こんにちは。毎月第1金曜日と第3金曜日、第5金曜日の日経バイオテクONLINEメールの編集部原稿も担当しております日経バイオテクONLINEアカデミック版編集長の河田孝雄です。

 ただいま広島におりまして、今日の広島大学は雨です。薄化粧が残っているので、明け方は雪だったようです。

 Nature Publifhing Group(NPG)のScientific Reports誌やNature Communications誌で発表した成果についてこの広島でもうかがっておりますが、今回は成果を発表するジャーナルの選択を話題にさせていただきます。

 できるだけインパクトファクター(IF)の高いジャーナルに発表することが、論文の筆頭著者ともなる若手研究者のキャリアアップで大切なのですが、一方で、早く論文を発表することも重要です。発表した論文の質は、その後、その論文がどれだけ引用されたかという被引用数が重要な目安になりますが、この被引用数は時間が経過することにより明らかになってくるものなので、若手研究者ほど、指標になりにくい場合もあります。独創的な論文ほど、注目を集めるまでに長い年月を要するという事情もあります。分野ごとで被引用数の基準が大幅に異なる、解析に用いる論文被引用データベースにより被引用数は異なる、などにも注意が必要です。

 10日前の話になりますが、2月5日に都内で開催された第200回生命科学フォーラム(後援:大正製薬)では、世界トップレベル研究拠点(WPI)大阪大学免疫学フロンティア研究センターの審良静男拠点長・教授と、理化学研究所神戸研究所発生再生科学総合研究センター(CDB)の竹市雅俊研究所長・センター長の講演をうかがえました。講演タイトルは審良拠点長が「自然免疫の新しい考え方」、竹市所長が「細胞という生き物による体の自己組織化」でした。

※日経バイオテクONLINEの関連記事

第200回生命科学フォーラム、審良静男拠点長と竹市雅俊所長が講演
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 このお2人は、米Thomson Reuters社のトムソン・ロイター引用栄誉賞(ノーベル賞有力候補者)にも選ばれているほど、論文発表の業績が突出しています。このトムソン・ロイター引用栄誉賞はノーベル賞受賞者の発表に先駆けて、学術論文の被引用数に基づいた調査により、ノーベル賞有力候補を発表するもので、審良拠点長は「トール様受容体と先天免疫の研究」というトピックで08年10月、竹市所長は「細胞接着分子カドヘリンの発見」というトピックで2012年9月に選ばれました。

 審良拠点長と竹市所長は、Thomson Reuters社が提供している著者情報を正確に特定できる索引を完備したグローバルな研究コミュニティ「Researcher ID」に登録しています。hインデックスと1論文当たりの平均被引用数(2013年2月5日時点)は、審良拠点長が152と9万5442と109.20で、竹市所長が96と109.36。論文の被引用実績は2人ともトップレベルと分かります。

 さて、このフォーラムのトークセッションで一番印象に残ったのは、「これまでの研究者生活で一番残念だったことは」というコーディネータの問いに対する審良拠点長の答えでした。「TLR4がLPSの受容体であることを見いだした成果の論文発表を、もっと早くすれば良かったというのが一番大きい。研究者としていいジャーナルに出したかったので、論文発表まで時間がかかってしまった。いち早く論文発表したBeutler博士に遅れてしまった。早く発表することの方が重要だった。ノーベル賞の選考では、論文を詳しく調べるので、いいジャーナルでなくてもきちんと評価してもらえる。まさかノーベル賞の対象になる研究分野に発展するとは、当時は思いが及ばなかった」と審良拠点長はお話しでした。
話した。

 Beutler博士は「自然免疫の活性化に関する発見」により、2011年のノーベル生理学・医学賞を受賞しまし。「最終的にTLR4がLPSの受容体だと分かったのが98年夏。98年12月にNature誌に論文を投稿しようとしたまさにその日に、4番目のToll受容体がLPSの受容体だという論文がBeutler博士のグループからScience誌に出てしまった。急きょ、別のジャーナルに投稿したが、年またぎで1年遅れとなってしまった」という旨を、審良教授はオープンアクセスのオンラインジャーナルである産学官連携ジャーナルの2010年6月号のインタビュー記事で語っています。

 ここ1、2年、先進的な大学や研究機関では、所属する教員・研究者の論文発表業績などを公開する動きが活発になっています。個々人のhインデックスがすぐに分かる仕組みを導入しているところもあります。ただいま取材を重ねていますので、記事に反映して参ります。優秀な研究者ほど、大学・研究機関を異動することが多いという事情もあるので、組織を異動しても継続して利用できる仕組みになることを期待しております。

 もう1つ別の話題になりますが。ただいま2013年度予算の取材を進めております。2013年4月から第3期中期計画(5カ年)が始まる理化学研究所では、かなり大きな改組が予定されています。発展的解消する理研横浜研の植物科学研究センター(PSC)の記念誌には、PSC出身の研究主宰者(PI)57人のリストが掲載されています。57人の現在の所属組織は、日本国内が50人(38組織)、海外が7人(カナダ2人、米国2人、ドイツ、タイ、フランス)。理研PSC出身のPIが複数人活躍している国内組織のうち大学は、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)3人、大阪大学3人、岡山大学2人、東京大学2人、名古屋大学2人、東北大学2人、宇都宮大学2人、九州大学2人です。研究機関は農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)2人と理研2人。57人のうち、企業に所属しているPIも1人います(王子製紙に所属)。

 理研の他の改組につきましても追って報道して参ります。
 
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理研、ライフサイエンス技術基盤研究センターと統合生命医科学研究センターなど2013年4月に発足
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20130211/166151/