◆◆◆薬用植物研究開発の最前線◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 「薬用植物資源研究センター種子島研究部における
  未利用植物資源の探索研究と絶滅危惧種の保存育成研究」
   医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター 種子島研究部 杉村康司研究員
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

はじめに

 薬用植物の研究を進めるためには、材料となる植物を確保することが重要です。
潜在的な価値を持った未利用植物資源を見つけ出し導入することは、薬用植物研究
を発展させていく上で大きな意味を持つと考えられます。しかし、近年では自国の
植物資源を他国に流出させない動きが高まってきています。また、生物多様性条約
により、資源利用国に対して生物多様性の保全と遺伝子資源の公正な利益配分が求
められています。そのため、外国から新規に植物を導入することは、とても困難に
なってきています。一方、野生種の採取に依存している薬用植物では、種の絶滅に
よる資源の枯渇が懸念されています。また、大量の研究試料を必要とする種につい
ては、まず、自生種を保存し、増殖研究を行うことが重要であると考えられます。
こうした状況の中、種子島研究部では、ソロモン諸島において未利用植物資源の探
索研究を行っています。さらに、絶滅危惧種であるタカクマムラサキについては、
資源保存と有効活用に関する研究を進めています。

1.ソロモン諸島未利用植物資源の探索研究

1) 調査地の概要
 ソロモン諸島は南太平洋のメラネシア地域に属する大小約1000の島々からなる国
です。オーストラリアの北東部から約1800kmの所に位置します。隣国には、フィジー、
バヌアツ、パプアニューギニアなどがあります。面積は2万9785平方キロメートル、
年平均気温は26.5℃、最高気温は沿岸域で32℃、内陸域で35℃、最低気温は21℃、
年降水量は2048mm、雨季が1月から4月、乾季が5月から12月となっています。

2) 調査方法
 ソロモン諸島の各島において、2008年から2011年にかけてフィールド調査を行い、
有効活用が期待される植物を重点的に、さく葉標本、生植物標本、種子標本、ケミ
カルサンプルを採集しました。

3) 研究結果
(1) 研究成果の概要
 アカネ科、ラン科、クワ科などの植物について、さく葉標本を8222点(複製標本
を含む)、ケミカルサンプルを613点作製しました。加えて、ラン科、アカネ科、ヒ
カゲノカズラ科の生植物298点、マメ科、トウダイグサ科、ショウガ科などの種子72
点を導入し、種子島研究部にて栽培育成研究を継続中です。

(2) テテパレ島における有用植物の分布と生育環境との関係
 南太平洋最大の無人島テテパレ島では、274点の植物標本を採取し、74科、124属、
175種の植物を同定しました。有用植物との分布と生育環境との関係では、地形環境
別の有用植物の出現種数が川沿い域15種<内陸域78種<海岸域111種と多くなること、
有効活用が期待されるセッコク属植物とナンカクラン属植物が海岸域で最も多く出現
することを明らかにしました。

(3)伝統医が民間薬として使用しているラン科植物とシダ植物
 伝統医の聞き取り調査によって、民間薬として解熱剤、強心剤、抗腫瘍薬に使用さ
れているラン科のセッコク属植物が明らかになりました。さらに、シダ植物では、糖
尿病、痛風、前立腺肥大、黄熱病の治療に用いている種があることが明らかになりま
した。これらの植物については、現在、生薬素材としての品質に関する研究を進めて
います。

4) 考察
 ソロモン諸島の伝統医によって各種疾病の治療薬に使用されている民間薬について
は、新規薬用素材の可能性を検討する研究を進めていくことが重要であると考えられ
ます。また、世界的に希少なソロモン植物を十分に活用して、研究を継続していくこ
とが重要であると考えています。なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金「ソ
ロモン諸島における有用植物、特に薬用植物資源の探索と天然物化学研究(研究代表
者:渡邊高志)」の研究費の一部によって実施されました。

2.絶滅危惧種タカクマムラサキの保存育成研究

1) 調査方法
(1) 種子島自生地の現地調査
 タカクマムラサキの生育個体数と生育地の環境を記録しました。
(2) 香気成分の組成分析
 葉と茎を液体窒素で凍結後、ブレンダーにて粉砕し、試料粉末にエーテル:ペンタ
ン=2:1の混合溶液を加え撹拌、超音波振動器に1分間かけ、抽出後ろ過しました。さ
らに、ろ液を蒸溜装置にかけた後1 mLまで濃縮し、GC / MSによる分析を行いました。

2) 研究結果
(1) 分布と生態
 種子島南部の標高50mから70mにおいて、樹高2mから5m、胸高直径5cmから15cmの低木
12個体を沢沿いで確認しました。これらの生育環境は、空中湿度がやや高く、土壌はや
や肥沃で保水・排水が良く、少し開けた明るい場所でした。種子島での花期は7月から
9月で紫色のきれいな花を咲かせます。果期は9月から2月で、果実の色は白緑色から紫
色、さらに成熟果は急速に肥大し白色に変化しました。

(2) 香気成分の組成
 葉と茎ともに腺点が多数あり、揮発成分の主成分はmonoterpene類とsesquiterpene
類でした。香気成分を詳しく見ると、華やかで清涼感のある香り成分(1、8-cineole、
linalool、 methyl salicylate)やフルーツ香成分(2-pentanone)などが含まれてい
ました。このように、タカクマムラサキには、人間にとって良い香りと感じさせる清涼
感がある香りとフルーツ香が含まれていることが明らかになりました。

3) 考察
 タカクマムラサキを保全して資源を確保するためには、沢沿いでかつ空中湿度がやや
高く、土壌はやや肥沃で保水・排水が良く、少し開けた明るい場所という条件を全て満
たした特殊な環境を残していくことが重要であると考えられます。また、種子島産タカ
クマムラサキに特徴的な清涼感がある香気成分は、今後、芳香剤、化粧品、アロマセラ
ピーなど多方面での利用が期待されます。

おわりに

 薬用植物の研究では、高精度測定が可能な最新式の分析機器を用いた遺伝子解析や
成分分析などが脚光を浴びています。それに対して、薬用植物の栽培研究は、常に変
化していく自然環境の影響を強く受けるため、長年のデータと経験の蓄積が必要とさ
れます。また、新薬開発などの出発点となる研究材料を入手するために必要不可欠な
研究です。しかし、近年では最先端の研究ばかりに目が向けられることが多く、それ
らを支える基盤的研究が軽視される傾向があるように思えます。この傾向は、これか
らの薬用植物研究の発展に大きな支障をきたす危険性があると思われます。このよう
な厳しい状況を少しでも変えていけるように、薬用植物資源研究センターの一員とし
て、種子島研究部で今後も熱帯・亜熱帯性の薬用植物の資源収集、保存、育成および
有効活用法の関する研究に取り組み、薬用植物研究の基盤を支える一助となれるよう
努力したいと思っています。