皆さん、お元気ですか。

 お盆休みはいかがお過ごしでしたか?BBCの天気予報を見ると東京や関西がインドのニューデリーより、常に暑く、この夏の異常さに仰天しておりました。こんなに長く暑さが続くと、体力の衰えや体調不良の原因になります。皆さんもどうぞ睡眠に気をつけ、ご自愛願います。といいながらも、本日早朝からリーガエスパニョーラの2013/14シーズンが始まりました。酷暑にこの時差は辛いものがあります。ますます眠れぬ夜が続きます。わが日本代表も痛い目を味あわされたブラジルのネイマール選手が、バルサに移籍、世界最高の選手であるメッシとのコンビがどうなるか、今年のサッカーの最大の話題です。昨日、レバンテという下位チームとの開幕戦は、バルサが前半で6点も入れ、7:0で快勝いたしました。問題は、ネイマール選手がベンチスタートであったため、いつまでたってもメッシとのコンビプレーが見られないことです。眠さをこらえ、後半18分過ぎにネイマールが投入するまで頑張りましたが、その5分後にメッシが交代、両者のパス交換はわずか1回?しか拝見できず、まるで出来の悪い映画の予告編のような試合でした。しかし、ネイマールの迅さと、ディフェンスの意識改革を成功させた新生バルサから今シーズンも目を離せそうにありません。

 さてバイオです。

 再生医療研究の重鎮だった理化学研究所の西川伸一先生が「この春で現役は引退や。その代わりNPOに注力する」と宣言していたNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパンのホームページが立ち上がりました。実は資質として科学者より詩人に向いていたと私は判断している西川先生の第二の人生の思いがここには込められています。是非とも皆さん、アクセス願います。わが国の科学にも、社会にも欠けていた重要な知的活動がここに誕生するはずです。
http://aasj.jp/

 その中で、西川先生が患者の立場にたった科学報道の検証を始めました。まだ基礎研究の段階で「○○の再生に成功、難病に福音」といった見出しが躍ると、その研究機関に藁をも掴む思いの患者さんやその家族から電話が殺到、研究者が「まだまだ時間がかかります」と言い訳に終始するという確かに異常な状況がわが国でも起こっております。私たち科学ジャーナリストはバイオ研究の成果を冷静に判断し、それを過剰な期待も過大な希望も読者に与えないように報道する術をまだ編み出していない。勿論、霞ヶ関を向いて予算獲得の下心を秘めて過大に成果を脚色する科学者と学会、プラグマティズムしか信奉していないデスクに説明するため、「それは一体何に役に立つのか?」という質問をせざるを得ない記者の社内政治的な立場など、諸々の条件が患者の立場にたった報道を成熟させない阻害要因です。しかし、最も重要な阻害要因は、メディアに対する科学者や患者さんからの批判の不足であると思います。私たちはもっと厳しい批判に曝される必要があります。切磋琢磨を通じて、科学報道に対する理解が深まり、記者や読者、取材対象者の間に存在する見えない壁を少しでも薄くすることができるのです。今まではメディアが新聞やTVといった情報伝達媒体を独占していましたから、こうしたことは容易ではありませんでしたが、今やインターネットの出現によって、報道に対する批判を誰でも出来るようになりました。記者やメディア企業にとっては厳しい時代とも言えますが、ここを乗り越えなくては21世紀にメディアや職業記者は生存できないと腹を括るべきだと考えています。

 切磋琢磨のためには、当然のことながら批判を受けたメディアも沈黙ではなく、反論をする必要があります。

 読者はもうご存知でしょうが、私も現在販売中の週刊誌に取り上げられました。またウェブ上でも随分話題にされております。そこで今回は少しこの件について説明をさせていただきます。実は8月12日のメールニュースがお休みとは知らず、8月12日号で糖鎖たんぱく質の完全化学合成のニュースを報道すると予告しておりましたが、この件はもう一週間お待ちいただきたい。これから糖鎖工学研究所長のインタビューが取れたので、より正確なニュースを提供いたします。

