医療技術や公衆衛生の進歩により、世界の健康状況は大きく改善してきた。一方で平均寿命の延長に従い、生活習慣病や認知症などの高齢化に伴う疾病が増加している。これらの病気は、慢性化し治療期間が長くなる傾向にあり、国民医療費の観点からも多くの国で問題となっている。病気の治療から予防、そして未病の時代へ、健康で過ごせる期間を長くすることへの関心がますます高まっていくだろう。

 予防・未病に向けては、日常の健康管理に加え、適切な診断に基づいて自身の健康状態を正しく理解することが重要である。最近では従来の定期健康診断に加え、遺伝子検査や各種バイオマーカー検査を任意で受ける方も増加しており、加えて、ネット情報などにより一般の皆さまの病気・健康に対する知識レベルは年々向上している。今後、様々な指標で健康情報が集積され、その電子化が進み、個人の健康管理に関する情報を、医師ではなく一般の皆さま自身が管理するようになれば、最適な医師・改善手段を自身で探し、選択する時代が来るだろう。規制上の問題、個人情報の取り扱い、保険償還という課題もあるが、医療技術革新による健康情報の多元化と、その電子化は、新たなヘルスケアビジネスの切り口になると目している。

 より近未来の展望となると、コンパニオン診断薬(CoDx)のあり方が早晩変わると思われる。今は一つの疾患に対して一つのCoDxと一つの薬剤の関係が一般的であるが、複数のCoDxを持つ薬剤がそこに登場すると、この構図が崩れる。例えば、非小細胞肺がんは、今報告されているだけでも遺伝子の変異に基づいて10以上に分類することができる。さて、各変異に対するCoDxと治療薬が創出されたとしよう。その場合、CoDxを一つずつ試すのは、現実的ではない。次世代シーケンサー(NGS)はこの状況を打破するツールの一つだが、装置、試薬(キット)、データ解析のアルゴリズムも年々進化している状況にあるため、診断法として標準化されるのはまだ先の話となる。当面は10-20個程度の遺伝子変異を一度に調べるパネルアッセイが診断ビジネスの世界では主流になるだろう。

 ここで注意する必要があるのがバイオマーカー特許である。米国では自然の産物や挙動は発見であって発明ではなく、特許として認められない傾向にある。もし、日本もこの潮流に追従すると新規バイオマーカーを診断ビジネスの軸に据えるには難しくなる。では、軸とすべきは何か?注目されるのは特許に守られた新たな分析手法であり、多数のバイオマーカーを一度に測定できる技術、これまでは検出が難しかったバイオマーカーを測定可能にする高感度技術、それに高速化や簡便化、低コスト化に関する技術が重要になってくる。これらの技術に関しても、これまでは米国のバイオベンチャーから発表されることが多かったが、本来は日本がもっとも得意としている領域である。バイオ以外の産業も含め、日本にある技術の粋を結集し、診断ビジネスに新しいビジネスモデルを持ち込むことが、日本のライフサイエンス産業の発展への一つの道程になるだろう。