核酸医薬の新しい幕開けとなるのが2013年だ。リーマンショックや欧州金融危機以降、世界経済の下落から核酸医薬の分野にも大きな余波が押し寄せ、核酸の巨人と呼ばれた複数の製薬企業が撤退し、一時は大きな冷え込みが核酸医薬の研究者を襲った。しかし、主要各国が連携して金融危機に歯止めをかけるなか、核酸医療分野にはアンチセンス医薬の実用化、マイクロRNAの阻害剤(LNA)の臨床研究での有望な治療効果の発表等のニュースが飛び込み、核酸医薬は再び、息を吹き返した感がある。

 実際に、撤退していたはずの海外企業でも核酸医薬チームが再結成されたそうだ。国内でも明るいニュースが相次いでいる。日経バイオテクでもニュースになったある国内企業は新しい核酸合成技術を開発し、日本発の核酸医療応用への道筋が開かれた。核酸合成の製造拠点も間もなく日本に設置される見込みだ。さらに、がんの進展や転移に関係するマイクロRNAを標的としたアカデミアでの治療法開発に関して、前臨床研究の推進を目的としたグラントが複数、国から拠出された。こうした背景の下、2013年は、核酸医薬のTR研究が一段と加速する見込みだ。

 しかし油断は出来ない。マイクロRNAも加わって核酸医薬品のパイプラインは増加傾向にあるものの、核酸製造市場の牽引役となる製品化に至っているものがほとんどなく、DDSの不安も完全には解消できないままであり、この状態が続けば世界市場も伸び悩む。やはり市場を引っ張るスター的ながん治療核酸医薬(siRNAなど)の開発にいち早く結びつけることが必要だろうし、 large intergenic non-coding RNA(lincRNA)といった機能未知の核酸の疾患研究での新発見にも大いに期待したい。

 世界が常に待ち望んでいるのは革新的な技術の開発とその治療応用だ。マイクロRNAを取り巻く診断・治療の市場が2020年には5000億円規模に膨らむと予想する向きもあるが、それを背後から強力にバックアップし、マイクロRNAをも超えていく勢いなのがエクソソーム研究だろう。エクソソームとは細胞が分泌する小胞顆粒であり、その発見から36年を経て、まさに現代に甦った救世主となろうとしている。エクソソームが世界中の研究者を虜にしているゆえんは、細胞生物学をはじめ、分子生物学、発生生物学、医学のみならず植物学や農業、食品、酪農など全ての分野でその存在を再認識することで、全く新しいブレークスルーが生まれていることにある。

 例えば、がんの分野では、がん細胞が転移するためにこのエクソソームを巧みに操り、悪用している姿が浮き彫りにされつつある。そして注目なのは、エクソソームはそれに内包されるマイクロRNA等の核酸情報伝達物質や豊富なたんぱく質等を自在に操って、さまざまな生理的現象や疾患の起因となっている点だ。おそらく2013年は、エクソソームを取りまく疾患の実態が次々に暴かれて、さらにその基礎研究を基にした応用研究が発展するだろう。つまりエクソソームを制御することは疾患の治療法の開発に直結するわけで、アカデミアのみならず製薬企業にとっても注目の的であり、ISEV(細胞外分泌顆粒の国際ソサイエティ−の名称)の活動から目が離せない。

 2013年もサイエンスは激動の1年となることは必死だが、やはり何よりも大切にしたいのは若者達の育成であり、そして待ち望むのは若いリーダーたちの登場だ。最近の海外の国際学会で果敢に質問しているアジア人のほとんどは中国人研究者であり、日本人の若手研究者はその姿さえ見えない。多くの若手ポスドクは海外への留学を望まない傾向にあるようだが、こういう時代だからこそ、海外のラボに身を置き、自分自身の研究魂を試してほしい。そしていったんは海外から日本のサイエンスを俯瞰し、その現状を客観的に理解することは、今何をなすべきかを教えてくれる。そして実力を磨き、自由な発想で、きたるべきときにそなえてほしい。