Wmの憂鬱、抗体誘導体が突破する抗体医薬の限界【Proteomicsメール Vol.96】

(2013.01.21 16:41)
宮田 満

 たんぱく質医薬の主役に躍り出た抗体医薬ですが、決定的な弱点が存在しています。それは抗体が結合し、治療効果を発揮する標的抗原の枯渇であります。現在、全世界では44種類の抗体医薬と約400件の抗体を用いた臨床試験が国際的に展開されていますが、これらの抗体医薬が標的とする抗原はわずか34種に集中しているのです。このままでは抗体医薬の開発は早晩行き詰まらざるを得ないのです。

 こうした抗体医薬の危機を打開する可能性があるのが、抗体誘導体であります。中外製薬が昨年12月に一挙に6種類の抗体誘導体作製技術を発表、これからこの技術が発展すれば、天然型の抗体医薬では解決できなかった、抗原濃度の高い標的抗原や毒性たんぱく質、細胞当たり少数の膜標的抗原、複数の機能を示すたんぱく質の阻害、たんぱく質相互作用の阻害だけでなく亢進、血中半減期の調節、免疫抑制作用など、新たな抗体医薬の創薬標的や薬効が一挙に拡大することは間違いありません。

 中外製薬の抗体誘導体の詳細は、日経バイオテクONLINEなどの記事をご参照願いますが、ごく簡単に言うと、抗原分子のアミノ酸配列の置換を、特に抗原結合部位やFc(定常部位)に集中して行い、ほぼ網羅的に誘導体開発を行ったといえるでしょう。これによって何回も膜抗原と結合し、シグナルを遮断するリサイクル抗体や可溶性抗原と何回も結合して血中から排除するスィーピング抗体など、多様な機能を示す抗体医薬の開発に成功しています。今回、発表された6種の抗体誘導体技術も同社の抗体誘導体技術開発の氷山の一角に過ぎないと思います。今までのマウスから完全ヒト抗体への開発のベクトルから、抗体医薬が薬理活性や薬物動態を改善する誘導体開発へと次の段階に到達したと考えています。いよいよ抗体誘導体の本格的な商業化が始まる胎動を感じます。

 詳細はとてもメールの字数では説明できませんので、6つの核心技術の正式名称と渾名を示すだけに止めます。是非とも名前から機能を推察願います。

1)SMART-Ig(Sequential Monoclonal Antibody Recycling Technology- Immunoglobulin)、リサイクリング抗体やスィーピング抗体はこの技術の応用です。
2)ART-Ig(Asymmetric Re-Engineering Technology- Immunoglobulin、バイスペシフィック抗体を工業的に作製する技術、既に血液凝固第8因子を代替し、インヒビターが出現した血友病患者の治療を可能した抗体を開発、臨床試験フェーズ1に入っています。
3)ART-Fc(Asymmetric Re-Engineering Technology- Fc domain)、抗体依存性細胞障害作用を増強した抗体、糖鎖修飾技術を凌駕する抗がん活性を試験管レベルで示しました。
4)TRAB(Tcell Recruiting AntiBody)、T細胞動員抗体、標的抗原数が少ないがんの治療を可能とする抗体、細胞表面に1000個あれば抗体によって治療出来る可能性を拓くものです。
5)TwoB-Ig(FcγR? selective binding technology-Immunoglobulin)、自己免疫疾患の治療用抗体。免疫を抑制するFcγR?と結合する抗体誘導体。
6)ACT-Ig(Antibody Charge engineering Technology-Immunoglobulin)、抗体の電荷を調節し、血中の滞留時間を調節する抗体技術。

 こんなに広範な抗体誘導技術が可能であるとは、正直びっくりしています。今後のプロテオーム研究でも、たんぱく質の誘導体が対象となる例が増えることは間違いないでしょう。

 時代は急速に変化しています。今月もどうぞ皆さん、お元気で。

        日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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