皆さん、お元気ですか?

 これから習近平の中国と科学技術という複雑なカンファレンスの取材に参ります。心配されていた東京の降雪も気象庁の悲観論よりましで、1月の成人式ような混乱は避けられました。スーパーコンピュータが故障していたはずなのに、気象庁は良くほぼ的確というか、やや悲観的に過ぎた予報を出したものです。ゲノム解析だけでなく、気象予報にもスパコンがボトルネックとなる時代です。しかし、それを補うのは、人智であることも、今朝のみぞれ空は示しています。

 さて、個の医療です。

 米Genzyme社と米Isis Pharmaceuticals社の喜ぶ顔が見えるようです。

 米国食品医薬品局は2013年1月29日に、アンチセンスDNA医薬「KYNAMRO」(mipomersen sodium)の高脂血症治療薬として製造販売認可を与えました。Isis社はオリゴ核酸医薬のイノベーターで、アンチセンスDNA医薬を唯一商業化した企業です。フランスSanofi社の傘下となったGenzyme社がKYNAMUROの販売権を同社から確保しています。15年ぶりのアンチセンスDNA医薬の実用化となりました。アンチセンスDNA商品化の第二号です。

http://www.businesswire.com/news/genzyme/20130129006862/en

 KYNAMROのインパクトについては、来週月曜日の日経バイオテクONLINEメールで詳細に議論いたしましすが、実はこの医薬品も個の医療であることを、本日のメールでは強調したいと思っております。アンチセンスDNAは配列特異的に対合するmRNAと結合して、RNA/DNA複合体を細胞内で形成、この複合体を異物として認識、分解するRNA分解酵素Hが作用することにより、標的の遺伝子の機能を阻害します。KYNAMROの標的はアポたんぱく質B100のmRNAです。これによってアポたんぱく質B100の生産を抑制し、血清中のコレステロールを低下させる訳です。

 但し、重要なのは既に効果が確かめられたライバルが市場に存在することです。それは高脂血症治療薬のスタチンです。ジェネリックも出ており、価格も安く、経口投与で使用経験にも富んでいます。KYNAMROは週一回、200mgを皮下投与する製剤であり、スタチンと薬効が同じでは競争になりません。Genzyme社・Isis社が狙ったのは、スタチンの効かない重症な高脂血症患者群を対象にして臨床開発することにより、この参入障壁を突破することでした。

 今回、FDAが認可したのは家族性高脂血症患者の、しかも疾患遺伝子を両親から遺伝した患者(HoFH、ホモザイゴート)のみです。コレステロール代謝の鍵遺伝子であるLDLコレステロールの受容体に変異を起こしている患者です。こうした患者にはスタチンもほとんど効果なく、動脈硬化などによって、循環器疾患を発生、寿命も短命であることが分かっています。KYNAMROはこうした患者さんの血清コレステロール値を低下させ、寿命を延長する効果を期待されています。

 投与前にはLDL受容体の変異をホモでもっていることを確かめる必要があります。まさに、個の医療なのであります。Genzyme社は適応拡大を狙い、片方は正常のLDL受容体遺伝子を持つヘテロの患者に対しても、臨床試験を行っています。どこまで、適応を拡大できるか、今後の同社の挑戦を見守らなくてはなりません。ことによると、LDL受容体遺伝子変異以外の高脂血症患者に対しても、KYNAMROは効く可能性があります。疾患遺伝子と処方患者が1:1の関係の個の医療の実用化は進んで来ましが、多:1の関係の個の医療もありうるはずです。その意味でも、KYNAMROの今後の適応拡大には眼が離せません。

  皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満