昨年、スーパーコンピュータ「京」が正式に稼働を始め、そのアプリケーションの一つとして創薬が期待されている。「京」を中心とした日本の高性能計算機によって構成されるHPCI(High Performance Computing Infrastructure)の戦略分野の一つとして、「京」の稼働前から創薬応用研究が進められているほか、HPCIの産業利用プログラムにおいても京都大学の奥野教授を代表とするグループ、大日本住友製薬株式会社、第一三共株式会社、武田薬品工業株式会社、大日本住友製薬株式会社など多くの機関が、スーパーコンピュータを用いた創薬、いわゆるスパコン創薬に取り組み始めた。また、筆者も東京工業大学の秋山教授、瀬々准教授等とグループを形成し、自身が所属する東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAME2.0を用いてアステラス製薬株式会社とリーシュマニア症、シャーガス病、アフリカ睡眠病といった顧みられない熱帯病(以下、NTDs, Neglected Tropical Diseases) といった疾患を引き起こす寄生原虫治療薬探索の共同研究を昨年7月に開始した。

 薬候補となる化合物探索(リード化合物探索)から臨床研究までの創薬プロセスの中で、現在スパコン応用の対象となっているのは、主にリード化合物の探索である。リード化合物探索においては後のプロセスで化合物の薬効と安全性の観点から篩にかけられるため、出来る限り異なる母核の化合物を多く提案することが必要であると考えられる。HPCIの戦略分野1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」においても、東京大学の藤谷教授らによって開発されたMP-CAFEE(Massively Parallel Computational Absolute binding FrEe Energy)による標的タンパク質とリード化合物の結合自由エネルギーによりリード化合物の構造を設計することを目指している。

 筆者が代表するグループは、NTDsの寄生原虫治療薬探索を行う上で、研究を大きく二段階に分けて考えている。第一段階は、秋山教授を中心に特許や文献等の公開情報に対するデータマイニングを実施し、寄生原虫治療薬探索に関する有用な知識を取り出すことである。すでに標的候補タンパク質に対し、各原虫との相同性および立体構造情報のリスト化を行うwebインターフェイスを開発している。第二段階は、筆者を中心にインシリコスクリーニングを用いて、抗寄生原虫活性を有する可能性のある化合物を探索することである。すでに標的タンパク質とリード化合物の結合自由エネルギーを高速に求めることが出来るアプリケーションを開発している。TSUBAME2.0は、上記のデータマイニング及び市販化合物を対象としたインシリコスクリーニング計算それぞれにおいて活用される。アステラス製薬はデータマイニングに必要なデータ収集及びインシリコスクリーニング計算結果に基づいて数百化合物を購入・評価を進める。

 今回の共同研究の主目的はNTDsという保健医療へのアクセス問題(Access to Health)の解決であるが、2013年、新しい創薬技術の開発を通じて、日本の製薬産業に貢献したいと考えている。