Wmの憂鬱、架橋型核酸ENAに対する自信の背景【RNAメール Vol.99】

(2013.03.16 00:00)
宮田満

 皆さん、お元気ですか?

 我が国にも再びアンチセンスDNA医薬に意欲的な企業が登場いたしました。
 それは第一三共です。

 同社が粘り強く、オリゴ核酸医薬の研究チームを温存し、オリゴ核酸誘導体の開発を進めていたことは知っておりました。影ながら「頑張れ」と心では声を掛けていました。同社は現在、大型の国際臨床試験を展開しており、真水の研究費は厳しい状況でした。この状況を打破して、同社の独自技術である架橋型核酸ENA(2'-O,4'-C-Ethylene-bridged Nucleic Acids)を活用した筋ジストロフィー治療薬の開発を行うため、産業革新機構、三菱UFJキャピタルと共同出資で株式会社Orphan Disease Treatment Institute(ODTI)を、今月(2013年3月)に創立し、臨床研究に着手することを発表しました。

http://www.daiichisankyo.co.jp/news/detail/004570.html

 新政権から医療イノベーションを加速しろと圧力を受け、ここのところバイオベンチャーへの投資に目覚めた産業革新機構に持ち込んで、フェーズ2aまでのPOC(Proof of Concept)を得る臨床試験費用16億5000万円(産業革新機構の上限の出資)+αを獲得することに成功しました。技術というよりも、ビジネスモデルの革新によって、社内でくすぶっていたオリゴ核酸医薬のエネルギーを放出することに成功しました。産業革新機構としても、POCが確認できれば、第一三共が株式を買い取る契約ですので、極めて堅い投資となりました。両者にとってウィン・ウィンの関係が構築できたと考えています。産業革新機構も目利き力を直視して、製薬企業内で経営陣の理解が得られにくいパイプラインを再生させる持ち込みプロジェクトに専念すれば、社会的な責務を果たせると考えます。

 さて、第一三共がそこまで知恵と汗をかいたのには、当然ながら理由があります。

 それは同社のオリジナルである架橋型核酸ENAに対する自信です。アンチセンスENAにより、エクソンをすっ飛ばし、短縮型ジストロフィンの生産を誘導する(エクソン・スキッピング)によって、筋ジストロフィー患者を治療するのが、ODTIの目的です。筋ジストロフィーをエクソン・スキッピングで治療可能であることを世界で初めて提唱した神戸学院大学総合リハビリテーション学部の松尾雅文教授との共同研究で、出願したアンチセンスENAを使用します。しかし、この筋ジストロフィーのエクソン・スキッピング療法には、2011年からフェーズ3に入った英国GlaxoSmithKline社・英国Prosensa社が立ちはだかっています。日本でも国立精神・神経医療研究センターが国際臨床試験に参加、2013年夏から患者に投与する計画を、先月発表しています。GSK社のアンチセンスDNAは2’-O-メチル化されたオリゴDNAです。

 第一三共の自信の背景には、同社が基本特許を日本で成立させ、欧米でも一部確保したENAの卓越性にあります。最大の理由は、ENAの方が血中で安定である。DNA分解酵素にも、加熱にもENAは耐性を示す頑強な架橋型核酸であります。現在、米Isis Pharmaceuticals社も含め多数の企業が次世代のアンチセンスDNAの素材となる核酸誘導体の開発に殺到しています。モルフォリノ、2’Oメチル化、2'4'Oメチル化、架橋型核酸LNA(Locked Nucleic Acid)、それに詳細は不明ですがLNAに限りなく近いIsis社の第2.5世代オリゴ核酸などなど。LNAを開発しているデンマークSantaris Pharmaceuticals社とIsis社は厳しく特許係争中です。

 実は私は架橋型核酸誘導体が、全身投与のアンチセンスDNAには最適であるのではないかと期待しています。そこに第一三共のENAが今後のオリゴDNAの覇権を争う架橋型核酸の臨床開発競争に突如参入したのです。LNAの特許期間は2年程度しか残っていません。また、アンチセンスDNAではある程度の毒性も臨床試験で報告されて来ました。前回、お話した「Kynamuro」の販売承認も欧州で一旦拒絶されたのは、循環器系に対する副作用のリスクが理由でした。

 毒性を下げるには、投与量を削減するのが一番の早道。血中安定性は投与量減少の切り札となりえます。また、同時に製造コスト削減にも直結します。ENAの実力はこれから臨床試験で問わなくてはなりませんが、今まで蓄積した前臨床試験のデータからは、かなり期待できます。ODTIの動向に是非ともご注目願います。

 今月もどうぞお元気で。

      日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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