こんにちは。1週おきにこのメールを担当しております、日経バイオテク記者の増田智子です。

 最新号の日経バイオテクの特集は、日本農芸化学会でした(https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130423/167582/)。会員数1万1600人を誇る、バイオ分野では大きな学会です。農芸化学は、農業や農産物の加工に使える化学、という当初の学問から、バイオテクノロジーの基礎である発酵生産技術や、生体に含まれる様々な微量成分の分析技術などへと発展しました。

 私にとっては、農芸化学と聞いて一番初めに思い出すのは、作家の星新一です。詳細な経歴は公式サイト(http://www.hoshishinichi.com/)をご覧いただけばと思いますが、彼は1950年に東大農学部農芸化学科の博士前期課程を修了という「バイオの人」でした。1951年の日本農芸化学会誌に、本名(星親一)で執筆者の1人となった、アミラーゼの微生物生産に関する論文が載っています(http://ci.nii.ac.jp/naid/130001216914)。

 小学生の時に通っていた塾で、星新一のSFショートショートを読むのが大流行した時に「農芸化学」という言葉も見たような記憶があります。当時は既にバイオテクノロジーという言葉が一般に定着していたので、珍しい言葉だと思いました。今回の特集によると、農芸化学という名称が組織名として残っている大学は3つのみ。言葉は使われなくなると廃れるのも早いものです。農芸化学会では、高校生が研究発表する企画を設けるなどして、若年層へのアピールを積極的に実施している模様です。

 星新一と言えば、SFショートショート、ではあるのですが、バイオテクに関わりのある読者にとっては、彼が執筆した評伝も興味深いかもしれません。星新一による父親の評伝「人民は弱し官吏は強し」は、タイトルから予測される通り、「米国で経済学や統計学を学び修士号を取って帰ってきたベンチャー起業家が、日本の官僚制や規制の壁に阻まれる」というもの。あらすじだけ聞くと現代でも珍しくないような話です。

 星新一の父親の星一(はじめ)は、明治の創薬ベンチャーともいえる星製薬の創業者でした。星一は成功した事業家として、同じ福島県出身の野口英世の後援をしたり、衆議院議員に立候補して当選したりもします。しかし大正末から昭和にかけての星製薬の経営はトラブル続きでした。人間の命に直接かかわる医薬品を扱う以上、製薬企業は規制を順守し規制当局の指示には従わなければなりません。その当局が業務に業務外の事情を持ち込んだため、様々な悪影響をこうむることになるのでした。

 この本はハッピーエンドではないので、人によっては読後、すっきりしない気分になる可能性がありますが、星一の少年時代から米国留学時代をカバーした「明治・父・アメリカ」はもっと明るい雰囲気です。米国で研究に没頭する野口英世が登場します。また、母方の祖父にあたる東大医学部解剖学教授・小金井良精の伝記「祖父・小金井良精の記」も、東大医学部周辺の明治・大正時代の歴史をなぞっていて面白いです。この本には、昨年、生誕150周年だった森鴎外が主な登場人物の1人として登場します。ゴールデンウィークの読書にいかがでしょうか。

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