 発端はノバルティスファーマの降圧剤「ディオバン」を使った医師主導臨床研究のデータ操作疑惑です。この問題は先端医療の産業化を目指すわが国の政府の足を引っ張りかねず、わが国の積年の課題であったデフレ脱却、そして成長による高齢化社会の負担増に対する備えを図るというプランを台無しにする可能性がある大事件です。医学研究では勿論、先端医療やバイオの産業化には不可欠な臨床試験や臨床研究に対する信用失墜は、わが国の医療やバイオのインフラを毀損させるもので、看過するわけには参りません。残念ながら大学、製薬企業、学会には、それぞれ調査の限界が存在しており、このメールでも主張しておりましたが文科省や厚労省など政府の調査委員会を早急に設置する必要があったのです。厚労大臣の決断で、厚労省が大臣直轄の高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会を設置、8月9日に第一回の委員会を開催しました。そこに私が委員として起用されたことが、批判の対象となったのです。

 今回の委員選出に当たって、厚労省の指名を受けた際に、予め当社の医学雑誌にディオバンの広告を掲載していた件、2005年から07年までスイスNovartis社が主催したバイオキャンプに講演者と審査委員として参加したことなどを申告し、吟味いただき、それでも委員への就任を要請されました。今回の調査委員会の遵守事項(利益相反)では過去3年間が開示の対象となっているため、ノバルティスとは関係なしという報告にせざるを得ませんでした。バイオキャンプはわが国のバイオ系の大学院生を選抜し、世界各国から選抜されたバイオ人材とバイオベンチャー企業のビジネスモデル作成で競わせるという、わが国の高等教育では欠落していた機会をわが国の若者に与えるものだったので、支援をさせていただきました。ディオバンなど個別の商品とはまったく無関係の活動です。

 京都府立医科大学と東京慈恵会医科大の調査でデータ操作が今年7月に報告され、一部の論文も取り下げられた今となって見れば、取り下げられた、もしくは取り下げられる予定の論文に基づいた広告を、当社の媒体が掲載したことは誠に残念で、掲載した事実に責任があることは明確です。当社は広告掲載に当たり厳格な広告審査を行っていますが、当時事実と考えられてきた論文に基づいた広告を差し止めることは困難でした。当社としては、現在も今後も今回の事件を徹底的に究明、報道することで、読者の信頼を回復するしかないと考えています。これは当社の見解として、新聞や週刊誌の取材にお答えしているものです。私の媒体である日経バイオテクや日経メディカルのオンライン版でも既に報道が始まっています。また、8月24日に当社主催で臨床研究に関するシンポジウムも開催します。これからも信頼回復のため、地道な報道や発言を心がけたいと思います。

 ここで読者にご理解いただきたいのは、編集と広告の間のファイアウォール(情報・人材交流の壁)のことです。新聞で確立し、当社でも適用されているものですが、広告部門と編集部門では完全に独立性が保たれており、私たちの取材・報道活動に一切干渉を受けてはおりません。一部の週刊誌などでは広告主に遠慮して報道規制が行われていますが、当社は創業以来ファイアウォールは厳として存在しております。

 私自身は30年前に日経メディカルに1年半在籍しましたが、完全に購読料収入だけの日経バイオテクを創刊、現在までバイオテクノロジーの報道を行って参りました。その結果、日本には素晴らしい基礎研究がありながら実用化に繋がらない死の谷が存在することに気付き、先端医療の臨床研究や臨床治験、その審査体制の充実などを訴えて参りました。厚労科学審議会技術部会の委員として、厚労科学研究費の利益相反ガイドラインの策定、現在進行中ですが、疫学研究と臨床研究倫理指針の改定、加えて厚労科学研究費による研究の論文捏造問題の調査委員会などにも参加、経験を積んで参りました。こうした経験が厚労省が私を委員に指名した根拠となっております。ディオバンのデータ操作疑惑は、わが国の臨床試験の信頼性に対して危機的な状況を生みました。厚労省の調査委員会の指名に当たり、この危機に臨んで微力でもお役に立てるようであればと思い、お引き受けいたしました。

 今回の調査委員会では事実の究明は勿論、加えてわが国が欠く制度上の欠陥を議論し明らかにしたいと考えています。問題は多数存在しますが、最大の欠陥は臨床試験の質確保と被験者保護に対する法律を欠くことでしょう。今回の事件で、残念ながら性善説では臨床研究の信頼確保ができないことが明確になりました。まだ、調査委員会は始まったばかりですが、意図的な介入にわが国の臨床研究はあまりに脆弱であることが既に露呈されました。今後もこのメールにて、調査の進展をお伝えいたします。皆さんも何か、情報があればどうぞお寄せ願います。嫌な予感として、今回のケースが特異なケースではなく、わが国の臨床研究そのものの倫理的なたがが緩んでいるのではないか?という疑いを抱かざるを得ない心境です。

 皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/