こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。

 昨日、5月9日、日本のバイオ業界にとって重要な記者会見がありました。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)と日本新薬の会見です。両社はアンチセンス核酸医薬の共同開発を行っており、臨床試験実施のめどが立ったことで情報を公表しました。

NCNPがアンチセンス薬の医師主導治験を開始へ、国産では初、日本新薬と共同開発
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130510/167870/

 この治療薬NS-065はディシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を適応としており、その作用機序はジストロフィン遺伝子のエキソン53のスキッピングです。エキソンスキッピングを作用機序とするDMD治療薬はGSK社とSarepta社が臨床試験を実施していますが、国産のアンチセンス核酸医薬が臨床入りするのはこれが初めての事例です。

 まずは、イノベーティブでそれだけに困難な研究開発に長年取り組んできたNCNPの武田伸一部長に敬意を表します。また、エキソン53スキッピングが有効なDMD患者は国内に300人程度しかいません。ウルトラオーファンに挑戦する日本新薬の勇気も称賛されるべきでしょう。

 DMDのエキソンスキッピングと言えば、2月に第一三共が発表したプロジェクトが思い起こされます。

第一三共、産業革新機構と設立する子会社通じて核酸医薬開発に着手
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130214/166230/

第一三共が設立するOrphan Disease、4年で筋ジス治療薬のPOC取得目指す
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130214/166232/

第一三共と産業革新機構、筋ジス薬開発の新会社設立で会見
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130218/166283/

 両プロジェクトでは、スキップするエキソンが異なります。NCNPは53ですが、第一三共は45です。53も45もDMDの約8%に存在します。また、NCNPの核酸はモルフォリノですが、第一三共はENAです。第一三共のプロジェクトでは臨床入りの時期がまだ公表されておらず、進捗度ではNCNPの方が最低1年は進んでいるようです。

 昨日の会見で質問してはみたものの、明確な答えが返ってこなかった点が2つあります。1つは投与量の問題です。Sarepta社の製品はNCNPと同じくモルフォリノですが、その投与量は最大50mg/kgに設定されています。患者は週に1回程度、生涯この薬を使わなければなりません。大人になっても同じ投与量とすると、体重70kgの人には毎週3.5gを投与することになります。武田部長らの説明では、Sarepta社よりも少ない投与量で済む可能性があるそうですが、それにしてもg単位の薬を毎週、点滴で投与することが、理論的には可能であっても現実的なのかどうか。規制当局は当然、長期投与時の安全性を指摘してくるでしょう。

 もう1つは製造の問題です。最近、核酸の受託製造会社を取材する機会があったのですが、医薬品グレードの核酸の製造コストは以前としてかなり高価です。日本新薬はまだ詳細なコスト計算は詰めていないと言っていましたが、投与量が多いだけに製造コストをどこまで落とせるかが、このプロジェクトをビジネスとして成功させるための分岐点になりそうです。