皆さん、お元気ですか。

 リーガエスパニョーラの第二戦を録画はしたのですが、それを見る暇も無く、羽田に向かっております。福岡でうち合わせ、その後、出雲経由で戻ります。遷宮で大ブームとなっている出雲路は帰りの飛行機を手配するのにも、難渋しました。日本の底流の力強さにびっくりです。出雲大社にお参りする時間を確保できるか?取材の手腕の見せ所です。

 さてバイオです。

 2003年4月にヒトゲノム解読が完了、バイオテクノロジーによって生物学、そしてその応用である医学が大きく変貌しました。2つの大きな変化が起こったのです。第一はヒトの生物学が可能となったこと。これによって今まで齧歯類の研究から、単純に外挿して想像していただけの医学の基礎研究に大いなるリアリティが付与されました。また、わが国の基礎研究者の十八番だった齧歯類の生物学だけでは、「物の役にあんまり立たん」という批判から、研究費が大きくヒトの生物学、つまりヒトを対象とした医学基礎研究に大きくシフトしたのです。トランスレーショナル研究が強調されるのは、こうした技術革新が背景にあります。生命の基本現象を究明する基礎研究に、応用など要求するとはと憤慨する基礎研究者と基礎医学研究者が多いかと思いますが、それは時代遅れです。もし、国の資金や税金で科学研究の支援を受けるならば、成果は国民に還元されなくてはなりません。ダーウィンのように学問の自由を謳歌したいなら、彼のように身銭をきって研究するのが筋の通った態度です。本当に基礎の基礎をやりたいなら、慈善団体や自然愛好家の基金にすがるべきです。あるいは、自ら社会にその研究の重要性を訴えて、資金獲得の努力をなすべきであると考えます。大学に所属すれば、国税で好きな研究ができるというのは、そもそも考え間違いです。こうした知的怠惰が、社会に大きな問題を起こしています。医学では、製薬企業が顧客でもある医師をスポイルしたことも、腐敗や反社会的行為をさらに誘発する素地を形成しました。ディオバン問題の根っこには、医学研究者の中に、自分の名誉や権威、実績のために、どんなお金を使っても、そして何をやっても良いという思い上がりがあったことは事実です。科学研究費補助金という戦時中の軍事技術開発の枠組みを未だ競争的資金の配分に利用している前近代的な、国の研究費の分配システムの棚卸しも必要不可欠ではないでしょうか?

 ポストヒトゲノム解読の第二の大きな変化は、タイプ標本というその種を代表する典型的な個体や遺伝学的に均一な動植物の集団の研究から、自然界に存在する多様な個体で形成される生物の集団の研究に生物学や医学がシフトしたことです。ヒトの生物学で言えば、人類の多様性の解明が、すなわち研究の焦点となったのです。近交系のマウスと異なり、ヒトは遺伝的にも、ライフ・スタイルにおいても多様性に充ちています。正に、医学は患者さんの多様性に直面し、疾病を診断、その患者毎に最も適切な回答(治療法)を提供する応用生物学です。今では、次世代DNAシーケンサーの登場により、大量にコスト安く、全ゲノム情報を解析できます。また、その生物学的・医学的意味も大量のデータ・ベースによって評価されつつあります。今後のバイオテクノロジーは、その遺伝子変異が人類の集団の中で、どれだけ健康や疾病に貢献しているのか?その遺伝子変異を標的とした新薬が、人類集団の高でどれだけ疾病を治癒できるのか?まさに、フィールドで評価する臨床研究が不可欠となって参ります。このメールでも何回も申し上げていますが、そのためには今までの分子生物学ではあまり必要とされていなかった統計解析のサイエンスがどうしても必要となるのです。今まで、患者の症例からネズミを対象とした基礎研究を行い、その疾病の構造を探るといった伝統的な医学研究に加えて、多様な患者集団でどれだけその発見を評価する必要がでてきたのです。トランスレーショナル研究の成果を、社会が活用するためにも、統計学的に正当にデザインされた臨床研究が不可欠となってきたのです。

 そこで新しい問題を抱えることになりました。臨床研究における研究の質の確保の問題です。従来の研究でも、データの捏造を予防するために、実験ノートや生データの保存は当たり前でしたが、臨床研究においては、研究に関与する関係社の主観や希望が意図する意図しないにかかわらず入ることが避けられません。これを極力排除して、研究の公正性を保ち、再現性ある科学研究の成果を担保する必要がでてきたのです。これは研究者の倫理だけでは解決しません。研究機関や協力機関も含めて、システムとしてデータ操作ができない、しかもバイアスのかかった解析を行わない体制整備が必要なのです。日本は21世紀に入り、全世界が臨床研究の整備に着手した時に遅れをとってしまいました。ディオバンの事件を契機に、わが国の臨床研究のインフラの総点検を行うべきであると考えます。これは最後のチャンスです。

 皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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