皆さん、お元気ですか。

 まずは御礼です。6月19日に開催する日経バイオテクonlineプロフェッショナルセミナー「iPS細胞創薬」、お陰様で満員札止めになりました。当日は会場満席ですので、なるべく軽装でお越し頂き、秩序維持にご協力願います。

 今週の末、リーガエスパニョーラの2012/13の最終試合が行われました。年間勝点100の記録達成を目指すバルセロナは、最終戦で昨年のレアル・マドリードと肩を並べる大記録を樹立しました。どのリーグでも最終戦は極めて微妙な雰囲気があります。行く年来る年ではありませんが、チームを去る選手が存在するためです。また、契約更改が微妙な選手もおり、残留の最後のアッピールの場面としてもこの試合に人生を賭ける選手もおります。ただし、ビクトール・バルテスはチームが移籍金を稼ぐため、他のチームに売り出されており、最後の試合は控えのピントがキーパーとして出場しました。格下のマラガとの対戦で4対1で勝利しましたが、失点を見たであろうバルテスの笑みが見えるようです。

 現在、国会に提出中の再生医療安全確保法の法案が手元に届きました。これからじっくり読み込みますが、この法案には盛り込まれなかった再生医療、もしくは細胞医薬の問題点を指摘したいと思います。

 最大の問題は細胞の定義であります。

 私たちは細胞を一個、一個独立した実体として取り扱っていますが、卵子や精子、血球細胞、マクロファージやリンパ球などを除き、多細胞生物では、細胞が単独で存在しているという場合は例外的な状態なのです。従って、いつも細胞は複数の細胞で構成される細胞群として存在、発生分化の各段階で安定すると考えた方が良さそうです。その細胞塊から細胞を一個取り出しただけで、取り出した細胞の性質が変化してしまうのです。こうした現象を細胞の可塑性といいますが、可塑性が高ければ高いほど、細胞は環境要因によって変化し、性質を変えていくのです。抗がん剤投与によってがん細胞が薬剤耐性を獲得するプロセスは細胞の可塑性を示しています。がん幹細胞に言及しましたが、がん幹細胞の阻害剤を投薬して、がん幹細胞を全滅させても、残ったがん細胞からまたがん幹細胞が出現するのです。

 細胞の可塑性は、再生医療で使用する細胞の品質管理にとっては極めて厄介な問題です。化学合成下低分子医薬が酸化などによる経年変化は起こりうるのですが、細胞医薬のように環境によってがらりと性質を変化させるようなことはほぼ確実に起こりえません。医薬品の品質基準の考え型がこうした変化に乏しい化学合成化合物を前提に構築されていることを忘れてはなりません。iPS細胞のように、有る特定の分化段階にある細胞を工業規模で製造できる可能性を開いた技術突破でも、あたかも低分子化合物のように品質が安定した細胞医薬を造れると考えるのは大いなる誤解です。

 そのため血液製剤など生物製剤学的な品質管理手段(プロセス管理と使用登録による長期のフォローアップ)を取らざるを得ないのですが、このままでは世紀の科学技術突破としては誠に情けない。なんとか、生物製剤剤と化学合成医薬品の中間程度の品質規格や管理が出来ないか?というのがiPS細胞創薬のチャレンジということになると考えています。6月19日のセミナーでも、これを議論してみたいと望んでいます。

 その鍵を握るのは、多分、発生分化が安定する最少の細胞群とその維持培養条件を明らかにすることではないでしょうか?現在、フリューダイムなどの努力で1細胞である程度マルチオミックス解析が可能となりました。細胞塊の中の一個一個の細胞の状況を分子レベルで記述することも可能になりつつあります。課題として、細胞塊から無理矢理細胞を引きはがすと状況が変わるだろうという疑念です。もう一段解析を進めるなら、in situでマルチオミックス解析ができることです。遺伝子発現ならもう複数の遺伝子発現をレポーター遺伝子と組み合わせて、マルチカラーで観測することが可能になりつつあります。加えて組織の透明化技術と焦点深度の深める光学解析技術が組み合わされれば、細胞塊毎に品質管理ができるようになるかも知れません。理想の姿です。

 来年度には神戸市の理化学研究所/先端医療センターで臨床研究が着手される予定のヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞も、実は細胞塊で培養し、色素上皮のコーヒー色の細胞塊を手で選抜して、別の容器に盛り上げ、細胞シートにするという手工業的な製造プロセスで行っています。手法はプリミティブですが、細胞塊毎に選抜するという考え方は先進的であると評価しております。

 細胞ではなく、細胞塊。これが再生医療、細胞医薬の重要なキーワードです。

 セルソーターではなく、セルスフェア(細胞塊)のソーターが必要となる時代なのです。

 今週も皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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