皆さん、お元気ですか?

 昨日、ノバルティス社と中外製薬のそれぞれ社長と会長にお会いいたしましたが、いずれも花粉症で「声が掠れていて申し訳ない」と会見の口火を切りました。製薬企業のトップは病気になるのも憚れる、誠に辛い立場です。今年は昨年の7倍も花粉が飛散するという説もあります。読者の皆さんも、どうぞご自愛願います。私は仮性花粉症、花粉の飛び始めに花粉症様の一過性の症状はでますが、せいぜい1週間で済みます。鈍感な免疫系に感謝です。抗IgE抗体「ゾレア」が喘息の医薬品として販売認可されていますが、残念ながら花粉症の適応はありません。しかし、現在、猛烈な勢いで、免疫系を抑制する抗体医薬も臨床開発中で、いつの日か、半年に一回の皮下注射で花粉症を抑える抗体医薬が商品化されることを祈っております。あるいは、花粉症米や花粉の次世代の減感作療法が商業化されるか?この鍔迫り合いには、読者の関心も深いと思います。

 さて、個の医療です。

 今週の月曜日の日経バイオテクONLINEメールでKINAMUROの件を中国経済の実態に興奮して、書きそびれました。来週月曜日のメールにご期待願います。

 今まで、何かと疾患ゲノム研究やゲノムコホート研究の研究に煩雑さを招き、研究進展の制約となっていた「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」がとうとう2013年2月8日に厚労省が官報で告示、公布いたしました。正式な施行日は2013年4月1日です。こうした研究を倫理委員会に申請することを検討する皆さんにとって、今年のエイプリルフールは実に重要な日となります。この日付けの前後では、個人情報の取り扱い、それに解析する遺伝子に関する同意、同意不能な試料の利用について、雲泥の差がつくためです。少なくともゲノムや遺伝子解析を計画している研究者は以下のサイトから改正の詳細をご確認願います。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002uz1d.html

 2011年3月から検討を始めて、約2年間もかかりましたが、今回のゲノム倫理指針は画期的な規制緩和であると考えています。第一は、現行の指針では解析対象の遺伝子名を明確にインフォームドコンセントに盛り込むことを要求しておりましたが、未知の遺伝子探索などの研究や研究を始めて対象疾患に関連していることが新たに分かった遺伝子などを解析するためには改めてインフォームドコンセントを取り直す必要がありました。しかし、これは現実的でもないし、患者さんと研究者の負担を徒に増やすものでした。今回はこうした負担を軽減、「肝臓疾患の研究」など包括的な合意で遺伝子やゲノム解析の対象を拡大することを認めました。

 第二は、個人情報の取り扱いを劇的に緩和しました。遺伝子解析やカルテデータと個人を対照させる表を分離、それぞれ異なる機関が別々に保存している場合は、匿名化された連結可能遺伝子解析やカルテデータは個人情報として取り扱わないことにしたのです。これによって、連結可能のゲノムコホート研究が実行可能となり、疾患遺伝子や易罹患遺伝子などの解析が非常に円滑に行うことができるようになりました。そして第三の規制緩和は、古い試料などでインフォームドコンセントの取り直しができない場合、取り直しできない合理的な理由があれば、改めてインフォームドコンセントをとることなく、遺伝子・ゲノム解析が倫理委員会の承認の下で可能となったことです。こうした規制緩和によって、個の医療のインフラである疾患ゲノム研究やゲノムコホート研究に拍車が掛かります。また、将来、こうした遺伝子・ゲノム情報と疾患を突合したデータベースを個の医療の診断に利用する際にも、今回のゲノム倫理指針の考え方がベースとなると期待しています。

 勿論、問題も残りました。厚労省・文科省・経産省がどうしても個人情報保護法との整合性を最後まで譲らなかったために、「遺伝子・ゲノム解析の結果は原則公開」と定められました。しかし、まだ科学的な曖昧さを残したまま遺伝情報の意味を伝えることが、ただ、患者や人々を惑わすことになることを、心ある科学者は心配しています。この問題は今後の大きな課題となったと考えいます。研究者の努力も必要ですが、一般の市民や初等中等教育での遺伝の教育や啓蒙も不可欠であると思っています。また、今回は時間切れとなりましたが、全ゲノムシーケンスの取り扱いも十分検討されていません。

 心残りは多々ありますが、それでも今回の規制緩和で、間違いなく個の医療にも春がやってきます。

  皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満