アメリカ元副大統領のA.ゴア(Al Gore)氏が書いてベストセラーになった地球の環境問題を論じた有名な本“不都合な真実(an inconvenient truth)” をお読みになった方も多いであろう。なかなかこの本のタイトル(an inconvenient truth)にぴったりな日本語がないので“不都合な真実”と訳したようだが、要は信じたくない、なかなか受け入れられないが、真実であることを意味する。この場合の真実は勿論、地球の温暖化である。

 さて少し意味合いは違うが、このような”不都合な真実“はわが国のバイオにおいてもいくつか見られる。

 まず、ペースメーカーなどのいわゆる侵襲性(invasive)の精密医療器械の莫大な額の(輸)入超である。最近のその額を私は正確には把握していないが数千億円、場合によっては1兆円に達する額ではないであろうか。更にわが国の高齢化が進むにつれてその額は更に大きくなる事であろう。

 どうしてこのような結果になったのか、わが国と外国との精密医療器械製造の技術水準の差にその原因を求めるのは、精密な器械を作る事はわが国のお家芸であるから、どうして医療器械だけ、ほとんどが外国製の器械に頼らなくなってしまったのか、という反論に応えるのは極めて難しい。実際非侵襲性(non-invasive)の精密医療器械, 例えば内視鏡等のわが国の世界シェアは50%を遥かに越えている。これらの事実はわが国の持つ正に”不都合な真実“である。

 このような”不都合な真実“をもたらした原因、その背景には何があるのか。恐らく読者の皆さんはすぐ思つかれたか、あるいは既に知っておられたに違いない。一つだけこれに関連するエピソードをご紹介したい。

 今から30年くらい前のことだが、私がアメリカと日本を頻繁に往復していたころ、アメリカで初めて小型の埋め込み型人工心臓(Jarvik7型)が作られて、それを実際に患者に試したが、確か3カ月半くらいでその患者は死亡した。この患者(歯医者)は末期の心臓病で自分から申し出てあえて実験台になったのである。

 この事を巡ってわが国とアメリカの報道が対照的だった事は今でも鮮明に覚えている。アメリカの新聞はこれは科学の進歩のために越えねばならないやむを得ない事であると報じたのに対して、わが国の新聞はこれを無謀な人体実験であるとして批判、非難したのである。

 これ以上はあえて書かないが、他にも同じようなわが国特有な“不都合な真実”がある。科学的根拠を無視した遺伝子組み換え農作物の研究開発の制限もそうであるし、他にもいくつも数え上げる事ができる。科学技術によるわが国の再興、立国は他国にない独特なハンデイキャップを背負っている。