新春展望2013、再生医療の「これでいいのだ!」の「それでいいのか!」

(2013.01.03 09:06)
早川堯夫=近畿大学薬学総合研究所所長

 天才バカボンのパパは言う。「これでいいのだ!」。個人の私的な生き方において、それがどのようなものであれ、懸命に自らに向き合ってきた結果として、また向き合おうと前に進む覚悟のもと事にあたる過程での自分に対する問いかけへの答えとして、「これでいいのだ!」は、個人の過去、現在、未来への私的な精神的評価の自己完結版としてあっていい。
 
 国家や国際社会はそうは行かない。私的自己完結より公的完結を目指すシステムである。政治や経済など精神的要素とは異なる次元の要素もあれば、関係者個々の立場、置かれた状況をはじめ、考え方や価値観の多様性などがある。先ずはそれらを包含し、止揚し、律する、より高次の大義・行動原理(Principle)及び目的(Purpose)を明確にし、共通する客観性の高い「これでいいのだ!」の共有が必要である。ステークホールダーの多くは何らかの組織や集団の中にあり、その論理に少なからず影響される。既成、既得の枠内で主観的に「これでいいのだ!」とすれば、個別特定権益追求の罠に陥る。なすべきは、上記2つのPに照らし「それでいいのか!」と問い続け、客観的「これでいいのだ!」に少しでも近づくことである。
バイオ医療の振興が謳われる我が国におけるPrinciple及びPurposeとしての「これでいいのだ!」は、病に苦しむ患者さん(Patient)のため、未来において病をえる可能性のある国民(People)のためである。また、科学技術創造立国としての国民益(Profit)に叶い、人類共通の資産の創出という平和的な国際貢献,公衆衛生益(Public Health)にも繋げるためである。
 昨今、具体的方策として、「これでいいのだ!」とされていることの一つに再生医療の推進がある。「それでいいのか!」。これを全てのごとくみなし、過度に持ち上げ、挙げ句一過性に終わる道は避けたい。国家としてはむしろ、幹細胞を基盤にした生命科学及び医学的基礎・基盤・応用研究を短・中・長期戦略に基づく重要な持続的政策として骨太に位置づけ、数多の期待される成果物の一つとしての再生医療を展望すべきである。 その際、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などを素材としていかに駆使するか、それぞれの特長をいかに最大限活用するかを鍵とすべきである。多様で多面的なアプローチの発露こそが、科学技術の本質であり、新たな発見、発明、成果をもたらす源泉である。
 生命科学分野で「初期化」に続く第2、第3のブレークスルーを生み出すためには、広く土壌を肥やし、種の育成・成熟、萌芽、成長を促すことが肝要である。昨今の「それでいいのか!」と思える科学的、社会的ポピュリズムに影響されることなく、多様性、可能性、新規性、将来性への目配りのもと、中・長期的視野で基礎・基盤研究への広汎な研究費配分を行うことが重要である。

 その傍ら、当面集中的に国を挙げて真に再生医療の実用化推進を謳うのであれば、財政面でとりあえずは、可能性を秘め、選別された対象に対する開発研究費、ベンチャー支援、臨床研究・治験、保険償還、被害救済基金に最大限の資金投入を惜しまず、また、税制優遇措置等を講ずる覚悟で事に当たらねばならない。その際当然、実用化可能な研究対象に的を絞り、また、各省庁の縦割り研究費を一体化して一貫した研究支援とし、さらにコスト&タイムパフォーマンスに関する厳しい評価が下されなければならない。これらのクライテリアに照らしてみた場合、「それでいいのか!」と思える事例がいまだに見受けられる。国民益をかけて、巨額の公費を使用し、世界相手の激烈な競争に鎬を削っている状況からすれば、趣旨に真摯に立ち向かわず、結果を出せる展望も乏しいのに「これでいいのだ!」としているすべてに、「喝!」である。

