新たな年を迎えるにあたり、読者の皆様に、この場をお借りして本年の展望と抱負を申し述べさせていただきます。

 昨年は京都大学山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。先生の研究を支援してきたJSTとしてもまことに喜ばしく思います。山中先生が受賞の翌日に、この日を「科学者としての仕切り直しの最初の朝」と研究への新たな決意表明をされたように、本年が日本の再生・復興をさらに加速するための新たな年となることを祈念しております。

 山中先生は、2003年10月から2009年3月までJSTが支援するCRESTの研究領域「免疫難病・感染症等の先進医療技術」の研究代表者として、倫理問題を有する胚性幹(ES)細胞に代わる理想的な幹細胞の作製と、その再生医療への応用を目指した研究を実施されました。この中から、2006年に人工多能性幹細胞であるiPS細胞の樹立に成功し、これが今回の受賞につながっています。

 iPS細胞以外でも、JSTでは、自治医科大学の間野博行教授が2007年に肺がんの原因となる新しい融合遺伝子EML4-ALKを発見し、それからわずか4年足らずの2011年にファイザーが「クリゾニチブ」で米国FDAの承認を得、日本でも2012年に承認されました。このように、トップサイエンスから新たなイノベーションが生み出されるようになりましたが、特に創薬につなげる上での問題は山積しています。

 昨年の6月、内閣官房医療イノベーション会議において「医療イノベーション5か年戦略」が策定され、その後、「日本再生戦略」に取り上げられなど、医薬品関連産業は重要な成長分野として期待されています。この戦略では、基礎から実用化までの弱点を補強し一貫した支援を実施することで創薬力を強化する「創薬支援ネットワーク」などの具体的な施策が示されており、本年は、内閣官房医療イノベーション推進室が中心になって関係省庁、関係機関を牽引し、医療システムや医療産業に新たな変革が生まれていくことを期待しています。また、総合科学技術会議のライフイノベーション戦略協議会では、医薬品、医薬機器、再生医療等の開発研究が実用化に近づいている研究領域で、強力なマネジメントが必要であるとの議論がなされました。今後、安倍新政権のもとで、見直しが図られると想定されますが、府省を超えた課題達成型研究開発プログラムやライフイノベーション基盤の整備等が本格化していくものと期待しています。

 さて、地球温暖化や少子高齢化への対応、国の財政赤字の削減、若者の雇用確保、次世代人材の育成等どれを見ても、「待ったなし」の状況にあります。このためJSTでは、昨年春スタートした中期計画で、科学技術をベースにしたイノベーションにリソースを集中することを掲げて、バーチャル・ネットワーク研究所としての経営に着手しました。本年は、イノベーション拠点の育成とネットワーク化、他ファンディング機関との連携、国際化の推進、関係省庁や大学、産業界とのパイプの強化など新たな変革に本格的に取り組むつもりです。従来の慣習にとらわれることなく、システムやルールを変革して、大きな成果を生み出していきたいと考えています。