冬のスポーツといえば、スキーですが、観戦する立場からすると、アイスホッケーは見逃せません。昨夜のアイスホッケー全日本選手権も第3ピリオド残り5分までは王子製紙が3:0で圧倒しており、8シーズンも苦渋を嘗めてきたかつての王者、王子製紙の復権は堅いと誰もが思ったはずです。しかし、ここから試合は急展開、立て続けに日本製紙が得点を決め、3:2と追いすがりました。残り1分、キーパーを引っ込めフォワードを投入した全員攻撃も熾烈を極めましたが、土俵際で王子製紙が耐え、優勝の栄冠に輝きました。アイスホッケーの魅力は何といっても息もつかせぬスピード感です。久しぶりにアドレナリンが出るほど興奮いたしました。

 さて、バイオでも勿論、スピード感は不可欠です。

 今朝ほど、厚労省の担当官から12日に開催される厚生科学技術審議会技術部会の事前説明を受けました。ここでひょっとしたら明治以来初の快挙が行われることが判明、嬉しくて皆さんにまず報告いたします。厚労省という腰の重い役所にしては珍しく、Proemptive(先取り)してiPS細胞の臨床研究の倫理審査体制を整えることを決めたようなのです。

 正直びっくりしました。

 どんな規制や新薬の審査を行う場合でも、「申請が無いのだから検討できない」との言い訳を私の経験では30年以上も聞かされてきた、わが国の行政機関の”優等生”であった厚労省が、まだ申請も行われていないのにiPS細胞の臨床研究の申請が行われることを事前に予測して、倫理審査の体制をどう対応するかを、技術部会に諮るというのです。申請の内容がノーベル賞受賞するiPS細胞であることと、12月開催後は3月まで技術部会の開催までたまたま時間が空くという特殊事情が重なったとはいえ、ある意味の快挙であると考えます。日本も変わりつつあるのですね。

 山中4因子(3因子)である転写調節因子の遺伝子を細胞に導入してiPS細胞を樹立します。そのため、導入した遺伝子は残らないといってもiPS細胞を移植するのは、遺伝子操作の臨床研究とも考えられます。現在、厚労省が持つ、遺伝子治療臨床研究に対する指針とヒト幹細胞臨床研究に関する指針、そして臨床研究の倫理指針の少なくとも3つの指針が、iPS細胞の臨床研究に関係します。中でも遺伝子治療とヒト幹細胞の臨床研究は厚労大臣承認が必要であるため、作業部会で申請内容を精査します。もし仮に、2つの指針そのまま当てはめようとすると、審査結果の齟齬も起こりうるし、加えて審査の時間が不必要にかかる可能性があります。国のiPS細胞の研究を推進するという大号令を受けつつ、一方でiPS細胞という未経験の細胞移植をきっちっと患者の安全性を担保する審査を行わなくてはならない。担当官の懊悩が伝わってくるようです。

 臨床研究の責任者は、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの高橋政代プロジェクトリーダー。加齢黄斑変性の患者に対し、患者の細胞から樹立したiPS細胞を使って、網膜色素上皮細胞を分化誘導、その細胞シートを患者に移植して、まずは安全性を確かめる臨床研究に着手します。本人にはまだ確認していないのですが、報道によると12年10月25日に神戸の理化学研究所の倫理委員会に臨床研究を申請、11月19日に認可を受けました。実際に患者に移植するのは、神戸市の先端医療振興財団の先端医療センター病院と神戸市立中央市民病院となる予定で、両施設の倫理委員会にも臨床研究の申請が行われています。当初は年内に実施機関の倫理委員会の承認を受けて、厚労省に申請を行う予定でしたが、まだ両施設とも倫理委員会の承認を与えていない模様です。従って、厚労省への申請は来年1月となる見込みで、12月に審査体制の了承を部会から得ないと、3月まで折角申請されたiPS細胞研究の審査が店ざらしとなる最悪の事態を迎える可能性があったのです。

 12日に多分了承されるだろうというiPS細胞の臨床研究の審査体制は、基本的にヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会が担当する。但し、遺伝子導入による細胞の変化など技術的な議論も必要なため、遺伝子治療臨床研究作業部会からも、臨時委員として何人かの委員がヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会に参加するという大岡裁きです。できれば臨床研究の先を見据えて、医薬品・医療機器総合機構(PMDA)からも審査会に委員を派遣すべきであると望んでいます。今回の審査では世界で初めてのiPS細胞の臨床応用が審査されます。そうした審査を担う知見を持つ本当のプロフェッショナルを招聘しなくてはなりません。学者だけで決めるのは、危険であると考えております。安全性確保と臨床評価のプロである薬事の経験者がどうしても審査に必要不可欠であると考えます。臨床研究を論文稼ぎの基礎研究で終わるという非倫理的な結果に終わらせないためにも是非ともPMDAの審査への関与を、心から望んでいます。

 豪雪や冷え込みに気をつけて、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満
ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/