こんにちは。1週おきにこのメールを担当しております、日経バイオテク記者の増田智子です。

 5月14日、スウェーデン大使館でフランスCellectis社によるセミナーが開催されました。フランスの企業がスウェーデン大使館でセミナーを開けるのは、同社が2011年にスウェーデンの幹細胞研究支援企業Cellartis社を買収したためです。

 Cellartis社はヒト胚性幹細胞(ES細胞)株や、そこから分化させた臓器モデル細胞、細胞の培養に必要な培地などの販売を早い時期に開始しており、iPS細胞が山中教授により作製されたときにも、いち早く注目してiPSアカデミアジャパンとライセンス契約を結んでいます。一方、Cellectis社は、相同組み換えをはじめとする遺伝子改変技術を持ち、人工ヌクレアーゼを用いた遺伝子組み換えサービスを事業化している企業
(https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20121031/164070/)。
Cellartis社買収後は、両社の技術を組み合わせた幹細胞樹立や、遺伝子組み換え細胞のビジネス展開を狙っています。

 同社のGeorges Rawadi事業開発担当副社長は、医療用のヒトiPS細胞を作製する同社の取り組みについて紹介してくれました。ヒトES細胞を用いて研究していたテーマをiPS細胞にも拡大した膵β細胞による糖尿病治療の研究や、米国立衛生研究所と2012年10月に締結した契約の下、実施している医療用iPS細胞株の作製などです。

 2011年には、フランスで血液供給事業を独占的に実施しているEFSとの協力の下、iPS細胞から血液を作る研究に着手したとのこと。日本ではメガカリオンがiPS細胞由来の血小板の生産を1つ目のプロジェクトとしていますが
(https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130206/166036/)、
Cellectis社とEFSはiPS細胞由来の赤血球の大量生産を目指しています。

 ここで頭をよぎるのは、人工赤血球のビジネスは、これまで様々なバイオベンチャーが挑戦し破れ去ってきた、まさに血まみれの事業領域であるということです。日本でも08年にオキシジェニクスが敗退したのは記憶に新しいところ。海外でも、ウシのヘモグロビンを架橋した人工酸素運搬体である「Hemopure」(米Biopure社)、ヒト血液由来のヘモグロビンを加工した「PolyHeme」(米Northfield Laboratories社)は、後期まで開発を進めたものの商品化には至っておらず、企業も活動を停止しています。最大の競合品である天然の赤血球が、リスクはあり不足が懸念されるとは言っても、そこそこの安全性でまだそれなりに入手可能である、ということが人工赤血球の開発を難しくしています。これは石油と代替エネルギーの関係と似ています。

 しかし、人口高齢化に伴い献血量は減少していくでしょうし、また特に米国では戦地で負傷兵の治療に使える製品が求められることもあり、新しい製品の開発は止まってはいません。米Synthetic Blood International社(SYBD社)のパーフルオロカーボン(PFC)に基づく化学的な酸素運搬体「Oxycyte」の臨床試験は現在フェーズIIにあります。

 Cellectis社も、人工赤血球の開発の困難さは承知の上で、EFSと共同研究を開始したもようです。幹細胞から輸血用の赤血球をつくるというアプローチは新しいものであるため、今度こそ成功するかもしれません。同社はフランスの規制当局とも、医療用iPS細胞の規制方針について議論しており、2013年中にも製造と品質の要件に関する承認が得られると予測している、と話していました。