皆さん、お元気ですか。

 昨夜までソウルで開催されていたサッカーの東アジアカップは、男女ともに誠に稔りの多い大会でした。なでしこは現状では、東アジアをも制覇できない状況であることが明白となりました。昨夜は女子サッカーの欧州選手権決勝(ドイツvsノルウェー)も行われており、男子の日本vs韓国戦よりもパススピードが速く、戦術的にも勝っていることを見ると、ワールドカップ制覇の実績に甘えていると、なでしこは世界からどんどん置いてきぼりにされることを痛感しました。男子は海外組を外したいわばB代表で韓国の正代表と戦いました。いわば新人発掘のオーディションとも言うべき試合でした。今回の試合で柿谷選手と豊田選手という逸材がアピールできたのが収穫でした。子供の頃から香川を上回る天才と言われ続けた割には今まで伸び悩んだ柿谷選手に、ブラジルでの出場機会が与えられることを祈っています。

 さてバイオです。

 先週も、厚生労働科学研究費の再生医療関連のプロジェクトのELSI委員会開催中に、厚労省の担当官の強い推薦で共同研究者に列せられた、東京大学政策ビジョン研究センターの秋山昌範教授が科学研究費の個人的な流用・詐取の疑いで東京地検特捜部に逮捕されるという一報が入り、呆然としてしまいました。医療ITの必要性を古くから訴えていた人物で、地域医療ネットワークの構築などに貢献してきた人物です。しかし、被害額2180万円だけで、東京地検特捜部が動くとは思えません。今後の推移を見守らなくてはなりません。

 昨今の論文捏造(取り下げ)や研究費の流用によるアカデミアのスキャンダルは、もはやこのままでは国民が血税を投入し、科学研究を支えている我が国の構図を崩しかねない。加えて、ノバルティスファーマの降圧剤ディオバンの心血管イベントへの効果を確かめるべく行われたKYOTO HEART STUDYやJIKEI HEART STUDYなど我が国の5大学で展開した医師主導臨床研究のデータ操作疑惑と明白な利益相反(COI)マネージメント不全は、国際的な論文取り下げに発展、またロイターやフォーブス誌が全世界で報道したこともあり、我が国の研究者が行った臨床研究の信頼性に対して、国民も海外の市民や研究者も疑問符をつけるという、ナショナルブランドの毀損を招いてしまいました。この事態に、2013年7月23日には日本学術会議は中西議長談話を発表するなど危機感を深めています。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-d4.pdf

 ヒトを対象とした臨床試験の問題に限っても、問題は錯綜しています。研究者による研究費の不正使用とデータ操作、研究者による利益相反(これは産学連携だけに生じると思っていると大間違い。自分の研究シーズを臨床研究で検証する場合、自らが関与すると研究の公正性が果たして保たれるのか?この点で、わが国の臨床研究の大部分は利益相反問題を抱えていると考えます)などに加えて、産学連携が絡むと企業が関与した意図的なデータ操作、それに企業の寄付金や共同研究による利益相反、さらには特定の商品のプロモーションに研究者が荷担した場合の利益相反などの懸念は拡大せざるを得ないのです。実際、PLOS ONE2013年6月8日号に発表された論文では、臨床研究に限りませんが、科学論文は1973年から2010年で3倍から4倍に増加しましたが、研究不正による論文取り下げは論文数の延びの数10倍で増大しています。科学研究に参加する研究者や企業などの利害関係者の増大、それに生命科学やナノテクノロジーなど科学の新分野の拡大は、今まで有効だったピア・レビューなど仲間内の信頼に基づく、システムだけでは、膨れあがった科学研究をマネージするには不十分である、少なくともこのままでは科学研究が信頼性リスクによって破綻する可能性を示唆しているのです。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0068397

 さて、このこんがらがった問題をどう整理すべきか?

 科学研究費の不正流用などは、15ヶ月予算が組まれたとはいえ、予算執行の遅れや道路建設とはまったく異なり、先が必ずしも見えない科学研究の進展など科学研究が、従来の国家予算の執行・管理体制に馴染まない点を反映した科学研究費の制度的な欠陥もまだまだ存在しています。また、ちょっと前では空出張などで予算執行の穴を埋めていた記憶も年上の研究者には濃厚で、研究者の個人毎のモラル感覚も多様です。RNAiの論文捏造疑惑事件が起こる前までは、研究ノートは生データの保存なども誠に大学ではいい加減に行われていました。いまでもそうしたいい加減さは残存していると懸念しています。まずは大学や職能集団としての学会で、しっかりした研究公正に関する教育を行うことです。しかし、こうしたことは過去の研究不正事件の度に提唱されてきたのです。学術会議もこうしたことを強化すると指摘していますが、「本当に君たちにできるの?」と国民は今や思っているのではないでしょうか?

