第一三共と産業革新機構が新会社を立ち上げ、神戸大学の松尾雅文教授らのアンチセンス医薬の実用化を目指す、というニュースは大変注目されました(https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130214/166230/)。このニュース、編集部内でも波紋を呼びました。「exon」をカタカナでどう表記するか、という議論です。

 日本工業標準調査会(JIS)では「エクソン」「エキソン」どちらも利用されており、ウィキペディアや辞典の類でも併記されています。第一三共のプレスリリースでは「エクソン」を採用していました。このため「エクソン」で統一するか、という意見も出たのですが、ひとまず「エキソン」にしました。

 その理由は、カタカナ表記だと混同しやすい類語があるためです。高速シーケンサーでよく実施されるようになったexonの網羅的解析は「exome」です。これによく似ているものの全然違うものを表す言葉で、「exosomes」(細胞の分泌顆粒)があります。カタカナでexonをエクソンとするとexomeはエクソームとなり、エクソソームと極めてよく似ています。

 日経バイオテクでは、これらの単語が同一の誌面で登場する可能性はかなり高いです。私は既に、エキソームの取材だと思っていたものが実はエクソソームで焦ったことがあります。今後、特定試料中に含まれる全分泌顆粒の分析、などが実施されるようになれば、全エクソソーム解析という言葉が誌面に登場するかもしれません。というわけで、将来も見据え、混乱を避けるために「exon=エキソン」としました。

 バイオ分野では、表記が固まる前に研究の最前線が移動してしまうため、ある事象の呼び方が定まらないのは珍しくありません。単語の発音が人ごとに違うのも普通のことです。表音文字であるカタカナを使うと、バリアントはますます増えます。兵庫県立大学大学院生命理学研究科の月原冨武特任教授の内藤記念科学振興賞受賞講演(https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130223/166404/)で話題になったのは、「cytochrome」の表記でした。月原教授によると「標準語」はシトクロム。しかし大阪大学の生化学者で、このたんぱく質の創成期の研究を進めた奥貫一男教授が「チトクロム」を使っていたために大阪弁として「チトクロム」が残ったそうです。

 今回の件については、国立情報学研究所のオンライン学術用語集(http://sciterm.nii.ac.jp/)も調べたかったのですが、「ソフトウェア不具合のため,オンライン学術用語集のサービスを停止します。サービス復旧時期等は未定です。(2013/1/22)」とのことでした。なかなかゼロにすることは難しいのですが、編集部では日々、なるべく表記揺れが出ないように努力しております。

 ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。
  https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

                    日経バイオテク 増田智子