こんにちは。毎月第1金曜日と第3金曜日、第5金曜日の日経バイオテクONLINEメールの編集部原稿を担当しております日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長の河田孝雄です。2週間前はゴールデンウィーク中のためメール配信を休みましたので4月19日から4週間振りです。

 4週間前のメールで、研究者の業績評価の指標を話題にしましたが、その後、アカデミア研究者の業績を公開する大学がここ1、2年で相次いでいる状況を、隔週発行のニューズレターである日経バイオテク5月6日号にて紹介しました。

※日経バイオテクONLINEの記事

日経バイオテク5月6日号「リポート」、アカデミアの研究者情報オープンアクセス
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130508/167818/

 先週は東京のお台場で、12月に神戸で開催される第36回日本分子生物学会年会のシンポジウム「ガチ議論」のプレ企画の会合があり、日本における若手研究者の待遇の悪さなどについて議論しました。文部科学省の役人お2人が参加しました。

年会企画のウェブサイト
http://www.aeplan.co.jp/mbsj2013/planning.html

日本の科学を考える
http://scienceinjapan.org/

 日経バイオテクONLINEで今日、記事を掲載しました。

分子生物学会年会シンポ「ガチ議論」プレ企画第1弾で会合、文科省から2人が会合に参加
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130517/168362/

 第36回年会長を務めるのは、大阪大学大学院生命機能研究科パターン形成研究室教授の近藤滋さんです。

 今回の会合は5月7日は午後から日本科学未来館、夜は大江戸温泉物語と東京国際交流館で議論し、5月8日は昼過ぎまで東京国際交流館で議論しました。大学院・教育・大学院生の待遇について、(若手)研究者の育成について、任期制と定年制の問題や大学のスタッフの問題について、大学のあり方や運営の問題について、政策の意思決定の仕組みについて、研究への寄付・アウトリーチについて、研究の公正や不正について、文科省の人事制度について、などについて議論しました。

 若手研究者の待遇を改善するためには、定年制のシニアの教授のうちで、研究などの業績が十分でない場合には、退任してもらうような仕組みが必要という意見も当然のことながら出てきました。

 そこで研究者の業績をどのように客観的に評価するかが、重要になります。このメールの最初で紹介したリポートに記載しましたが、論文の被引用数が研究業績の客観的指標としてなかなか優れているようなのですが、論文の被引用数では、論文を発表してから大分時間が経たないと評価が定まりません。そこで、論文発表と同時に数値を示せるジャーナルのインパクトファクターが、指標とされることが多いのが実情です。

 若手研究者であれば自身のキャリアアップのため、PI研究者であれば競争的資金などでより多くの研究費を獲得するため、よりインパクトファクターが高いジャーナルでの発表を目指します。

 世界的な競争状況を見ながら、成果を発表するジャーナルを選んでいくことになりますが、より画期的な論文ほど、高インパクトファクターのジャーナルを狙い、その結果、論文発表までにかなりの時間を要することがよくあります。

 2年ほど前までの成果を発表した論文の記事をまとめる機会も多いのですが、今週も1つありました。

東大医科研の中内啓光教授ら、テラトーマに着目してiPS細胞から造血幹細胞を作製、免疫不全を治療
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130514/168177/

 研究業績の客観的評価の指標として、高速通信・ビッグデータ時代の到来で可能になったものが登場してきました。

 今週水曜日には東京大学工学部で、石川正俊さんと篠田裕之さんのお2人の教授が、身のまわりのものがコンピュータに変身する、という内容の研究成果を発表しました。東大と科学技術振興機構(JST)の共催です。

 石川さんの研究業績について、4週間前のメールで少し紹介しましたが、YouTubeチャンネルで、石川研究室は400万ビュー、篠田研究室は200万ビューとのことで、大きい反響を呼んでいます。

必勝じゃんけんロボットのビューは360万回、石川正俊・東大教授がJSTで発表【日経バイオテクONLINE Vol.1872】
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130419/167519/

 今日と明日、都内で開催されている日本ビタミン学会第65回大会の委員長を務める東京大学大学院薬学系研究科教授の新井洋由さんは、「いわゆるインパクトファクターの高い雑誌に、ビタミン関連の研究成果が採択されているが、分子レベル、細胞レベルに限られることも多く、本来生体を対象にした栄養学を基本とするビタミン学からは逸脱しかねない面もある」と、大会のキャッチフレーズを「ビタミン学の展望:分子からシステムへ」とした理由の中で指摘なさっています。

 2年前から大学は研究成果の公開が義務付けられたため、論文発表などの成果を大学のホームページなどで日本語で解説する例が急増しています。

 税金研究の成果を社会に還元できていることをいかに客観的に示していけるか、も課題となっています。

 今週取材した東京大学大学院薬学系研究科准教授の花岡健二郎さんらの研究室の場合、蛍光色素など既に16を超えるものが製品化されているとのことです。この4月に東京大学大学院薬学系研究科創薬オープンイノベーションセンターの特任教授 に就任なさった長野哲雄さんのグループの研究成果です。今年2月にまとめた以下の記事も、実用化したうちの1つです。

東大薬の花岡准教授ら、赤い蛍光試薬で細胞内Ca可視化、五陵化学が4月発売
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130219/166333/

 大学の場合、教育への貢献をどう客観的に評価できるかという課題が別途ありますが、研究における貢献でも論文、特許、実用化・商品化、産学連携などを評価する仕組みの進化が必要では、と思います。

 メール最初の日経バイオテク掲載リポートでも少し触れましたが、「研究論文の影響度を測定する新しい動き」と題する報文を、科学技術政策研究所(NISTEP)の科学技術動向研究センター上席研究官の林和弘さんがこの春、「科学技術動向」で発表しました。論文単位で即時かつ多面的な測定を可能とするAltmetricsなどを紹介しています。NISTEPの以下のサイトから全文をご覧いただけます。
http://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-foresight-and-science-and-technology-trends/sttbacknumbers

 高インパクトファクターのジャーナルでの論文発表を目指すことが、論文の捏造問題の一因になっていることは、否定できないのではと思います。第36回日本分子生物学会年会では3日間の午前午後、6セッションにわたり捏造問題を議論するとのことです。

 メール原稿の締め切り時間になりましたので、今回はこの辺りで失礼します。

           日経BP社 医療局 先進技術情報部
           日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長 河田孝雄

※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html