Wmの憂鬱、日本版NIHの正体【日経バイオテクONLINE Vol.1876】

(2013.05.01 00:00)
宮田満

皆さん、お元気ですか?

 弘前城の桜が開花を初めました。ゴールデンウィークに満開が間に合った格好です。10年前に丁度ゴールデンウィークの時に弘前を訪れ、名高い弘前城の桜を堪能しようと思ったら、緑一色の葉桜であったことを思い出します。地球は温暖化しているのか?寒冷化しているのか?専門研究者でも意見が分かれておりますが、地球規模の変動と個人が認識できる変動の時間軸が異なるためどちらが本当なのか?訳が分からなくなります。しかし、今年の春は冷たい春でした。皆さんの体調はいかがでしたか?鳥インフルエンザのデータベースであるGISAIDのニュースによれば世界保健機構は2013年4月29日に新たに17人のH7N9の新規患者発生を発表しました。流行が始まったか?と慌てましたが、その前の発表が25日だったので4日間の新規患者の合計でした。しかし、台湾まで飛び火しております。H7N9の情報にはアンテナを立てておかなくてはなりません。

 やっと募集サイトをオープンいたしました。6月19日午後、品川でiPS細胞の実用化の本命である医薬品のスクリーニングや安全性研究への応用について、セミナーを開催いたします。武田、エーザイ、京大iPS細胞研究所、医薬品医療機器総合機構などから講師を招聘、リアルに産業化の現状と課題を討議したいと思っております。是非とも下記のサイトよりお早めにお申し込み願います。非常に急速にiPS細胞の産業応用が進んでいることを体感できるはずです。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/130619/

 さてバイオです。

 2013年4月22日の日経バイオテクONLINEメールで、日本版NIHを創設するなら決して各省庁の縦割り組織に矮小化してはならないと論じました。現在の安倍政権が構想している日本版NIHの骨子が、誠にタイミング良く4月23日に政府の産業競争力会議で、管内閣官房長官から発表されました。幸い、これを見る限り、長年我が国の政府の機構改革として夢見てきた省庁縦断的な医療イノベーションの司令塔機能が誕生する期待を抱かされるものとなっています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai7/siryou06.pdf

 もし、本当に日本版NIHが実現するには最低限、1)内閣主導の組織編成、2)省庁縦断的な予算編成と配分の一括管理、3)利害関係者を排したオールジャパンでの研究戦略策定と研究遂行、が保証されなくてはななりません。欧米各国では80年代からバイオテクノロジーの研究開発を推進してきたのは厚生労働省でありました。最も直接的にバイオ研究のインパクトが最大限に発揮できるのが、医療と健康の分野だからです。米国のNIHしかり、英国のMRCしかりです。しかし、日本はその意味では極めて国際的に特異的な存在でした。文科省、経産省がバイオテクノロジーを牽引、様々な戦略的なプログラムを打ち出していたためです。しかし、こうした巨額な費用を投入したナショナルプロジェクトの出口は、医療や予防でありましたが、肝心の厚労省がバイオテクノロジーに対して、研究開発振興課を除き、極めて冷淡であり、それは他省庁の案件でしょうという知らぬ半兵衛を決め込んでいたのです。まあ、一種の怠業です。また文科省も基礎研究からその後のことは自分たちの管轄ではない、という怠業を決め込んできました。経産省はつい最近まで本格的に医薬産業に介入することを躊躇っていたのです。

 その結果、何が起こったのか?

 基礎研究はなるほどiPS細胞によるノーベル賞など国際的な貢献と影響力を発揮するものの、国民に対するその成果の還元の道が分断されており、従来の化学合成の生活習慣病にのめり込み、バイオ医薬の破壊的イノベーションに乗り遅れた我が国の製薬産業は 2011年に2兆3929億円の輸入超過(薬事工業生産動態統計)という体たらく、国民に必要な医薬品すら自給できない国に成り果てつつあります。抗体医薬の本格的商業化が始まった2001年から10年連続の輸入超過を記録しています。一見盤石のように見える我が国の大手製薬企業も実は累卵の危うきに直面しているのです。実際、我が国で革新的な新薬に認められている薬価優遇(新薬創出加算)の適用を受けているのは、標的薬や抗体医薬で新薬を続々と市場に投入している外資系企業がずらりとならびます。日本の大手製薬企業遥か下位に甘んじています。

 我が国の製薬企業の経営者が今はジェネリックに置き換わってしまった生活習慣病薬のゾロ新が永遠に続くという根拠のない自信によって、90年代にバイオ撤退という世界的にも奇妙な決断を下したことが第一因ですが、今の輸入超過の第二の原因は、医療イノベーションを興すインフラ整備を政府が怠ったことは間違いないことであると思います。

 そこで出てきたのが日本版NIH構想です。厚生労働省はやっと医療イノベーションに本気になって来ましたが、大いなる矛盾は医療イノベーションの兵糧である多額の研究費を握っているのは文部科学省であるということです。つまらぬ話ですが、主に旧科学技術庁系統の文部科学官僚が握っていた振興調整費をどれだけ、日本版NIHに振り向けることができるか?この暗闘が現在行われております。振興調整費にはエネルギーや宇宙開発、防災など多様な分野がありますが、いよいよ核廃棄物処理を除く原子力研究、宇宙研究(はやぶさはありますが、米国では宇宙産業の育成が進んでおり、いつまでも親方日の丸ではまた時代の後塵を拝します)をばっさりと大鉈を振るう時が来たと考えています。単なる振興調整費の分け前競争に終わるのではなく、我が国全体として科学研究の配分の見直しという大きなシナリオに沿って、今回の日本版NIHも実現しなくてはならないのです。

 加えて、管官房長官が指摘した3項目以外に、ナショナルセキリティ番号、共通電子カルテ、適切な病院配置や人員配置と教育、医師・医療関係者と患者教育など、我が国が医療イノベーションを遂行するために不可欠な医療インフラの総点検にも是非とも挑戦していただきたい。医療イノベーションは技術だけでなく、社会イノベーションを伴わなくては成就できない。医者や学者だけが考えるべき課題ではないのです。

 高齢化社会で世界の先頭を行く、我が国の医療イノベーションは人類が経験したことのない未曾有の高齢化社会に直面する世界を幸福にする価値を創出できると期待しています。シームレスな産業化のインフラが加われば、我が国がかつて製造業で輝いていた80年代の栄光を、知識産業でも取り戻すことを夢見ることができるのです。憲法改正より、間違いなく国民が素直に歓迎する安倍内閣の最大の実績となる可能性があります。

 さて、こうした医療イノベーションを興すにしても、最大のネックは人材であります。現在、バイオ投資・ライセンス関係者の教育プログラム、バイオファイナンスギルド第12期の参加者を募集中です。今年も7月から新学期を開始いたします。ご興味のある方には資料を送付いたしますのでhttps://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/ でご請求願います。

 今週も皆さん、どうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

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