 ここまで不信が極まると、きれい事だけではなく、実効性のあるプロとしての規律が求められます。私はまだ科学者を信頼していますから、是非とも基準を策定、自浄作用を発揮できる仕組みを自ら構築すべきであると考えていますが、国民がいつまでも我慢強いと思うのは危険です。米国のように研究公正を確保するための法律を作ったり、東京地検特捜部がもう少し汗をかいて少なくとも首都圏の大学の科学研究費の執行状態を精査して、不正使用をしている研究者を一掃したりするようなハードな対応も、国民的な合意が形成されえる可能性すらあるのです。また、プロの研究者集団を抱える大学や研究機関の事務の改革も不可欠です。一般の会社の経理のように常に従業員の使途不明金と戦う構えが必要です。まずは、決済を電子化、クレジットカード決済化し、研究者個人毎の経費のデータベースを作成すべきでしょう。これによって使途不明金や特定の業者との癒着の洗い出しも比較的容易になります。また、善意のエラーによる予算執行のルール違反も防ぐことは可能でしょう。要は全てを迅速に透明化し、日夜誘惑と戦っている研究者が道を踏み外さないように大学や研究機関は指導すべきなのです。これに関しては、利益相反マネージメントもまったく同じです。電子化し、公開するシステムが必要です。但し、まだ、利益相反について大学のトップや経営者も分かっていないので、まずはその教育から行わなくてはなりません。米国のように国家が一桁違う研究資金を生命科学に投入できる国はともかく、国家の科学研究費予算が少なく、公的な財団からの資金援助も細いわが国では、企業からの資金は臨床研究の生命線ともいうべきものです。まずは以前にこのメールでも書きましたが、国家による中立な臨床試験や臨床治験の予算を数100億円用意することが急務ですが、当然、こうした手当だけではわが国の臨床研究を行うことは難しい。企業資金を受け入れた場合に、どのような方策を講じれば、研究の公正性を担保できるか議論しなくてはなりません。大学や研究機関の利益相反管理は当然ですが、企業側にも透明化ガイドラインによって臨床研究にどんな支援を誰に、何の目的で行っているのかを公表しなくてはなりません。現在のところ、ファイザーだけがウェブで公表していますが(費用の細目など公表は不十分です)、わが国の製薬企業も公表を急がなくてはなりません。

 更に、現在、臨床研究や臨床試験の公的なデータベースへの登録と開示も進んでいますが、その内容は米国のclinicaltrial.govと比べ十分ではありません。少なくとも実施機関やスポンサー、研究内容の詳細の開示を、即時行うことを検討しなくてはならないでしょう。製薬企業の企業治験でも「医療機関などのご迷惑がかかる」という理由で実施機関を公表していないようですが、もはやこのような言い訳は通らない状況になったと考えるべきです。

 しかし、まだこうした漸進的手段だけでもやはり十分ではないと、いわざるを得ないのがディオバン臨床研究のデータ操作疑惑で懸念されているように故意にデータ操作が行われた場合、わが国の現在の臨床研究を管理するシステムではこれを防ぐのは極めて困難であることです。性善説に従ったシステムの脆弱性がここにあります。ヒトを対象にした臨床研究に限っては、研究の査察や第三者によるデータの管理・解析など、企業の臨床治験並の義務を課す必要があるのかも知れません。本当は性善説でやりたいのですが、ここまで国民の臨床研究に対する信頼が地に墜ちた今、臨床研究の倫理指針でリスクの高い臨床研究に関しては、研究の査察や第三者によるデータ管理と解析を義務づけざるを得ないかも知れません。しかし、性善説に比べ、こうしたコストは極めて高く、やっとトランスレーショナル・リサーチが自分たちの責務であると気付いたわが国の大学や研究機関の意欲を削がざるを得ないでしょう。なによりも全ての研究者が臨床研究を行える資格を何ら前提条件なしに与えられるというわが国のアカデミアの誤認も正さなくてはなりません。最低限のデータの品質保証体制を整えた上で、更に性善説でやるならば、自ら研鑽を積み重ね、臨床研究を知悉し、人品骨柄も卑しくなく、倫理的にも瑕疵がない一部の研究者だけが、臨床研究に携われることを認め、こうしたエリート研究者を認定、彼らが行う臨床研究の公正性を担保するシステムの再構築を心がけなくてはならないでしょう。施設の限定と倫理委員会の質の確保が、その肝であると考えています。医学研究者と自称するだけで誰でも臨床研究を行える悪平等を駆逐しなくてはなりません。

 現在、厚労大臣直轄のディオバンに関する臨床研究の調査委員会が発足しつつあります。しかし、問題は調査に強制力を持たせる法的な根拠がこの調査委員会にはまったく無いことです。患者の善意を活かし、安全性を担保、しかもわが国の臨床研究の国内外に対する信頼を確保するためには、臨床研究の被験者保護と公正性確保をするための法律を整備すべきではないか?と考えを巡らしています。世界各国にはこうした法律は既に存在しており、臨床研究が公正に行われる国家の背骨を形成しています。少なくとも臨床研究に関しては、放埒な研究の自由を制限せざるを得ない、というのが、現在の私の結論です。皆さん、どう思われますか?

 本日、16時からノバルティスが記者会見を2時間も予定しています。一体、今度は何が発表されるのか?これから会見場に急ぎます。

 皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満
ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/