水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 3連休最終日の夕方に飛び込んできた、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授によるノーベル生理学・医学賞受賞の報には、驚きを感じると同時に、やり方を間えなければ日本のバイオ産業の浮上つながるのではないかと期待を膨らませています。

 驚いたというのは、山中教授がこのタイミングでノーベル賞を受賞したことに対してです。昨今の傾向からすると、基礎科学的な研究であっても、ノーベル賞は実社会に寄与するようになってから授賞されるものだと思っていました。山中教授の発見がノーベル賞級のものであることは確信していましたが、ノーベル賞を受賞されるのは臨床応用や創薬への貢献を果たしてからだと思っていたので、“読み”がいい方に外れました。

 山中教授のノーベル賞受賞の報を受けて、バイオ分野に対する世の中の関心が高まっています。株が上がればいいというわけではありませんが、昨日、ジャパン・ティッシュエンジニアリングやタカラバイオの株価が大きく上昇するなど、一般投資家の関心が細胞工学や再生医療の分野に向かっているのは確かです。今日の日経新聞の朝刊には、文部科学省がiPS細胞の実用化研究に対して、今後10年にわたって総額200億円から300億円の助成を行う方針を固めたと報じていました。ライフサイエンスの研究、特に薬事承認を経なければならない実用化研究は、息長く支援を受けられるかどうかが重要です。山中教授のノーベル賞受賞をきっかけに、ライフサイエンスに光が当たり、バイオ産業の浮上に結びついていくことを強く期待しています。

 ただし、iPS細胞の実用化までの道のりはそうたやすいものではないと見ています(また、“読み”がいい方に外れるといいのですが)。実用化という観点では、まずは創薬研究などへの応用が期待されますが、その場合もiPS細胞の樹立効率の改善など、まだ技術的課題が残っています。臨床応用となると、加えて安全性と有効性を実証するという大きなハードルが控えています。そして、創薬研究、臨床応用など、いずれの場合においてもそうですが、iPS細胞の技術が常に問われるのは、「iPS細胞でなければならないのか」ということです。取扱いやすさやコスト、用途などを考えれば、疾患によってはES細胞(胚性幹細胞)の方が適しているケースがあるかもしれません。患者自身の細胞を利用するにしても、本当にiPS細胞を利用する必要があるのか、造血幹細胞など、他の幹細胞の方が適していることもあるでしょう。もちろん、iPS細胞の基礎研究の成果は、ES細胞や、他の幹細胞の研究にも多大な影響を及ぼすものですが、iPS細胞の産業利用となると、「iPS細胞でなければならない」という用途を見いだしていくことが重要になります。

 逆に、バイオ産業の振興という観点から行くと、「iPS細胞だけでいいのか」ということを常に考えておかなければなりません。「やり方を間違えなければ」と思ったのはその辺りです。iPS細胞の可能性は大きいですが、それを代替するものを見落としていないか、バイオ産業の振興にはどういう戦略を取るべきか、関係者にはしっかりと考えていただきたいものです。

 日経バイオテクONLINEでは、山中教授の研究を2003年から報道してきました。日経バイオテクONLINEを「iPS」という言葉で検索すると、先週までに1200件を超える記事を掲載していました。そこで、本誌では、皆様が山中教授の功績とiPS細胞の可能性やその課題を理解する一助となるよう、日経バイオテク特別編集版を電子出版形式で発行することにしました。詳細は、日経バイオテクONLINEや、メールマガジンなどでご紹介しますので、どうぞご利用ください。

 山中教授のノーベル賞受賞の興奮が冷めやらぬうちに、パシフィコ横浜でBioJapanが開催されました。12日には山中教授の講演も予定されています。本日はこの話を詳しく書くつもりでしたが、時間が無くなってしまいました。皆様、会場でお会いしましょう。

http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=037847

 また、11月12日には日経バイオテクプロフェッショナルセミナー「個別化医療におけるゲノムデータベースの活用」を開催します。日本各地で整備が進められているゲノム関連のデータベースが、実際に医療や創薬の中で有効に活用されるのか、あるいは医療や創薬の観点ではゲノムデータベースはどうあるべきか、といったことをテーマに、製薬企業や規制当局も交えて議論する予定です。製薬企業からは、エーザイの小田吉哉バイオマーカー・パーソナライズド・メディスン機能ユニットプレジデントにご参加いただきますぜひとも皆様のご参加をお待ちしています。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/121112/

 本日はこのあたりで失礼します。

 なお、何度か紹介していますが、日経バイオテクONLINEに掲載した記事のうち、機能性食品に関する話題のみを提供するサービス、環境・農業に関する話題のみを提供するサービスを開始しました。食品関係者、環境バイオ、農業バイオの関係者は、こちらのご利用をぜひともご検討ください。

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 また、日経バイオテクONLINEでは、皆様からの「人材募集」「セミナー・学会」「技術シーズ」などの告知の掲載コーナーも設けています。「人材募集」は大学、公的研究機関の研究者個人による募集告知のみ無料としていますが、「セミナー・学会」「技術シーズ」の告知については、大学などの事務局の方による告知等も受け付けています。ただし、企業による告知はいずれも有料とさせていただいています。

 特に人材募集のコーナーは利用者も多く、投稿いただいた方からご好評をいただいています。一度登録すれば何度でもご利用いただけるので、どしどしご利用ください。

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                    日経バイオテク編集長 橋本宗明