皆さん、お元気ですか。

 お盆前に予告した、糖たんぱく質の工業的完全合成の成功のニュースは、8月26日号の日経バイオテクONLINEメールで報道いたします。諸般の事情とお盆休みのメール休止を失念しておりました。申し訳ありません。本日は午前と午後に厚労省で会議が積み重なっており、メールを書く時間確保もままなりません。という訳で本日は短く、しかし濃いニュースでご容赦願います。

 さて個の医療です。

 第一は、女優アンジェリーナ・ジョリーの乳房切除の告白で一躍注目を浴びたBRCA1/2遺伝子の変異検査ですが、わが国では米国の約半分の値段(20数万円)の検査コストが必要です。現在のところ、保険収載されていないので、患者さんはこの高額な検査を自費負担しなくてはならないのが現状です。こうした自由診療によるコスト負担の壁が、欧米先進国では家族性乳がん診療では標準治療となっているBRCA1/2診断がわが国に普及することを阻んでいます。

 今までの厚労省の常識では、20数万円の診断薬は想像の外ですが、BRCA1/2はゲノム遺伝子をシーケンスし変異プロファイルから、乳がんの生涯罹患率を推定する極めて診断上の有用性のある検査です。これによって、予防的な乳房・乳線切除だけでなく、毎年MRI検査を行うという病巣切除後の選択肢も患者さんが明確に選択できるのです。このためには多数BRCA1/2遺伝子に存在する変異と乳がんや卵巣がんの家族発生を対照させたデータベース作成が必要でした。米Myriad Genetics社はこうしたデータベースを世界レベルで作成、乳がんと卵巣がんの発症に関与するかどうかが分からない変異(未確定変異)が、2002年には全世界の人々を対象にしたBRCA1/2の遺伝子解析で12.8%も存在していたのに、2012年には僅か2.9%まで解明を進めました。それだけ診断の精度を高めたのです。アジア人のデータは少ないのでデータベースが充実していないため、未確定変異は2009年に25.1%、2012年でも7.8%に止まっています。BRCA1/2検査が普及しないと、皮肉なことに検査精度も上がらないのです。

 こうした現状を打破、わが国でもBRCA1/2遺伝子検査の保険収載を目指す動きが始まりました。少なくとも年内には確実に、BRCA1/2を先進医療Bとして実施するための申請が、がん研究会有明病院から提出されることが明らかになりました。症例が蓄積され、有用性が証明できれば、保険収載の道も拓かれることになります。この件は、一刻も早く進めなくてはなりません。但し、こうした先進医療Bによる臨床研究では、是非とも医療経済的な分析も不可欠であります。患者さんも救い、医療経済的にも納得できる革新的な診断法として、BRCA1/2遺伝子検査が普及することを祈っております。

 第二もやはり医療経済です。個の医療も医療経済の洗礼を免れないことを、頑固な医療経済のゲートキーパーである英国National Institute of Clinical Excellence(英国立医療技術評価機構)が、お盆の中日(2013年8月15日)に示しました。日米でコンパニオン診断薬と新薬の同時商品化の号砲でならしたALK融合遺伝子を対象とした肺がん治療薬「ザーコリ」(クリソチニブ)を、英国の国営化医療サービス(NHS)で使用することを勧奨しなかったのです。実に渋い結論です。まだ、今回発表されたガイダンスを精査していないので、何故ということは議論できません。取り敢えず、びっくりしましたので、皆さんにお伝えいたします。詳細は下記の記事をご参照願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130821/170463/

 残暑厳しき折、皆さんもどうぞご自愛願います。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/