こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 本日は午前中から、慶応大学の芝共立キャンパスで、日本学術会議と日本薬学会が主催するシンポジウム「医薬品の安全を科学する薬学」を取材しています。

 医薬品の毒性にトランスポーターの多型が大きく影響し、それを予測するためのモデリング&シミュレーション技術が進展しつつあるという理化学研究所の杉山雄一先生の講演は、いつも通り分かりやすくお聞きできました。例えば薬物の相互作用を全ての薬剤において検証することは不可能なわけで、副作用を予測する技術の進展には大いに期待がかかります。既に米FDAがガイドラインの中にモデリング&シミュレーションの考えを取り入れつつあるということで、シミュレーション技術の発展によっては医薬品の開発手法がこれから大きく変わるかもしれません。

 それから、放射線医学研究所の須原哲也先生のPETイメージングの話も印象的でした。抗精神病薬であるドーパミンD2受容体には、第一世代と呼ばれるものと、副作用を軽減した第二世代と呼ばれるものがあります。その違いは、第二世代は用量設定試験においてPETイメージングを利用し、D2受容体の占有率が70%から80%の幅に収まるように用量を決めたことにあるそうです。占有率が80%を超えると、錐体外路症状というD2受容体の阻害に伴う副作用が現れることが分かったため、第二世代では臨床効果を示しつつ、錐体外路症状が現れない用量にうまくコントロールするようになったわけです。つまり、化合物としては第一世代よりも第二世代の方が必ずしもいいとは限りません。須原先生も、「第一世代よりも第二世代の方が副作用が少ないデータがあるのは、臨床試験で対照薬に使われた第一世代の医薬品の用量が副作用を起こしやすいものだったためではないか」と指摘していました。続けて、「特許が切れた古い薬も今のサイエンスで見直すということをやるべき」と語っておられました。昨今、医薬品の研究開発効率の低下が指摘されていますが、古くからある医薬品の用量や投与方法などを見直すことが新しい治療などに結び付く可能性もありそうです。

 また、東大医学部付属病院の鈴木洋史先生の講演も非常にインパクトがありました。東大病院の薬剤部長である鈴木先生は、キナーゼを阻害する分子標的薬であるスニチニブとソラフェニブに関して、それぞれどのキナーゼを阻害しているのかを調べ、スニチニブでは阻害しているけれどソラフェニブでは阻害されていないキナーゼを幾つか見つけ出しました。このうち1つのキナーゼがスニチニブの副作用に深く関与していることを突き止め、マウスによる実験で肝臓や心臓において毒性が現れるメカニズムも明らかにしました。その上で、スニチニブの肝臓や心臓での毒性を抑える方法を考案してマウスで効果を確認し、これから臨床研究で毒性を改善できるか、あるいはスニチニブの投与量を増やせるかを検証する計画だと話されていました。鈴木先生の研究は、臨床現場で起こったことを基に非臨床研究に戻り、メカニズムの解明や新しい治療法の開発に結び付けるという意味で、“リバーストランスレーショナルリサーチ”として紹介されていましたが、臨床現場の使用経験に基づいて医薬品を改良し、さらなる有効な使い方を模索するのは、これからの医薬品開発の1つの方向でもあります。今後こうした研究がさらに発展することを期待します。

 先週のメールでも紹介しましたが、日本PGxデータサイエンスコンソーシアム(JPDSC)と本誌は、11月12日に共催のセミナー「個別化医療におけるゲノムデータベースの活用-ゲノムデータベースは創薬と医療に役立つか-」を東京・秋葉原で開催します。JPDSCは国内製薬企業6社からなるコンソーシアムで、日本人の健常人3000人分の一塩基多型(SNP)データを集めたデータベースを構築しました。今後、臨床試験中に副作用が発生した場合に、そのリスク因子を解析するためのコントロールのデータベースとして製薬企業などに提供する計画です。セミナーでは、JPDSCのデータベースの有用性なども講演いただきます。こうした事例も、医薬品開発の成功確率を高める取り組みとして注目できると思います。

JPDSC、GWAS解析のための健常人コントロールデータベースを公開
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120918/163278/