 再生医療の実用化や適正利用を合理的、効率的、効果的に促進するための法的、制度的改革及び規制面の改善、すなわち、既存の法律、制度、規制、運用が原因の実用化隘路の解消・打破や、要に応じた免責制の措置等も急務である。

 実際に、薬事法改正の中で、細胞・組織加工医薬品等に関して従来の医薬品等とは異なる定義を設けることや、安全性確認、有効性示唆で条件付きの承認とし、販売開始後臨床試験、全例調査、情報収集・提供の充実等で有効性・有用性、長期安全性等の検証を経て、本承認とすることなどが検討されている。また、薬事法対象案件以外でのヒト幹指針対象案件を含む細胞を用いる臨床使用について、安全性確保を図りつつ推進する法律の制定も視野に置かれている。これら制度の運用における実質的成否に関連する肝要な事は、いかに早期から多くの専門家の関与を得て、その高い見識のもと、最先端の課題を迅速に捌き、前に進めていけるかである。実行と実効性が伴わなければ「これでいいのだ!」とはならないが、推移に注目しつつ、希望を持ちたい。

 評価指針の整備は再生医療実用化推進の水先案内、牽引力、推進力となるが、ヒト幹臨床研究指針の見直しが終盤を迎え、薬事法下の5種類のヒト幹細胞由来加工製品の品質・安全性確保に関する指針が公表された。個別製品にはケース・バイ・ケースの柔軟で合理的な対応が望まれるが、指針自体はさまざまな製品で想定しうるあらゆる可能性を網羅的に捉えて記述されているので、解釈と運用次第では必要以上の要求事項が適用される可能性がある。「それでいいのか!」を常に問う必要がある。その際、指針を前提としつつ引き算方式とするのか、足し算方式にするのかが問題である。個別への適用に際して、網羅的指針全体からの引き算方式は、よほどの経験と見識にもとづく「見切り」によらない限り、一般に膨大なエネルギー、時間、労力を必要とし、なお不合理が残る可能性がある。指針から共通エッセンスを抜き出した下記MCPをベースとする足し算方式によるのが、むしろ合理的、効率的、効果的と思える。

 10数年来、「ミニマム・コンセンサス・パッケージ(MCP)」プラス「ケース・バイ・ケース」の概念を先端的バイオロジクス規制の解釈、運用時には適用すべきと考えてきた。これは、全製品に最低限必須・共通の要件や基準・評価技術(MCP)を定め、これに各製品の種類・特性、対象疾患、開発段階等に応じた上乗せ方策を適用するというアプローチである。MCPは例えば、ヒト幹臨床研究その他の医師法・医療法下での再生医療と薬事法下での開発の切れ目のない移行を可能にする共通のプラットホームともなる。仮に新たな規制の枠組みが出来ても、適用に値すると考えられ、その充実に努めたいと考えている。その基本は患者さんの疾病というリスクと時間の経過に伴い増大するリスクをまず念頭におく。それとの相対的関係づけにおいて、現在の科学水準のもと、製品や医療技術で明らかに排除すべきリスク、そして排除・軽減出来るリスクに対応しつつ、医療を進めていくということである。

 お膳立ても大事だが、プレーヤーの意識、本気度が成否を左右する。
「学・医」の中で、患者さんを前にして、実用化を標榜し、多額の公費を使うチームは、有名誌に掲載されることのみで「これでいいのだ!」とはならない。「企業」は、企業なくして製品なしとの自負と誇り、企業の社会還元責任を果たす上から、挑戦なくして「それでいいのか!」が問われる。官は、「課・局・省単位の官を超える公の意識」なくして全体の奉仕者になり得ない。一日でも早く患者さんのもとへ医療をと掲げるシステムが律速段階になることがあってはならない。時は命である。学・医、産、官の関係者は国の中で、それぞれの役割と機能を通じて患者さんや国民益を背負っている。背負うということは、ぎりぎりのところで闘い、責任を果たすということである。

 世界は待ってはくれない。

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