昨年9月にベバシズマブ(アバスチン)の再発膠芽腫に対する承認申請が行われ、後を追うように第17回米国脳腫瘍学会でAVAglio 試験の中間解析結果が明らかにされました。これまで、膠芽腫に対して有効な薬剤はテモゾロミド(テモダール)くらいしかなかったことから結果が注目されましたが、それ以上に関心が集まったのは、副次評価項目に加えられていたQOLについてでした。

 まず承認申請は、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に基づく開発要請を受けてのもので、ベバシズマブがヒストリカルコントロールと比較してPFSを延長させるという報告と、初発膠芽腫患者を対象としたフェーズII試験での良好な成績が裏付けとなっています。膠芽腫ではVEGF(血管内皮細胞成長因子)-Aが過剰発現していることが以前からわかっており、抗VEGF ヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブの有効性が期待されていました。

 そしてAVAglio 試験は、初発の膠芽腫患者を対象に、テモゾロミドと放射線療法の併用に加え、ベバシズマブを投与した群とプラセボを投与した群を比較した無作為化二重盲検プラセボ対照のフェーズIII試験です。主要評価項目は試験担当医師の評価によるPFSとOS、副次評価項目は独立評価委員会の評価によるPFS、1 年および2 年の生存率、安全性、そしてQOLです。QOLは、EORTC QLQ-C30と脳腫瘍特異的な指標であるQLQ-BN20を用いて評価されました。

 試験担当医師によるPFSでは、ハザード比0.64(95%信頼区間:0.55-0.74、p < 0.0001)で有意な延長を認め、PFSの中央値は、プラセボ群が6.2カ月、ベバシズマブ群が10.6カ月でした。またQOLも、安定以上(安定もしくは改善)の期間がベバシズマブ群において2カ月から4カ月長い傾向を示しています。

 近年、新薬の承認において、QOLの評価が重要視されています。FDAが新薬を承認するためのポイントは「LIVE LONGER」とともに「LIVE BETTER」。2006 年以降にFDAで承認された抗癌剤の25%以上が、PRO(Patient-reported outcomes:患者報告アウトカム)によるQOLも評価対象としており、その結果を添付文書にも記載しているといいます。

 PROは、被検者の症状に関して被検者自身が判定し、医師をはじめとする他者が関与しないという評価方法です。もちろん、疼痛治療薬など、患者の主観でしか効果を評価できない薬剤もありますが、それ以外の疾患領域でもPROが重視されて来ているのです。ただしPROは全ての領域の評価に適するわけではなく、FDAは20疾患を選定しツールの開発などの検討を行うとしています。

 この背景には、単なる延命ではなく自身のQOLも重視するという、患者ニーズの変化があるのは間違いありません。

 例えばリウマチでは、欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が、関節リウマチの緩解基準に患者自身が評価する全般評価を組み入れました。しかし、疼痛関節数や腫脹関節数、CRPといった他の指標が寛解基準に達しているのに、患者の全般評価だけが基準に達しないため寛解と判定されない患者が多いといった指摘がなされ、議論を呼んでいます。そこで明らかになったのは、患者が全般的な評価を決定する際に重視していたのは疼痛だったのに対し、医師が全般的評価で重視していたのは腫脹関節数だったということでした。患者と医師の総合的な評価は、異なる視点でなされていたのです。

 最初に挙げた脳腫瘍に関しては、多くの脳外科医はPFSが延長すればQOLが保たれるだろうと感じていましたが、PFSとQOLが相関するというデータはこれまでありませんでした。今回、「腫瘍の増殖が抑制されている= QOLが保たれる」ということが証明され、臨床医からは好意的に受け止められているようです。患者さんが元気でいられる期間が延びることは、患者さんにとってメリットだというわけです。

 その一方でPROには、新薬の開発において、OSやPFSといったハードエンドポイントだけでは脱落してしまう薬剤を救済できるという側面もあります。

 日本では今、薬剤の承認に関して費用対効果が注目されていますが、もう1つPRO重視という流れも、これから強くなって行くのでしょう。

ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。

https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

                    日経バイオテク編集長 関本克宏