 また、個別化医療におけるゲノムデータベースの活用のセミナーでは、日本各地で整備が進められているゲノム関連のデータベースが、実際に医療や創薬の中で有効に活用されるのか、あるいは医療や創薬の観点ではゲノムデータベースはどうあるべきか、といったことをテーマに、製薬企業や規制当局も交えて議論する予定です。製薬企業からは、エーザイの小田吉哉バイオマーカー・パーソナライズド・メディスン機能ユニットプレジデントにご参加いただきます。ぜひとも皆様のご参加をお待ちしています。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/121112/

 話題は変わりますが、日本政府が尖閣諸島を国有化した問題が、中国で予想以上の波紋を広げています。隣国としてこれからも長く付き合っていかなければならない国同士なのに、どうしてうまく事を運ぶことができないのかと思ってしまいます。ちょうど日経バイオテクでは12月5日から7日にかけて、北京で中国の製薬企業との商談会を開催しようと計画していたので、参加希望の企業の方々からいろいろとお問い合わせをいただいているところです。

 今後の状況次第で計画の見直しを迫られる可能性もありますが、現時点においては、開催が12月とまだ2カ月以上先なので、多少のスケジュールの遅延はでるかも知れませんが、大きな問題はなく開催できると考えています。ただし、混乱した状況が長引く場合には、早めの決断をする予定です。

 この商談会は第一次の締め切りは10月1日で、それまでは参加費は1社1名15万円(2人目以降は1名5万円)とさせていただいていますが、10月2日以降になると1社1名20万円(2人目以降は1名5万円)とする予定です。参加を検討いただいている方は、なるべく10月1日までにお申し込みいただくようにお願いします。

 なお、開催が難しいと判断して中止した場合には、既にお振り込み済みの参加費は全額をお返しします。その旨もご了承ください。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/121205/

 さて、10月は10日から12日まで、横浜市のパシフィコ横浜でバイオジャパン2012が開催されます。開催初日の基調講演は、日本製薬工業協会の手代木会長、FDAの元局長のvon Eschenbach氏、三菱ケミカルホールディングスの小林社長が登壇するということです。また、今年のバイオジャパンは例年以上にパートナリングミーティングに力を入れていると聞きます。製薬企業だけでなく、最近は機械メーカーや化学メーカーにも広がりつつあるオープンイノベーションの動きを加速するためにも、BioJapanの機会を大いに利用いたしましょう。

 日経バイオテクもメディアパートナーとして、BioJapan2012の話題をフォローしていきますので、ご参加の皆様はぜひ横浜でお声掛けください。

http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=037847

 本日はこのあたりで失礼します。

 なお、何度か紹介していますが、日経バイオテクONLINEに掲載した記事のうち、機能性食品に関する話題のみを提供するサービス、環境・農業に関する話題のみを提供するサービスを開始しました。食品関係者、環境バイオ、農業バイオの関係者は、こちらのご利用をぜひともご検討ください。

日経バイオテクONLINE機能性食品版はこちらをご覧ください
https://bio.nikkeibp.co.jp/ffood/

ご購読のお申し込みなどはこちらから
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/food/

日経バイオテクONLINE環境・農業版はこちらをご覧ください
https://bio.nikkeibp.co.jp/env/

ご購読のお申し込みなどはこちらから
http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/env/

 また、日経バイオテクONLINEでは、皆様からの「人材募集」「セミナー・学会」「技術シーズ」などの告知の掲載コーナーも設けています。「人材募集」は大学、公的研究機関の研究者個人による募集告知のみ無料としていますが、「セミナー・学会」「技術シーズ」の告知については、大学などの事務局の方による告知等も受け付けています。ただし、企業による告知はいずれも有料とさせていただいています。

 特に人材募集のコーナーは利用者も多く、投稿いただいた方からご好評をいただいています。一度登録すれば何度でもご利用いただけるので、どしどしご利用ください。

投稿について、詳細は下記をご覧ください
https://bio.nikkeibp.co.jp/help/manual.html

 ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。

 https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

                    日経バイオテク編集長 橋本宗明