昨年は当社にとって記念すべき年であった。自社抗体技術ポテリジェントを応用した第一号抗体医薬「ポテリジオ」が、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)の治療薬として認可され、患者さんに届けることができたからである。今年は、喘息を適応とした抗IL-5受容体抗体(KHK4563)や、組み換えアンチトロンビン製剤(KW-3357)など、ポテリジェント技術を応用した複数の自社バイオ医薬の治験が進捗し、臨床効果や上市時期がイメージできるようになるだろう。

 一方で、昨年当社は、富士フイルム社と合弁で協和キリン富士フイルムバイオロジクス社を設立し、バイオシミラー事業に参入した。両社が有する抗体製造関連技術を応用し、高品質のバイオシミラー医薬をより安価に提供することを目的としている。今年は昨年着手した、抗TNFα抗体アダリムマブと、抗VEGF抗体ベバシズマブのバイオシミラー医薬品の研究開発を加速することになろう。昨年は、当社の核酸創薬にも大きな転換点となった。siRNAは、相補的な塩基配列を有する標的mRNAを触媒的に破壊し、コードされている標的タンパクの発現を特異的に抑制することが可能である。しかし、その実用化には目的とする組織や細胞にsiRNAを効率的に送達するドラッグデリバリーシステム(DDS)開発が必須である。当社は、多様な専門分野の研究者を東京リサーチパークに集結させDDSの開発を推進している。マウスモデルではあるが、静脈内投与で移植した腫瘍内にsiRNAを送達し、標的となるタンパクの発現抑制と腫瘍塊の縮小までを達成することが出来た。今年は、臨床開発を目指してプロセス開発や非臨床試験を推進して行くことになろう。

 2008年に、抗体新薬の研究開発を旗頭としてスタートした協和発酵キリンが、なぜ、バイオシミラー事業に参入したり、核酸医薬に積極的に乗り出したりするのか?とよく聞かれる。これは抗体創薬の現状認識に基づいている。当社は現有の自社抗体パイプラインの臨床開発を確実に行っていくことで将来の収益基盤の構築を急ぐ。しかし、有望な標的抗原がほぼ枯渇した現状では、今後も継続的に新たな開発候補抗体を創出し続けることは難しい。バイオシミラーは医療経済的ニーズに沿って事業展開するものであり、新薬に比べて上市確率も高いと期待できる。しかし、収益性と製品化できる品目数には限りがあろう。他方、核酸医薬は基本的に抗体が作用出来ない細胞内の標的を制御して病態の改善を期待するものである。臨床応用にはまだいくつもハードルが控えているものと予想するが、2020年以降の当社の研究開発において抗体医薬からうまくバトンを引き継ぐことを念頭においてチャレンジを続けて行く。

 昨年ノーベル医学生理学賞の対象となったiPS細胞技術の応用から、疾患の治療に役立つ創薬標的が数多く見出されることが期待され、世界中で競争が激化している。新薬としての実用化の段階では、細胞内の創薬標的に選択的に作用する核酸医薬は、大きな可能性を秘めている。事業環境は今後も厳しさを増すだろうが、これまで以上に社外の研究能力とも連携して創薬イノベーションを成し遂げて行きたい。