昨年はiPS細胞の発見により京都大学の山中伸弥教授が日本人では2人目となるノーベル医学生理学賞を受賞された。山中先生のノーベル賞受賞は、日本の医学・生命科学界だけでなく、製薬業界にとっても活気づけられるニュースであった。これを機に再生医療への取り組みがより活性化されるであろう。また、iPS細胞から種々の細胞へ分化するプロセスを追跡することで、新たな疾患のメカニズムが解明され、依然として有効な治療薬がない疾患に対してこれまでにない創薬の切り口が見いだされる可能性が出てきた。このような活動によって、産学連携がより一層活発になると思われる。

 化学の分野でも、国外の研究者ではあるが、G protein coupled receptor (GPCR)の立体構造を解明することに成功した業績に対して、Duke大学のRobert J. Lefkowitz教授とStanford大学のBrian K. Kobilka教授にノーベル化学賞が与えられた。GPCRは種々の疾患の標的分子として注目されている分子群である。GPCRは多くの類似した蛋白質からなるファミリーを形成しているにもかかわらず、結晶構造を解くことが極めて困難なため、低分子創薬を行う上で有用な方法であるstructure-based drug design (SBDD)が適用できない分子群であった。GPCRの立体構造解析の進展は、疾病治療上重要なこれらの分子群に対して、新たな低分子創薬の可能性をもたらすと思われる。

 また、遺伝子解析においても技術革新が進んでいる。DNAの高速シークエンス技術が成熟し、安価にしかもスピーディーに多くの遺伝子の配列や変化を解読することが可能になりつつある。遺伝子の配列や変化の解読技術が実際の臨床の場に広く普及し、各病院、施設で患者さんの遺伝子を解読することが可能になる日が訪れるのもそう遠くはないであろう。遺伝子解読技術の普及は、創薬だけでなく臨床開発の進め方にも影響を与えるようになると思われる。すでに一部の癌の分子標的薬で試みられているように、薬剤を開発する段階から遺伝子変化を指標にして投薬対象となる疾患や患者セグメントを探していくやり方が、いずれ他の疾患にも広がっていくように思う。

 昨今、革新的な医薬品を創出することが以前にもまして難しくなっていることが叫ばれている。上記のような偉大な発見や技術革新がもたらす可能性を、どのように創薬に取り入れて革新的な新薬の創出につなげていくかが、私たち製薬企業の研究所に勤める者に課せられた使命であると思う。同じ標的分子に対して、同様な技術を適用して作られた薬剤は、基本的に似たような効果に帰結する。したがって、開発レースになると規模の大きな海外のメガファーマが有利になる。そのような中で、我々日本の製薬企業が革新的な医薬品を生み出すために、独自の工夫を凝らした創薬を行えるかどうかが重要になる。科学の発展による新たな疾患メカニズムの解明と創薬の技術革新が合致するところを見定めながら、まだ充足されていない医療ニーズに応えられる創薬を心がけていきたい。