皆さん、お元気ですか。

 いよいよ東京も梅雨入りとなりそうなどんよりとした朝を迎えています。昨夜、史上最高齢での全仏勝利を目指していた42歳の伊達選手が、豪ストーザー選手に粉砕され、第1回戦でローランギャロスから姿を消しました。レッドクレイのコートでは伊達選手得意のカウンター攻撃が威力を失うことは分かっていましたが、ストーザー選手の豪打に2ゲームしか取れなかったのは、見るのも忍びない試合となってしまいました。今日の空のように心も晴れませんね。

 さて、個の医療です。

 日米の個の医療の実用化のタイミング差が今月、2週間を切るまで肉薄しつつあります。我が国の規制当局も頑張っているのです。

 個の医療の先陣を切った抗がん剤イリノテカンの副作用を予測するUGT1A1遺伝子検査を、米国食品医薬品局(FDA9が認可したのは2005年6月5日。それに対して我が国で診療報酬収載されたのが2008年11月でしたから、日米の実用化ギャップは3年5ヶ月もありました。当時の個の医療で彼我の差を嘆いたことを覚えています。UGT1A1の遺伝子多型とヤクルトが創製したイリノテカンの副作用の関連を突き止めたのが日本の研究者ですから、嘆きも深くなりました。我が国の大手製薬企業の戦略性と洞察性の希薄さ、イノベーションに果敢に挑戦するベンチャーを欠いたこと、そして規制当局の技術突破に対する後ろ向きの態度など、その当時の日本社会の進歩に対して背を向ける澱んだ状態が、個の医療の普及の脚を引っ張っていました。こうした澱みに一石を投じたのが第1次安倍内閣でした。ドラッグラグを政治問題化し、創薬の基盤整備を推進したことが、いまやっと実を結びつつあります。そして今週、個の医療にもその成果が見える形で現れました。

 2013年5月27日、厚労省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は、中外製薬が申請していた上皮細胞受容体(EGFR)チロシンキナーゼの阻害剤「タルセバ」(エルロチニブ)の薬効拡大を承認、「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性で、がん化学療法未治療の非小細胞肺がん」を追加しました。これによってEGFR遺伝子変異を持つ非小細胞肺がん患者に対して、ファーストラインで投与をすることが可能となりました。今まではセカンドラインでの承認でしたから、これによって我が国でも適用対象となる患者数が増加します。また、薬効を保証するEGFR変異を確かめた後に投薬される個の医療も実現、より薬効を期待できる患者群の選択も可能となった訳です。タルセバはアステラス製薬が買収した米OSI Pharmaceuticals社が開発した分子標的薬で、Genentech社・スイスRoche社・中外製薬が開発権を確保しています。

 一方、FDAがTarcevaに対して、EGFR遺伝子変異を確認した上で非小細胞肺がんに対するファーストラインに対する使用と、独Roche Diagnostics社に対してそのEGFR遺伝子変異を測定する診断薬・装置を認可したのが、2013年5月14日だったのです。なんと時差を考えると2週間を楽に切るまで、我が国での同様な個の医療の実用化が迫ったことになります。但し、問題は我が国ではEGFR遺伝子変異の診断薬・装置に関する薬事承認を欠いていることです。既に、我が国の臨床検査ラボなどでは研究用試薬を用いて、EGFR遺伝子変異の受託検査サービスが行われています。米国でも遺伝子検査の全てが薬事承認ではありませんが、個の医療の拡充のためには、薬事承認(必然的にコストは増大)と非薬事承認(ホームブリュー)のバランスが重要です。EGFR変異型のような多数の検体が予測される検査薬に関しては薬事と、特許切れの後のホームブリュー診断薬の組み合わせは検討に値すると考えます。昨夜のBSでもやっていましたが、遺伝子特許が逆に個の医療の普及を阻害する要因にもなる両面性を持つことは忘れてはなりません。多数の遺伝子変異型を一挙に調べるマルチ遺伝子型検査の時代には、特許料は看過できない開発・商品化の負担となることが見えているからです。これは機会を改めて、皆さんと議論したいと思います。
http://www.gene.com/media/press-releases/14407/2013-05-14/fda-approves-tarceva-erlotinib-tablets-a

 いずれにせよ、日本の個の医療は着実に進展しつつあります。今日は良い気分ですね。

 今週も、どうぞお元気に。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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