセスを阻害することが大きな問題として指摘されています。実際に患者団体の抗議デモや、NICEに対する訴訟も起きています。これに対して英国では、非推奨になった抗がん剤の薬剤費の一部補填などの「患者アクセス保障」(Patient Access Scheme)を実施しており、また2014年からは「負担の高い疾患・アンメットニーズの高い疾患に対する医薬品」「革新性と進歩がみられる医薬品」「社会的便益が認められる医薬品」という点も勘案したValue Based Pricingに移行する予定となっています。

 そして日本でも現在、中央社会保険医療協議会(中医協)の中に昨年設置された費用効果評価専門部会で、具体的な評価の運用手法について検討が行われています。評価方法としてはやはりQALYがベースになるようですが、部会では、評価結果のみで保険収載の可否や償還価格を決めない、評価結果の判断は硬直的に行わず一定の柔軟性を持たせる、などの原則を決めています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000013381.html

 一方、今年8月に報告書がまとまった「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」の議論の過程では、国立保健医療科学院の白岩健氏が、「各国において、追加的有用性や費用対効果を求められることが増えている。これらが明確に示されない場合、費用と時間をかけて医療技術を開発しても、広く使用されなかったり、安い価格しか支払われない可能性もある。がん研究においても、これらの要素を意識した出口戦略が求められているのではないか」と指摘しています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000030gqg-att/2r98520000030gwb.pdf

 費用効果評価専門部会でも、「QOLが低いまま生存率を延ばすような医療技術が過大評価される」といった懸念の声もあがっているようです。

 患者にとって本当に望むもの、真のエンドポイントの設定が、求められているのでしょう。

                        日経バイオテク編集長 関本克宏

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