繰り返し語られる日本版NIHという“夢”【日経バイオテクONLINE Vol.1853】

(2013.03.07 00:00)
関本克宏

 安倍内閣が掲げる「3本の矢」、つまり大胆な金融緩和と機動的な財政出動、そして成長戦略に関する、具体的な動きが報道されるようになりました。3月1日には安倍首相が、「イノベーション戦略の全体像を示すため総合戦略を策定したい。総合科技会議の司令塔機能を、権限と予算の両面で抜本的に強化する」と述べたそうです(日本経済新聞3月1日付夕刊による)。

 これに先立つ2月22日には管義偉官房長官が、内閣官房に「健康・医療戦略室」を設置すると発表しました。「医薬品・医療機器を戦略産業として育成し、日本経済再生の柱とすることを目指す」といいます。厚労省もこれを受けて、実働部隊として「健康・医療戦略推進本部」を設置。健康・医療戦略室は、NIHがモデルだとする報道もあります。

 ここで頭に浮かぶのは、2011年に日本から先端的な医薬品・医療機器を創製することを目的に民主党が内閣官房に設置した「医療イノベーション推進室」のことです。室長は現シカゴ大学の中村祐輔氏でした。

 医療イノベーション推進室は、技術開発への支援策が厚生労働省、経済産業省、文部科学省に分散している現状を見直し、予算とその配分機能を持つ組織を設立することを目指していました。中村氏も、「縦割り予算を排すため、将来は関連省庁から権限と予算を分離して、日本版NIHの創設につなげたい」と発言しています。

 しかしながら各省庁の抵抗は強く、中村氏は2011年末に同室長を辞任し、シカゴ大学へと転出したのはご存じの通りです。結局その支援策は、翌年夏に「創薬支援ネットワーク」というところで決着しました。早い話が、「各省庁が連携してうまくやってね」ということでしょうか。

 今回の健康・医療戦略室の設置により医療イノベーション推進室は廃止となりますが、何が違うのかはまだわからない段階です。実現に向けて、「iPS細胞」という追い風が吹いていることは前政権との大きな違いではありますが。

 ところで、「中村氏がやめたがっている」という噂が流れ出したのは2012年予算の概算要求が終わったころからだといいます。翻って自民党政権下での2013年度政府予算案をみると、民主党政権の目玉だった厚労省の「医療イノベーション5カ年戦略」関連の予算は大幅に減少し、「創薬支援ネットワーク」という言葉も消えています。

 一方目立つのは、経産省の「再生医療等産業化促進事業」で、1年間に3社程度を採択し、企業が行う再生医療の臨床試験に1社あたり2億円から3億円の補助を行うというものです。文科省が基礎、経産省が装置や基準作り、厚労省が臨床を担当するといった、従来の枠組みを超えるものになっており、省庁間の競争が激しくなることが予想されますが、それが各省庁を刺激し、開発が進むという見方もあるようです。

 ところで、先日のメールでお伝えした、創薬に向けて医科大学に癌の寄付口座を作った「市民のためのがんペプチドワクチンの会」のWEBサイトには、以下の言葉があります。「こうした日本の状況を改善するには、患者と医療関係者がともに手を携え、国に圧力を加えるほかありません。黙っていても何も動きません」。中村氏は現在、同会のアドバイザーグループに名を連ねています。中から変えられなかったものが、外から変わって行くのでしょうか。

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                    日経バイオテク編集長 関本克宏

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