皆さん、お元気ですか。

 世界の壁は厚くて高い。日曜日の早朝に行われたコンフェデレーションズカップの第一線、日本VSブラジル戦の完敗で、皆さんは嫌というほど思い知らされたはずです。私も寝てはならないので、その前に別のチャンネルでやっていた欧州サッカー連盟UEFAの21歳以下(U21)の国別対抗戦をうつらうつら見ていたのですが、明らかに日本のA代表よりもスペインのU21の方が、パスが繋がり、パススピードが速く、しかも得点を決める力がありました。勿論、ワールドカップの最終予選で中東からブラジルに移動するという強行日程であることを差し引いても、まったく落胆させる試合でした。但し、時間はまだ1年間あります。この完敗を成長する力に変えることが、日本のA代表の挑戦です。イタリアとメキシコと激突する機会はまたとないチャンスです。是非ともコンディションを整え、ぶつかっていただきたい。もう失う物はないと、私はないと思います。ブラジル戦の収穫はディフェンスの内田選手がブラジルのエース、ネイマールを封じ込めたことです。再生の芽は個々の選手のハートにあるのです。

http://www.fifa.com/confederationscup/index.html
http://www.uefa.com/under21/index.html

 現在、蒸し蒸しの東京大手町で日経産業新聞フォーラム2013で先端医療のフォーラムに参加しております。今回の焦点は再生医療です。会場はなんと満員、製薬企業の関係者が押しかけています。ただ新薬を創れば良いという製薬企業のビジネスモデルの時代は終焉したということです。再生医療のような新しいビジネスモデルと技術インフラ、そして治療コンセプトに関して、深く関心を抱かざるを得ない状況まで、製薬企業が追い詰められている証拠とも言えるでしょう。

 冒頭の基調講演で、国立がん研究センター東病院の早期・探索臨床研究センターの大津敦センター長は「がんの治療標的の発見は日本人の研究者の成果なのに、その標的に基づいて創薬をおこなったのは海外の企業である」と指摘しました。これは我が国の産学連係やトランスレーショナル・リサーチのあり方を問う発言です。がん分子標的薬開発競争の緒戦は我が国は完敗してしまったのです。大学に創薬のシーズがありながら、新薬というビジネスに結びつけられない、我が国のインフラや関係者のマインドの問題が障害となり、海外での商業化が先行してしまったのです。がん幹細胞、がん免疫療法、がん細胞の代謝経路を標的とした、第2期の抗がん剤開発競争では、もう負ける訳には参りません。ファーストインマンの臨床拠点やがん臨床中核病院などの整備が進んでおり、我が国にも勝機はあると考えています。残るは資金確保と企業との連携やベンチャー企業の創生などの問題を早急に解決し、我が国が生んでいる卓越したシーズを世界にデビューさせなくてはなりません。

 大津センター長によれば、乳がんの抗体医薬、ハーセプチンの標的であるHER-2、最初のがん分子標的薬であるグリベックの標的であるC-KIT、合成致死という新概念に基づいて開発が進み、現在製造承認申請中のオラパニブの標的であるPARP、肺がんの画期的治癒薬となったザーコリの標的であるALK融合遺伝子、そして、現在最も注目を浴びている抑制性免疫解除抗体医薬であるPD-1抗体の標的であるPD-1も全て、日本人の研究者が発見したものです。私たちはこれだけ膨大な資金を国税から大学やナショナルセンターに注ぎ込んでいますが、その成果は海外の企業が享受して、ドラッグラグや高薬価、研究開発費の流出、企業の雇用創出という損害を被っています。厚労省だけでなく、製薬企業や医療関係者の責任は問われなくてはならないでしょう。特に、バイオ医薬とがんの分子標的薬の開発に対して、戦略的な経営判断を誤った経営陣、そして未だに誤っている経営陣の責任は極めて重いと思います。政府も長期収載薬価など過保護な制度は即時に廃しして、ベンチャー創業を支援するように、政策を改めなくてはならないと思います。決断の時間は余り残っていません。

 私も先週灼熱の京都で開催されたがん分子標的治療学会に参加するまで、知りませんでした。2013年5月30日に、米国で認可された世界初のMEK阻害剤(trametinib)「MEKINIST」が、実は京都府立医大の酒井敏行教授が日本たばこと開発したものでありました。個の医療の第二世代を告げた画期的な新薬は今まで販売認可を得た、英GlaxoSmithKline社が開発したものだとばかり思っていました。まったく不明を恥じなくてはなりません。たった一回しか、抗がん剤開発のプログラムを行わなかった日本たばこは打率10割を誇る結果となりました。しかし、一番優れていたのは、がん抑制遺伝子Rbの活性化による抗がん剤という新しい治療概念を提唱、細胞ベースのスクリーニング系を日本たばこに提案した、酒井教授のアイデアにありました。遺伝学的な研究からがんの分子標的を同定し、その組み換えたんぱく質に対して試験管内で新薬をスクリーニングする現在の第一世代の分子標的薬が似たような化合物に収斂しつつあるのに対して、酒井教授のスクリーニング法は私たちがまだ知ることがない未知の標的に対する新薬候補をスクリーニングすることを可能とします。ここにはまだまだ可能性に充ちています。

 シーズから新薬開発という我が国の喫緊の課題解決には、資金や人材、そして医療施設整備などのインフラの整備に加えて、欧米で流行した物質ベースの分子生物学とは一線を画する、生命現象ベースの分子生物学という我が国の独創研究にも光を当てる必要があると考えています。それにしても、酒井先生にうかがいましたが、日本たばこも一回断ったようですが、日本の製薬企業は酒井教授の新しいアイデアにまったく反応しなかったといいます。こうした企業の保守性が、我が国の患者に多大な迷惑を掛けていることを、深く反省しなくてはなりません。もうこれだけ待っても日本の企業がイノベーションに心から挑戦できないというなら、英国の60年代のように企業を淘汰して、ベンチャー企業に成長を期待する、新しいビジネスモデルを追求することに舵を大きく切るべき時が来たと判断せざるを得ません。大きな変化を私たちは受容しなくては、幸せな高齢化社会など、まさに夢のまた夢なのです。

皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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