皆さん、お元気ですか?

 5月になりましたが、東京は外に出るとやや寒い。若葉の碧が目に優しい季節ですが、視覚から得る夏だという情報と体表が感知する寒いという情報とが頭で錯綜しており、妙な気分です。UEFAチャンピョンズリーグの決勝リーグもスペインのリーガエスパニョーラが世界最高であるという思い込みと第一戦(スペインのアウェイゲーム)のレアルマドリード(1対4でドルトムントが勝利)とバルセロナ(0対4でバイエルン圧勝)の惨敗が頭の中で錯綜しています。クリスチャン・ロナウドとメッシというそれぞれの天才プレーヤーを柱としたチームがその天才の不振でここまで脆くなるとは。既に昨夜行われた第二戦でレアルマドリードは2対0で勝利しましたが、決勝リーグ敗退が決まりました。明日午前3時から始まるバルセロナ対バイエルンではバルセロナが5対0で勝利しないと決勝進出は不可能です。この試合をLIVEで見るべきか?実に悩ましい状況です。

 さて個の医療です。

 経済産業省が昨年度密かに調査していた「遺伝子ビジネスに関する調査」が公表されれました。今回が二度目の調査なので、”密かに”はやや大袈裟でしたが、このメールでも外食大手のゼンショウがゲノフという合弁企業で遺伝子検査事業に進出し、ヤフージャパンがGenesis Healthcareと提携し、GeneLifeという遺伝子検査サービスを始めるなど、我が国でもOTC遺伝子検査(医療機関を通じない一般遺伝子検査)事業が離陸し始めており、それがどこまで我が国で普及し、市場を形成し始めているのかを把握するには絶好の調査となりました。是非ともご一読願います。

http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/bio/24idenshibizinesu.pdf

 しかし、我が国のOTC遺伝子検査事業にはまだ個人情報の取り扱いや遺伝子機能の解説、そしてそれらを含む倫理的な側面で未熟さが目に付きます。例えばゲノフにはまだ本来設置されていなくてはならない社内の倫理委員会が設置されていません。ゲノフの遺伝子検査と管理栄養士さんのアドバイスを組み合わせて健康指導するアイデアは抜群ですから、是非とも倫理委員会の整備を急いでいただきたい。また、ヤフージャパンをメディアと考えるならば、OTC遺伝子検査のまっとうな情報提供もしていないのに、いきなりGeneLife診断サービスの購買サイトだけオープンするのは中立性を損なうものです。但し、それではOTC遺伝子検査なんて無用ではないか、という意見には与しません。何故なら、一般市民が遺伝子や遺伝という現象に興味を持ち、遺伝情報を基にライフ・スタイルを再検討することは、将来必ず到来する全ゲノム解析・全エピゲノム解析に基づく、個の医療を市民が受け入れ、活用するための肩慣らしになると考えるからです。

 但し、問題は例えそういう変異を私がもっていたとしても、本当に病気になったり、美形になったり、頭が良くなったり、肥満にならなかったり、する妥当な確率を提供できるのか?という疑問です。まして、医学研究には情報の非対称性があります。遺伝医学的研究ではどうしてもまず病気を起こす遺伝子(仮に悪魔の遺伝子と渾名します)が見つかります。したがって遺伝医学研究の黎明期にある現在では、がんになる遺伝子やアルツハイマーになる遺伝変異など救いようのない悪魔の遺伝子群が発見、報道されることになります。がんに成らない遺伝子やアルツハイマーに成らない遺伝子(仮に、天使の遺伝子と呼びます)などは、疾患遺伝子を持っているのに発症しないヒトの研究から分かってきますので、天使の遺伝子群はいつも遅れて発見されるのです。ゲノム研究は壮大なパンドラの箱を開けているのです。早急の悪魔の遺伝子群を解明し、天使の遺伝子群の探求を始めなくては、いつまでもOTC検査はただ心配の種だけを消費者の提供することになるのです。更に、もう一つやっかいなことは、天使が天上を追放されて悪魔になったように、悪魔遺伝子か天使遺伝子かは、実はそのヒトのライフ・スタイルや環境によっても、変化してしまうことも報告されています。つまり生命や人生は単純ではないということです。遺伝子の機能は決して、今でも、そして今後容易には全貌を解明できないと心しなくてはなりません。

 そのため、現在のOTC遺伝子検査結果はお神籤程度として受け取ることが重要です。深刻に考えてはなりません。ある神社で大凶でも次の神社では吉と出ることは良くあることです。実はOTC遺伝子検査も依頼する検査会社によっては、変異遺伝子の機能解釈がばらつくので、がんになる確率が高いとご託宣をいただいて、気に入らなければ別の会社に頼むと違う結果がでる場合もあるのです。経産省の報告書15頁では、頭の良さや色彩感覚、敏捷性や持久力などを決めると研究報告された18種の能力遺伝子のリストが載っていますが、これを一瞥すれば常識人ならOTC検査はまだまだ占いの域を出ていないことを喝破できるでしょうが、同時に自分の潜在能力に対する想像をたくましくするエンターテイメントとしてOTC検査を楽しめることもご理解できると思います。今は本当に娯楽なのです。しかし、現在、世界各国で急進展している全ゲノム・エピゲノム解析と前向きのゲノム・エピゲノムコホート研究によって、遺伝子機能の解釈の精度が向上し、疾患のリスクや潜在能力(一部を除き、これはどだい無理かもしれません)を判断できる次世代の個の医療の時代がやってきた時に、市民が遺伝と自分のライフ・スタイルの関係を理解する地固めになると期待しています。遊びこそが、先端技術を社会に受け入れさせるためのエンジンであることもまた事実なのです。

 実は経産省の担当者も今回の報告書で、占いの隣に現在のOTC検査はあると指摘すると聞いていた気もしますが、15頁まで読んだところまでは書いておりませんでした。まあ、国が敢えてOTC検査をお神籤と認定するのも営業妨害となるため、遠慮したのかも知れません。

 さて、やっと募集サイトをオープンいたしました。6月19日午後、品川でiPS細胞の実用化の本命である医薬品のスクリーニングや安全性研究への応用について、セミナーを開催いたします。武田、エーザイ、京大iPS細胞研究所、医薬品医療機器総合機構などから講師を招聘、リアルに産業化の現状と課題を討議したいと思っております。是非とも下記のサイトよりお早めにお申し込み願います。非常に急速にiPS細胞の産業応用が進んでいることを体感できるはずです。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/130619/

  皆さん、残りのGWもご堪能願います。お元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満