皆さん、お元気ですか。

 明日のイタリア戦は日本のA代表のリカバリー力、そして成長力を占う試合となりますね。しかし、本当にイタリアはサッカーを知っています。手強いチームです。勝てるなど思ってはなりませんが、ひょっとしたら1:0で勝てる可能性も皆無ではないのがサッカーです。ブラジル戦の完敗から是非とも一歩踏み出していただきたいと望んでいます。

 さて個の医療です。

 現在、品川のコクヨホールで開催しているiPS細胞創薬のセミナー会場におります。お陰様で、会場は満員、巷間いわれているiPS細胞による再生医療よりも、絶対早く商業化できるiPS細胞創薬というコンセプトに皆さんが感応した結果だと、感謝しております。セミナーの概要は来週の月曜日のメール(日経バイオテクONLINEメール)でお伝えいたしますが、武田薬品工業の中西主席研究員が「iPS細胞は疾患モデルだけでなく、患者さんの多様性のモデルともなる」と指摘していました。まさに個の医療の基盤としてもiPS細胞が活用できるのです。

 今週の月曜日に日本経済新聞社でセミナーを開催しておりました。先端医療・再生医療の事業化をどう進めるか?というテーマのセミナーでした。そこで国立がん研究センター東病院早期・探索臨床研究センターの大津敦センター長(月曜日のメールでは名前を間違えてしまいました、申し訳ありません)が、個の医療を臨床試験としてどう展開するか、極めて示唆に富む発表をしました。

 個の医療の最大の関門は何か?私はこれは常々コンパニオン診断薬という概念にあると考えていましたが、大津先生もまったく同じ問題を認識、素早く先手を打っていました。誠に慧眼です。そもそもコンパニオン診断薬は、新薬を投与する患者を鑑別する診断薬ですが、暗黙の前提として、新薬と1:1対応で寄り添う診断薬という考えが含まれています。しかし、これでは新薬毎に1つの診断薬を商品化しなくてはなりません。しかも、新薬は特許が切れればジェネリック化し、価格は低下しますが、診断薬はキットとして多種の技術やノウハウが集積されており、一部の特許が切れてもジェネリック化することは極めて困難です。このままでは、個の医療が進展すればするほど、診断薬の売り上げが国民医療費を圧迫する可能性があるのです。

 理想的には患者さんの全ゲノムシーケンスがカルテの裏に張り付いていることです。これによって生殖系列の突然変異を目安とした個の医療に関しては、いちいちRT-PCRやin situ ハイブリダイゼーションなどで診断する必要がなくなる。インフォマティックスによって、個の医療のコンパニオン診断薬を置き換えることができれば、コストは激減することは間違いありません。

 大津先生らは既に、ゲノムシーケンス能力の飛躍的な向上を見越して、がんを誘導する遺伝子変異を予め多数シーケンスして、患者さんをそれぞれの変異に応じて、有効ながん標的薬のフェーズ1臨床試験に振り分ける、包括的なゲノムベースのがん分子標的薬の臨床試験群を展開しようとしています。こうした発想は臨床試験の現場からの現実的な発想です。東大の間野教授が発見した第二のドライバー遺伝子、RET融合遺伝子は肺がん患者の1%にしか存在いたしません。フェーズ1の臨床試験を肺がんでやろうとすると、2000人以上の肺がん患者のRET融合遺伝子解析を行わなくてはなりません。フェーズ1ですらこれですから、患者数が増えるフェーズ2やフェーズ3臨床試験では、膨大な数の非対象者をスクリーニングしなくては、ドライバー遺伝子を標的とするがん分子標的薬が開発できない矛盾を抱えています。しかも、こうした臨床試験を新薬A、新薬B、新薬Cと、ばらばらに展開しています。患者さんのゲノムを包括的に解析するならば、ALK融合遺伝子、RET融合遺伝子、BRAF変異など多数の変異を一度に解析して、それぞれの変異に対応する新薬A、新薬Bと患者さんを振り分けることが合理的です。それを実証するため、大津センター長は既に「ゲノム解析に基づいた個別化医療の構築」(NCCE-ABC研究)を展開中です。400遺伝子、1万アンプリコンをシーケンスして、患者さんの遺伝子変異プロファイルを決定、それに応じて、効果が期待できそうな新薬の臨床試験に繰り込むという研究です。胃がん、大腸がん、肺がんなど多様ながん患者、108人の解析を終了しています。2012年7月から着手し、2年間で200人の解析を行うことを目的としています。

 国際がんゲノムプロジェクトの解析が進み、多様ながん関連遺伝子変異のカタログ化が充実してきました。こうしたデータを基に、がん標的薬の対象患者の遺伝子変異をプロファイルすることは可能になりつつあります。今後はこうしたがんの遺伝子変異プロファイルを幅広く解析し、処方薬を決定する方策の実用化を模索しなくてはならないと考えます。個々のコンパニオン診断薬ではなく、いわばコンパニオン診断薬を束にして解析する時代にしなくてはならないのです。今回はゲノム解析に言及しましたが、可能なら免疫染色なども個々の試験ではなく、プロファイルをとる方向を模索しなくてはなりません。コンパニオンからプロファイルへと、個の医療は急速に動く気配に充ちています。

 今週も、どうぞお元気に。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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